608話 白い依頼人の末路
608話 白い依頼人の末路
その瞬間、扉の開く音が静かな空間に響いた
一拍の沈黙が流れ――
「お前たち、ちゃんと攫ってこれたかい?」
ベルたちのいる空間に足を踏み入れ、地面に倒れる仲間たちを見て、思わず目を見開いた
「あんた達! 何があったんだ!?」
「あなたは、手を出しちゃダメな人に手を出しちゃったんだよ」
ナギが哀れみの籠った声でそう呟いた
「カゲ、これは一体なんだ、説明しなさい」
「あなたはこの人を怒らせたの、だからもう終わり」
「……あぁ、探偵ごっこしてたお嬢ちゃんね。何が目的?」
「あなたを捕まえるのが目的」
白い依頼人がそう聞いてくると、ベルは簡単に答えた
「あなたみたいな弱そうな子に、私が捕まると思ってるの?」
「余裕、余裕」
そう軽く流し、悪い笑みを浮かべながら笑っていた
「そう? でも残念」
白い依頼人は余裕の笑みを浮かべ、右手を前に出して何かを握るように手を閉じた
「これで君たちはもう動くことは出来ない、残念だったね」
ベルの横にいたカナエとナギは、全身がまったく動かず、声も出せない。
必死に体を動かそうとするものの、思うように動かず、心の中で「このままだと捕まる……!」と恐怖が駆け巡っていた
「私の前に姿を出したのが間違いだったね、私を舐めすぎよ」
「……」
ベルは静止したまま、白い依頼人の挑発を意に介さず見据えていた。
その目は揺るがず、まるで周囲の出来事すべてを計算しているかのようだった
「さて、こんな可愛い子を二人も殺すのはさすがに勿体ないわね……黒髪の方は処女なら金貨10枚~50枚、違うなら5枚~20枚。白い方は最低でも白金貨1枚~青天井、たとえ非処女でも相当な価値がつきそう」
白い依頼人は薄汚い笑みを浮かべ、お金に目が眩んでいた。
しかしベルは、そんな薄汚い計算もまるで気にかけていないかのように冷静に構えていた
「カゲは……」
顎に手を置き、静かにナギを見つめながら考えを巡らせる
「まぁいいか、辞めるやつに生きるという選択肢はない」
そう言うと、地面に転がる剣を拾い上げ、ナギの首を狙って勢いよく振り下ろす
――ナギは体が動かず、声も出せず、恐怖に凍りついた
「無駄だよ」
ベルは静かに手を伸ばし、振り下ろされている剣にデコピンした
――ドンッ!
ベルのデコピンを受けた剣は白い依頼人の手からすっぽ抜け、壁に突き刺さる
「2人とも、俺がいるから安心して」
ナギは動けないまま安堵を感じ、心の中で小さく息をついた
「っ!? お前、どうして動ける!!」
「だって、私、支配系の魔法は効かないんだもん!」
ベルは女の子だと思われていることをいいことに、悪戯っぽくにこっと笑いながら、ちょっとふざけて答えた
「そもそもさ、支配系の魔法とかスキルって、自分より強い人には効きにくいんだよ。知らなかった?」
「そんなの知らん。今まで使ったやつ全員が動けなくなったからな」
「まぁ、そうだよね……あなた、それなりに強いしさ」
「だからなんだ」
「いやね……あなたの支配が私に対して効かないってことは、君が私に勝てるわけがないってこと」
「ふっ、それはどうかな」
そう笑った瞬間、ナギがベルに銃を向けていた
「どうする? 私の支配は、一度でも見た相手のスキルを使わせることも出来るのよ?」
「だから?」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる白い依頼人に対し、ベルは特に気にする様子もなく、余裕の笑みを浮かべていた
「そうか、せっかく高値で売れそうだから生かしてやろうと思ったが……残念だ」
ナギの体が無理やり動かされ、銃口がベルの頭に向けられる
「死ね」
その一言で引き金が引かれる
バンッ!
