626話 逃げ場のないお茶会
626話 逃げ場のないお茶会
ベルがドレスへと着替えてから庭園へと向かうと、お茶会の予定場所には既に二人の人影があった
「あら? もう集まっていたのね。お待たせ」
既に集まっていた二人へと、アリアが声をかける
「いえいえ、お気遣いなく。私たちも今来たところですから」
「全然大丈夫だよ」
二人は特に気にした様子もなく、そう答えた
「なら良かったわ。アマリアさんが来たら、始めましょうか」
「はい」
「分かりました」
(アマリアさん? ちょっと待って、流石に人違い……だよね?)
楽しそうに話す三人とは裏腹に、ベルの胸の内には、もう一人来る予定の人物への警戒心が芽生えていた
「お待たせしました」
その声が響いた瞬間、ベルの不安は見事に的中していた
「みんな揃ったことだし、先に紹介するわね。この子、みんな初対面でしょ?」
アリアの背後に隠れていたベルは、背中を軽く押され、前へと出されてしまう
「あ、えっと……」
「可愛いでしょ? お父様のお客さんらしいんだけど、あまりに可愛かったから、つい連れてきちゃったの」
「とっても可愛いですね。このまま食べちゃいたいくらい」
「見たことありませんけど、妖精さんみたい」
「あなた……」
それぞれがベルの可愛さに反応する中、アマリアだけは無言でベルの顔をじっと見つめていた
(ダメダメダメダメ!)
ベルはアマリアと目が合うと、慌てて視線を逸らす
「……もしかして、知り合いだった?」
「ううん、気のせいだったみたい。妹の友達に似てたから、ちょっとびっくりしただけ」
「そっか、ベルに似てる子がもう一人いるなんて最高ね。それじゃあ始めましょうか、お願い」
アリアの言葉と同時に、どこからともなくメイドたちが現れ、あっという間にお茶会の準備が整えられた
用意された席は全部で五つ。
それぞれの席の後ろには、二人のメイドが付き添っている。
一人は椅子を引くため、もう一人は控えるように立って待機していた
参加者がどの席に座るかによって、担当するメイドも決まる仕組みのようだった
「みんな、好きな場所に座ってちょうだい」
「はい」
ベルはできるだけアリアから離れようと、そっと反対側の席へ向かおうとする――
「……あ、あなたは逃げそうだから私の隣ね」
その瞬間、アリアに手を取られ、くいっと引き戻されてしまった
「はい……」
結局ベルは、しょんぼりと肩を落としながら、アリアの隣に座らされることになった
(はぁ……なんで俺こんな格好で、こんなところに……護衛に来ただけのはずなんだけどな)
ベルが心の中でため息をついている間にも、メイドたちは手際よく動き、いつの間にかテーブルの上には、上品な紅茶と色とりどりのスイーツが美しく並べられていた
花が咲くような香りが漂い、紅茶の湯気がほのかに立ち上る中、お茶会は静かに始まりを告げる
「さあ、改めて。せっかくだし、みんなで自己紹介から始めましょう? 初めて会う人もいるからね」
アリアが優雅に微笑みながらそう促すと、他の参加者たちも頷き、カップを手に取りながら順に口を開く準備を始めた
「まずは私から――アリア・ティア・カールンよ。よろしくね」
そう名乗り、アリアはにこりと微笑む
「じゃあ次は私かな――私はアマリア・ティア・マーベルドよ、よろしく」
(この人がいなければ、いくらかマシだったのに……)
にこやかに自己紹介を終えるアマリアを横目に、ベルは心の中で小さく文句をこぼした
「……私はミルディ・フォン・カガリンです。よろしくね」
ミルディはもう一人の参加者とさりげなく視線を交わし、軽く頷いてから、落ち着いた笑顔で名乗る
「次は私ね! 私はニャルナ・フォン・フォルマーだよ、よろしく!」
元気よく手を上げるようにしながら、満面の笑みで自己紹介をしていた
「次は私……ですね。ベルです」
先ほどまでの四人とは天と地ほど違うテンションで、ベルは淡々と名乗った
「……それだけ?」
「はい」
「貴族の証とか、家名は?」
「ちゃんとありますが、諸事情により名乗れません」
「どうして?」
「諸事情により名乗れません」
「王族二人に、公爵家の子が二人。名乗りづらいとか、そういう理由じゃないの?」
「それは別に。ただ名乗れません」
「そっかぁ……ここでベルの家名や貴族の証が聞けたら、どこにこんな可愛い子がいるのか分かると思ってたのに。残念……」
アリアは心底がっかりした様子で、しょんぼりと肩を落とした
「……まぁいいわ。楽しいお茶会を始めましょ!」
気を取り直すようにそう言って、アリアが優雅に紅茶に口をつける
本格的に、お茶会が始まった