LNCrawler

620話 食後は別腹

転生して進化したら最強になって無双します — novelba.com · All chapters

620話 食後は別腹

アリア様とのお茶会から随分と時間が過ぎ、気がつけば夕食の時間が近づいていた

コンコンコン

「お嬢様、ご夕食をお持ちいたしました」

「どうぞ」

「失礼いたします」

そう言って、扉が静かに開かれた

「どちらでお召し上がりになりますか?」

「じゃあ……そこで」

ベルは部屋に置かれていた丸机を指さした

「かしこまりました」

そう答え、指定された机へと料理が丁寧に並べられていく

「お好きなものや苦手なもの、それから食べられないものが分からなかったため、数種類ご用意させていただきました。苦手なものや食べられないもの、また量が多くて食べきれない場合は、どうぞお気になさらず残していただいてかまいません。それでは、お楽しみくださいませ」

そう告げると、料理を運んできたワゴンを押し、静かに部屋を出ていった

「……量が多くて食べきれなければ気にせず残してください、じゃないんだよ。多いよ!!」

ベルは並べられた料理を見つめ、静かに、しかし確実にツッコミを入れた

指定したのは直径1メートルほどの丸机。

その天板が、ほとんど見えなくなるほど料理で埋め尽くされている

「俺なら大丈夫だけど、こんなの普通の人だったら確実に食べきれないからね?」

《最大限のおもてなしですよ。ありがたく受け取りましょう》

「……そうだよね。いただきます」

そう言って優しく手を合わせ、静かに呟いた

そして目の前に並べられた料理に手を伸ばし、ゆっくりと食べ始める

パンにスープ、そして肉・魚・野菜を使ったメインディッシュ。

どれも彩り鮮やかで香りも良く、食欲をそそった

「さすが海に面してる国だね。海鮮が美味しい」

ベルはまず魚系のスープから口をつけ、続けて焼き魚のメインディッシュに箸を伸ばす。

しっとりとした白身に、柑橘の風味がほんのりと効いていて、思わず表情が和らいだ

「ん、これも美味しい……焼き加減も絶妙」

次に手を伸ばしたのは、野菜をたっぷり使ったスープ。

とろとろに煮込まれた根菜と、優しい塩味が口の中に広がる

「こういうの、地味だけど好きなんだよね」

最後に、じっくり煮込まれた肉料理をひと口

「うん、こっちはこってりしてるけど、ちゃんと下味が染みてて美味しい……でもちょっと量多いかな?」

そう呟きながらも、ベルはどの料理にも満足そうに箸を進めていった

やがてすべての皿が空になり、机の上には食べ終えた器だけが整然と残されていた

「……量が多くても、これは全部丁寧に作ってくれたんだろうしね。残すのはもったいない」

コンコンコン

そこへ、料理を下げに来た使用人が控えめに扉をノックする

「失礼いたします。お下げしてもよろしいでしょうか?」

「うん、お願い」

使用人は静かに入室し、空になった皿を見て思わず目を見開いた

「すべてお召し上がりに……! いえ、ありがとうございます」

「美味しかったよ。ありがとう……でも私はなんでも食べられるから、次からは一人前くらいでお願いって伝えてくれると嬉しいな。さすがにお腹が爆発しちゃうからね……いや、冗談じゃなくて真面目に?」

