610話 昨日の分を、平和で中和する
610話 昨日の分を、平和で中和する
白い依頼人を捕まえた次の日――
「雨、降ってるねぇ〜」
ベルは自分の部屋でのんびりと、窓の外の雨を眺めていた
「ベルお兄ちゃん、何してるの?」
「ん? 雨見てるの〜」
部屋に遊びに来たメルちゃんにそう答えた
「面白い?」
「どうだろうね〜、のんびりしてていい感じだよ」
「私も見るー!」
窓の縁に手をかけ、ひょいっと背伸びして外を覗いた
「雨だね〜」
「そうだね〜、たくさん降ってるね〜」
二人はのんびりと雨の降る外を眺めた
「……ベルお兄ちゃん、遊ぼ〜?」
「もう飽きちゃったの?」
「飽きた!」
メルちゃんは窓からくるっと離れ、ベルの顔を見てニコッと笑った
「そっか、何して遊ぶ?」
「鬼ごっこしよ!」
「いいよ。でも、鬼ごっこは2人だとつまんないから、みんな呼んでおいで」
「わかった!」
「いつもの遊び場に集合ね、そこなら雨でも大丈夫だから」
「うん!!」
そう言ってメルちゃんは部屋を飛び出して行った
「子供は元気でいいね〜」
そう考えながら、ベルも遊び場へとゆっくり向かった
《マスターも年齢的にはまだまだ子供ですよ?》
《なに、俺も子供みたいにはしゃげってこと?》
《いえ、見た目的には子供たちの中に混ざって遊んでいる方が自然ですけどね》
《なんだ、子供体型って言いたいのか?》
《そうとも言いますね》
ベルは内心でくすっと笑い、軽く肩をすくめた
《まぁなんでもいいけどさ、事実なんだし》
そう返し、ベルも急いで遊び場へと向かった
「遊びたい子たちは集まったかな?」
「呼んできたー!」
「遊ぶー!」
遊び場に集まっていたのは、城に住む子供たち。 そしてカナエとナギも、さらにテレスたち3人も来ていた
「じゃあ簡単にルール説明ね。最初の鬼はジャンケンで負けた人が鬼で、鬼が決まったらすぐに1分のカウントダウン開始、0になったら追いかける、だからみんなすぐに逃げるんだよ」
「うん!」
「鬼にタッチされたら10秒その場でストップ、10秒経ったらタッチされた子が次の鬼になるよ」
「わかった!」
「時間は……30分、最後に鬼だった人の負け!」
簡単に今回の鬼ごっこのルールを説明した
「それじゃあ、最初の鬼決めよっか! ジャンケンするよ!」
ベルはそう言って右手をあげた
「最初はグー!」
「ジャンケン!」
「ポン!」
その合図とともに、全員が手を出し、それぞれの勝敗を見比べた
「なんでぇー?!」
「やったー!」
喜びの声の中に、1人だけ違う声が混じっていた
「テレスお姉ちゃん鬼!」
「逃げろ〜!」
その声を合図に、子供たちは一斉に散開していった
「なんでみんなパーで、私だけグーなの?」
「運がなかったってことで、仕方ない」
「14人いて1人負けって、さすがに悲しいわね」
「まぁ仕方ないよ。とりあえず、子供たちはいいとして、俺たちおっきい子組は、子供たちを追いかける時は手加減してね。それ以外は本気でもなんでも好きにやればいいよ」
ベルはそう言って、テレス、ミーファ、レミア、カナエ、ナギの5人に伝えた
「カナエちゃんとナギくんに伝えとくね、この女の子3人組はバケモンだから、本気で逃げないと一瞬で捕まるから気をつけて」
「こんなに可愛い子たちがバケモン?」
「そんなに早いの?」
「うん、見ればわかる」
2人にそう伝えていると、横からツッコミが入った
「ちょっと! 自分の婚約者に向かってバケモンってなんなのよ!」
「事実じゃん?」
テレスのツッコミに、ベルは笑って返した
「ベルくんは私たちにも手加減してくれるんだよね?」
「さて、どうしよっかな〜」
ベルはとぼけるように笑ってみせた
「絶対してよね! 本気で逃げたら、私たちが束になってもベルくんを捕まえるのなんて無理なんだから!」
「はーい」
そう言い残して、ベルも軽く距離を取った
「よし! 行くよ!!」
その声を合図に、最初の鬼のテレスが走り出す と同時に、空間の上空に大きなホログラムのタイマーが浮かび上がり、360度、どこからでも見えるように光を放った
鬼の最初の標的に選ばれたのは
「きゃーー!」
「待て待て〜!」
楽しげな悲鳴をあげながらテレスから逃げているのはメルちゃんだった
「メルちゃん、待ちなさい〜!」
「やーだー!」
メルちゃんは草の上をぴょんぴょん跳ねながら逃げ、テレスは笑いながらその後を追う。 その様子を少し離れた場所から見ていたカナエが小声で呟いた
「……なんか平和でいいね」
「まぁね。昨日は色々あったから、その分を今日の平和で中和しないとね」
ベルは小さく笑いながらそう答えた
「……あ、ナギくんがアヤちゃんに取られてるよ」
「ほんとだ」
ベルがそう言って指をさすと、カナエはその方向へ視線を向けた。
それを確認したベルは、そっと距離を取った
「タッチ!」
「え!?」
よそ見をしているうちに、カナエはテレスに背後を取られ、あっさりタッチされてしまった
「やったね!」
喜びの声を上げ、テレスは逃げて行った
「引っかかったな愚か者め! 油断するからこうなるのだよ! ふははは!」
「ナギの話って、私を油断させるため?」
「今頃気づいたか! ははは!」
悪ふざけ全開のベルはそう言って距離を取った
「も〜! ずるいよ!」
「だから最初に教えたでしょ! バケモンだから気をつけてって!」
「確かに……ぐぬぬ、反論できない……」
(10メートルくらい離れてたし、一瞬くらい目を離しても大丈夫だと思うじゃん)
カナエは頬をふくらませながら、悔しそうにベルを睨んだ。
10秒を待ってから、カナエは勢いよく走り出した
「行くよー!」
その後も鬼は何度も入れ替わり、あっという間に30分が経っていた
「それじゃ、最後に鬼だったのは誰かな?」
ベルが首をかしげながら聞くと
「ナギお兄ちゃん!!」
「ナギお兄ちゃんだよ!」
メルちゃんとアミちゃんの2人が元気よく答えた
当の本人はというと――
「みんな早いよ……」
みんなに囲まれて、地面に大の字で倒れ込んでいた
(数値的には体力とかも同じくらいなんだけど、こうなるってことは……単なる運動神経の問題かな)
ベルはカナエとナギを見比べ、静かに考えていた
その後も子供たちに混ざって遊び、賑やかな時間が過ぎていった