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606話 屋台街の影

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606話 屋台街の影

カナエとナギが屋台街へ飛び込んでから、まだ数分しか経っていない

なのに――

「……どんだけ食べるの」

気づけば2人の両手は、すでに食べ物でいっぱいになっていた

「せっかく来たんだから、食べないと!!」

「……食べきれるかな」

カナエは元気いっぱいに答え、ナギは自分の手にある食べ物を、本当に食べきれるのか不安そうに見つめていた

「そんなに買って……お金は大丈夫?」

「まだまだ大丈夫だよ! 半分も使ってないし」

2人の両手には、同じ種類でも味が違う食べ物がぎっしり。パンに味付けされた肉を挟んだものや、串に刺した肉をじっくり炙った串焼き、豪快にかぶりつける骨付き肉、そして甘さが引き立つ串焼きリンゴまで――

これだけ買っても、日本円でおよそ2500円ほどにしかならない。2人合わせても5000円だから安い方だ。日本で同じだけ買おうとしたら、軽く1万円は超えるだろう

「そっか……まぁどれだけ食べてもいいけど、欲しいのがあっても知らないからね」

「それは……お兄ちゃんにお願いしたら、まだくれないかな?」

「……」

そう言うカナエに対して、ベルはジト目で見つめていた

「さ! 食べて次行こう!」

カナエはベルの目から逃げるようにして、買ってきた食べ物にかぶりついた

それからベルに促され、2人は街中のベンチに座り、ゆっくりと食べ進めた

「ベルドさん、これあげる」

「食べたくて買ったんじゃないの?」

「カナエに流されて買ったけど、僕こんなに食べられない」

ナギは肉を挟んだパンを全部食べきったものの、串焼きや骨付き肉は一口かじっただけで、もう限界がきたようだ

「カナエちゃんにあげたら?」

「それでもいいんだけど、ベルドさん何も食べてないでしょ?」

ベルは2人の後を追うだけで、特に何も買わず、ただ付いていただけだった

「確かにそうだね」

「だから、お腹すいてるんじゃないかなって思って」

「俺は大丈夫だよ?」

「口つけちゃってるけど……もう食べられないから、あげる」

ナギの優しさなのか、それとも単にお腹が限界なのか、ぐいっと差し出してきた。

ベルはそんなナギの手から、あっさりとそれを受け取った

「ありがとう」

「うん、食べて」

受け取ってくれたことに、ナギは少し笑顔を浮かべた。

ベルは一口かじり、ゆっくりと味わうように咀嚼する

「……美味しいね」

「でしょ?」

ナギの笑顔が、さらに嬉しそうに広がった

「あ……僕、飲み物買ってくるよ」

(白い依頼人、こっちを見てた……ベルドさん、気づいてくれるかな)

「一人で行ける?」

(あれか……)

「うん、さっきお店の場所見たから行けるよ、二人は待ってて」

「オッケー、ここで待ってるね」

「ナギ、気をつけてね!」

「うん」

そう言いつつ、ナギは一人で白い依頼人のもとへと向かった

「心配だから一応後ろついてくから、カナエちゃんはここで待ってて」

「えっ、私置いてくの?」

「後で金貨追加してあげるから、ちょっと待ってて」

「ぶ〜……そういうことなら待ってるね」

カナエはむくれながらも、素直にベンチへ腰を下ろした

「うん、お願い。あと、もし何かあっても無抵抗で従って、必ず助けてあげるから」

「? よくわかんないけどわかった!」

「それじゃ」

そう言ってベルはナギの少し後ろを追いかけていった

―――

「カゲ、次の依頼だ。カールン王国に向かい、王女アリアを暗殺しろ」

「……ごめんなさい、無理です」

「お前の仕事は静かで確実だと評判がいい。やってくれ」

「無理です……僕はもう、人を殺したくありません」

「いいのか。殺し屋のままでいれば平穏に暮らせるが、殺し屋を辞めるということは、逆に命を狙われるということだぞ」

「それでも、僕は辞めます」

「そうか……それは残念だ」

「急にごめんなさい」

ナギは敵のはずの白い依頼人に申し訳なさそうに頭を下げた

「構わない。人である以上、誰であれ事情は変わるものだ。カゲの場合は隣にいた2人の娘のためだろ?」

「……はい」

「なら構わない。我らとカゲの接点はここで断ち切る。今後、我らからの依頼はカゲに頼むことはない」

「ありがとうございます」

「関係を切るということは、守ることもできなくなる。覚悟はしておけ」

「はい」

「これで本当のさよならだ、ではな」

白い依頼人の言葉を聞いた直後、ナギの身体から力がふっと抜けた。

こわばっていた肩が緩み、浅く息を吐くと、手元から震えが抜けていった

それは、辞めると伝えたときに覚悟していた「最悪の結果」が来なかったことへの、ほっとした反応だった

「……ありがとうございます、本当に」

ナギは小声で繰り返すように呟き、目を伏せてからそっと顔を上げた

白い依頼人は裏路地の奥へ歩みを進め、そのまま姿を消した