「かしこまりました。次回からは適量をご用意させていただきます。それから、食後のデザートを複数ご用意しておりますが、どうなさいますか?」

「複数?」

「はい。フルーツの盛り合わせ、プリンという名前の甘いスイーツ、そしてケーキも何種類かございます」

「選んでいいの?」

「はい。外にご用意しておりますので、実際にご覧になってからお選びになりますか?」

「じゃあ、見てから決めようかな」

「かしこまりました。では、まずはお皿を片付けさせていただきますね」

そう言って、使用人は空になった皿をワゴンへ丁寧に回収し、静かに部屋を後にした

そして間もなく、別のワゴンを押して再び戻ってくる

「お待たせしました。この中からお好きなものをどうぞ」

ワゴンの上には、色とりどりのフルーツが美しく盛り付けられたフルーツ盛り合わせ。

グラスに入った艶やかなカラメルソースと、たっぷりのホイップが添えられた特製プリン。

さらにショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキ、ミルフィーユ、モンブラン。

フルーツミルフィーユやフルーツタルトなど、華やかなデザートがずらりと並んでいた

「どうしよう、迷う……」

ベルはスイーツを見つめ、しばらく唸る

「どちらでお悩みでしょうか?」

「これか……これ」

そう言って、チーズケーキとフルーツミルフィーユを指さした

「お2つともお召し上がりになりますか?」

「え……いいの?」

「はい。こちらはお嬢様のためにご用意したものですので、いくつでも召し上がっていただいて構いません」

「じゃあ、これと……これを貰います」

「かしこまりました」

ケーキが机に並べられ、再び尋ねられる

「他にお召し上がりになりたいものはございますか?」

「えっと……じゃあこれも」

ベルはチョコケーキを指さした

「かしこまりました」

「もう大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「かしこまりました。後ほどお皿の片付けに参りますので、ごゆっくりどうぞ」

使用人が部屋を出ると、ベルは小さく息をついた

「こんなに貰って、ほんとに良かったのかな?」

《“お嬢様”のために用意したと言っていましたから、いくつ貰っても大丈夫だと思いますよ》

《ならいいけど……あと、メイドのお嬢様はスルーしてるけど、ピクシーは“お嬢様”とか言わないで》

《すいません》

《よろしい。あの人は俺のことを知らないからいいけど、ピクシーは知ってるんだからやめてね》

《はい》

軽くピクシーに説教したあと、ベルは机のケーキに目を向けた

「まずはフルーツミルフィーユ!」

ケーキフォークを手に取り、すっと切ってひと口

「んっ! これだよこれっ。ミルフィーユにはミルフィーユにしか出せない、最高の味と食感……美味しい……」

目を輝かせながら、ベルはミルフィーユを頬張る

「ミルフィーユって作るの面倒だから、普段は作らないし……こういう時じゃないと食べられないんだよね……最高っ!」

目元はとろけ、口元は緩みきっている。

心の底から幸せそうに、ミルフィーユを味わっていた

《こんな光景を目撃したら、誰が見ても女の子にしか見えませんね》

《どうせいつものことなんだから、いいの!》

そう言い返しながらも、ベルは食べる手を止めない

「次は……チーズケーキ!」

フルーツミルフィーユを食べ終え、そのままの流れでひと口

「チーズケーキはいいね……この少しの酸味と、なめらかな食感……大好き」

幸せそうな表情のまま、そう呟いた

《ほんと、マスターってスイーツ好きですよね》

《昔に比べたらね》

《そういえばマスターは前世ではあまり食べていなかったんですっけ?》

《うん。甘味自体苦手だったからね》

《それが今では……》

《体が変わって、味覚自体も変わったと思うからそれかな。あとはテレスたちに付き合ってたら、いつの間にかこうなってた》

そう言いながら、ベルはもうひと口すくって口へ運ぶ

「……美味しいね」

《普段食べる時も、今みたいに可愛い表情を出せばテレス様方も喜ぶと思いますよ?》

《それはやだ。色々いじられるの目に見えてるから絶対やだ》

ベルが誰かと食事をする時、表情に出るのは「美味しいんだな」と分かる程度。

理由は、自分の顔がとろけているところを見られたくないかららしい

それから少しずつ味わいながら、チーズケーキを食べ進めた

「あれ……もうなくなっちゃった」

どこか名残惜しそうに、空になった皿を見つめる

「仕方ない……最後のチョコケーキ!」

気を取り直して、ひと口

「やっぱりチョコケーキも美味しいね。しっかり甘いのに、しつこくなくて……口の中でとろける感じがたまらない」

相変わらず緩んだ表情で呟く

《今更ですけど、ケーキを3つ選びましたよね? マスターはどのケーキが一番お好きなんですか?》

《どれも好きだけど……一番はチーズケーキかな》

《そうなんですね。てっきり、一番最後に食べてるチョコケーキが一番お好きなのかと》

《チョコは他のケーキに比べて味が濃いからね。だから最後にとっておいたの》

《なるほど……そういうことでしたか。納得です》

《そういうこと》

ベルはチョコケーキを、一口一口、嬉しそうに味わっていった

「ふぅ……美味しかった」

計3つのケーキを食べ終え、満足そうに息をつく

その直後――

まるで見られていたかのような完璧なタイミングで、扉がノックされた