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625話 逃げられなかった結果

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625話 逃げられなかった結果

ベルがアリアの用意したドレスへと着替え終えたあと

「これでいいの?」

《完璧です。パニエなども、先ほど分身が整えてくれましたので、全て完成です》

背中のボタンを留めてもらう際に出した分身が、そのままピクシーの指示のもと、ドレスのスカートの中を丁寧に整えてくれていた

「ならいいや……はぁ、無駄に疲れた……」

そう言いながら、ベルは肩を落とす

《髪はどうしますか? セットするなら分身へ指示を出しますが》

「髪はいいや、もうめんどくさい」

好きでもないドレスを、即着も使わず1つずつ着ていく。

それだけで十分に疲れてしまったようだ

ベルが大きくため息をついていたそのとき、部屋にコンコンとノックの音が響いた

「ちゃんと着替えた?」

アリアが部屋を出てからそれなりに時間が経っている。

そろそろ突入しようと考えたのだろう

「着替えましたよ」

「そう? なら一応、確認だけさせてね」

そう言いながら、そっと扉を開けて、アリアが部屋へと入ってきた

「……さっすが私!」

アリアは目を輝かせながら、ベルの姿を見て両手を胸の前で組んだ

「私の見立ては完璧だったわ! 最高に可愛い!」

アリアの絶賛を受けるベルを包んでいるのは、水色のオフショルダードレス。

胸元には小さなリボンが飾られ、パフスリーブの袖口にはレースのフリル。

どこを見ても可愛らしい意匠が詰め込まれている

なかでも、オフショルダーラインにあしらわれたフリルは、まだ幼さの残る鎖骨や肩をやさしく彩り、可愛さをさらに際立たせていた

視線を下へ移すと、華やかでふわふわのスカートが目を引く。

レースのフリルが何層にも重なり、見事なボリュームを作り出している

さらに、歩いたときにだけちらりと覗く白色のストラップシューズ。

そこにあしらわれた赤いリボンが、さりげないアクセントになっていた

引きで見ると、苦しみながら締めたコルセットのおかげで、上はシュッと、下はふんわりという完璧なドレスラインが完成している。

そこに加わるのは、ベルの美しく滑らかな純白の長髪と、紅と翠の宝石のような瞳

――世界一の美少女。

冗談ではなく、本気でそう言えるほどの、国宝級……いや、神器級の可愛さが、そこには存在していた

「どうしよう……こんなに可愛いと、誰にも見せたくなくなっちゃう!」

目を輝かせながら、アリアはテンション高く叫ぶように言った

「見せたくないなら着替えますよ?」

「ダメ……私の許可なく着替えることを禁じます」

さっきまでの浮かれた声が嘘のように、アリアの声は真剣そのものだった

「でも、見せたくないんじゃ?」

ベルは着替えるチャンスを逃すまいと、強い意志で食い下がる

「それはただの例えよ。あなたが可愛すぎて、独り占めしたくなるくらいってこと」

「着替えるチャンスが……」

「どんだけ嫌なのよ」

「大切な人を敵に回してでも逃げようかと考えるくらいには」

「相当ね……ほんとに良かったの?」

アリアは、ベルがどれほど着たくなかったのかを今さら実感し、少し心配そうな表情を見せた

「それ、今聞きますか? 着た後に言われても、もう遅いです」

「それもそうね。でも、ドレスは嫌いでも、私のことは嫌いにならないでね」

(こんな可愛い子、逃がしたくないし)

「さっきまでは優しくていい人だと思ってましたが、人の嫌がることを無理やりやらせる酷い人に格下げです」

「それは酷い! じゃあ後でケーキでも何でも、ベルの好きなものを用意してあげるから! お願い、私の評価を“優しい人”まで戻して?」

アリアは、自分の評価がどこまで落ちたのかを知り、物で釣ってでも引き上げようと必死だった

「……じゃあ、ケーキ5ホールくらい用意してくれたら、ちょっとだけ修正してあげます」

「任せなさい! 最高級のケーキを5ホール、用意してあげるわ!」

アリアはベルからの評価を取り戻すため、全力を尽くすつもりだった

「期待はしません」

「え、私ってそんなに信用ないんだ?」

ベルの素っ気ない返事に、アリアは少しショックを受けたようだった

「……とりあえずケーキはしっかり用意するから、お茶会の場所へ行きましょう!」

そう言われ、これから屋外の庭園へ向かうことを思い出す

「その前にいいですか?」

「ん? どうしたの?」

「これだと寒くないですか?」

ベルの着るドレスはオフショルダーで、肩や腕がそのまま外に出ている。

今は十二月の中旬だ、こんな格好で外に出れば、寒いのは確実だった

「寒いと思うよ?」

「え、何か羽織とか」

「……あ、もしかして持ってない? 持ってないなら用意するけど」

「いえ、どうしたらいいのか気になって」

「そっか。ベルはアイテムボックスが使えるから、持ってると思って用意してなかったんだよね。寒かったら遠慮なく着ても大丈夫よ」

「分かりました」

《ピクシー、首周りと肩、それから腕が温くなるくらいの、なにか簡単なの作って》

《分かりました。扱いやすさなどを考え、肘から肘より少し下あたりの丈のケープをお作り致します。デザインはマスターの好みに合わせますね》

《……ケープ? ってのが何か分かんないけど、任せる》

ベルは空間収納の穴へと手を突っ込み、ピクシーにお願いをした

「一応、上に羽織る前提で、寒い日でも大丈夫な温かいドレスを選んだつもりだけど……もっと暖かい方がいい?」

少しだけ首を傾げながら、ベルは相手の様子をうかがった

「いえ、大丈夫ですよ」

「そう? ならいいけど」

「はい。それに……私にはこれがありますからね」

そう言ってベルは、空間収納からピクシーに作ってもらったものを取り出した。

それを見て、アリアがほっとしたように表情を和らげる

「なんだ、いいの持ってるじゃない。可愛いし、とっても暖かそうね」

アリアは少し安心したように、やさしく微笑んでいた

「はい」

《これがケープ?》

《はい。ケープとは、簡単に説明するとマントのような形状の防寒着ですね》

《そっか、ありがとう。見た目もいい感じ》

《はい。マスターの好みに合わせ、桜の花びらが舞うようなデザインに仕上げました。それから、全身が暖かくなる付与も施しているので、それを羽織っていれば、例え凍えるような極寒の中でも快適に過ごせます》

《ありがとう》

そうお礼を言い、慣れた手つきでケープを羽織った

「似合ってるわね。じゃあ行こっか」

「はい」

そうして二人は、お茶会の会場である庭園へと向かった