銃弾がベルの頭へと迫る。だがベルは微動だにせず、そのまま頭に弾丸が直撃したが、物の見事に弾き返された
「なっ……!」
ベルは冷ややかに白い依頼人を見据えた
「残念だったね……私を殺すにはまだ早いようだ」
「おかしいだろ……そいつの弾丸は何人も殺してきたんだぞ、なぜ耐えられる!」
「そんなの簡単じゃん。カゲくんは、もう既に私に負けてるの。負けてなきゃ、私の味方になんてなってないよ」
白い依頼人の表情が一瞬、驚きと焦りで歪む。
手に力を込め、さらに攻撃を仕掛けようとするが、その眼差しにはためらいが生まれていた
「どうする? 大人しく捕まってくれたら痛い思いしなくて済むよ?」
「……これならどうだ」
ナギの銃が効かないと知った白い依頼人は、今度はカナエを動かし、ベルの背後へと回す。そしてカナエの腕をベルの首に回させ、ギュッと締め上げる絞め技をかけさせた
しかし、ベルは体勢を崩すことも、苦しそうに声を漏らすこともなかった
「残念、前にやられたけど効かないんだよね」
ベルは首を締められても、余裕そうに笑っていた
「ふざけんなよ! なんなんだよお前は!」
「私ね……私は君を捕まえる人、そしてこの2人の保護者です」
『転移』
さすがに邪魔になったベルは『転移』で目の前に移動し、カナエの腕から抜け出した
「さて、そろそろ大人しく捕まろうか」
「ふざけんじゃないよ!」
白い依頼人がそう声を荒らげると、地面に転がっていた物が宙へと浮かび上がり、それらが一斉にベルめがけて飛んでいった
『結界』
「無駄な足掻きだね」
ベルが手を伸ばすと、その場に不可視の結界が展開され、白い依頼人が飛ばしてきたものは全て結界に阻まれ、力なく地面へと落ちた
「クソが!」
飛び道具が通じないと悟った白い依頼人は、今度は殴りかかろうと勢いよく走り出した――
ゴンッ!
次の瞬間、ベルの張った不可視の結界に顔面から突っ込み、鈍い音を立てて弾き返された
「なにやってんの、馬鹿だね〜」
ベルは結界を解除し、倒れた白い依頼人の顔を覗き込むようにしゃがみこんで言った
白い依頼人は無様にも鼻血を流し、白目を剥いて気を失っていた
「……あ、鼻血出てる。うわぁ、これは痛そう」
ベルは軽く眉をひそめながらも、どこか楽しそうに呟いた
その直後、支配で動けなくなっていたカナエとナギの2人は、白い依頼人が気絶したことで支配が解け、再び体を動かせるようになった
「う、動ける!!」
「助かった……」
「ずっと止められてたけど、体おかしいとことかない?」
「うーん……私は大丈夫そ」
「僕も大丈夫」
「そっか、なら良かった」
「それより、僕の弾丸受けて頭大丈夫?」
ナギは白い依頼人に体を操られ、自分のスキルで銃を作り、ベルの頭を撃ってしまったことを気にしているようだった
「全然大丈夫だよ?」
「……それでも、僕が撃ったのは変わらないから」
ナギはうつむき、苦しそうに拳を握りしめた。
ベルはそんなナギを見て、そっと微笑む
「ナギは悪くないよ。支配されてたのはわかってるし、それに……」
ベルは軽く頭を指差して、にこっと笑う
「ほら、ちゃんと無傷。弾も当たったけど弾いちゃったし、ね?」
「……本当に、痛くなかったの?」
「うん、蚊に刺されたくらい?」
ナギは安心したように小さく息を吐き、それでもまだ心の奥で申し訳なさを拭いきれない表情をしていた
ベルはナギとカナエの頭を軽く撫で、安心させるように笑った
「もういいの。ほら、カナエちゃんも無事だったんだし、なんの問題もなし!」
ナギは小さく息を吐き、ようやく心の奥の申し訳なさも少し和らいだようだった