632話 特別入学
632話 特別入学
ベルが馬車に乗ってお城を出発してから、約10分後。馬車は静かに学園の正門前へと到着した
「さ、行くわよ」
「……はい」
ベルはアリアに手を引かれるようにして馬車を降りた。
するとその瞬間、学園にいた生徒たちの視線が一斉にベルへと注がれた
「なんで私、こんなに見られてるの?」
ベルは少し身をすくめるようにして尋ねる
「あなたが可愛いからよ……と言いたいところだけど、普段から私を見てる子たちが、隣に見慣れない子がいるから気になってるのよ」
「……なるほど」
「そんなことより早く行きましょ。まずはベルが学園に入る許可をもらわないと」
「はい……」
ベルはまるで“お姉ちゃんに手を引かれる妹”のような格好で、アリアに導かれながら学園長室へと歩いていった
やがて学園長室の前にたどり着き、アリアが扉をノックする
コン、コン、コン
「どうぞ」
中から聞こえた返事に、アリアが扉を開ける
「失礼します」
2人は部屋の中へと入っていった
「アリアさん、朝からどうしましたか?」
机に座る学園長が顔を上げ、2人を見て声をかける
「学園長、私の隣にいるこの子を――短期間で構いませんので、学園へ通わせてほしいんです」
「なるほど……許可が必要ということは、規定の年齢に達していないのだね?」
「はい。ですが、お父様からこの子に関する親書を預かっています。どうぞ、お読みください」
そう言って、アリアは国王から預かった親書を学園長に手渡した
「読ませてもらいます」
学園長は封を開け、中を静かに読み進める
(……なるほど、国王陛下のご判断ならば異論はないが……性別の記載がないな?)
一瞬だけ視線を上げ、ちらりとベルに目を向ける学園長。
けれどベルは無表情で、何も言わず立っていた
(まあ、見たところ――)
「わかりました。今日より短期間ではありますが、特別に学園への入学を許可します。ただし、学園内には危険な場所や訓練区域もありますので、その間はアリア様のそばにいてください」
「はい。ありがとうございます」
アリアが軽く頭を下げ、ベルもそれにならってぺこりと小さく礼をした
「面接とまでは行きませんが、その子と2人でお話させてください」
「わかりました。私は外で待っています」
「はい」
学園長はアリアが部屋の外に出たのを確認してから話し始めた
「ベルさん……で、よろしいかな?」
「構いません」
「一つだけ聞いてもいいかな。制服、どうする?」
「制服ですか?」
「そう。特別に許可するとは言え、そのままだと目立つでしょ? だから希望するなら制服を用意してあげるよ」
「どちらでも構いません」
「わかった。じゃあ用意させよう」
そう言うと、机の上に置かれたハンドベルをチリンチリンと2回鳴らした。
――すると、どこからともなく1人の人物が部屋の中に現れた
「学園長、御用でしょうか?」
「うん。その子を今日から短期間、特別入学させるから制服を用意してあげて」
「わかりました」
そう返事をすると、おもむろに懐から細長いメジャーを取り出し、手早くベルの体の寸法を測り始めた
「用意しますので少々お待ちください」
そう言って、またすぐに消えてしまった
「すぐ用意されると思うから待ってね」
「はい」
「女の子の制服は男の子と比べたらすぐに出来ると思うから、その間に色々聞かせてね」
「あ、アリアさんにはぼかしてますが、俺一応男です」
「あ、そうだったの? てっきり……」
「はい。今はぼかしてるので、アリアさんも俺のことは普通に女の子だと思ってるはずです」
「そうなると、シャノも女子の制服を用意すると思うけど、どうする? 変えるなら今だけど」
「……親書に俺が何を目的で連れてこられたのか書かれていたと思いますが、違和感なくってのが第1なので、しょうがなくそれを受け入れます」
「そう。あなたがそれでいいならいい。一応伝えとくけど、女子だからってスカートじゃなくてズボンでもいいからね」
「それならズボンでお願いします」
「ならそう伝えるよ」
そう言ってもう一度ハンドベルを鳴らそうとすると
「お待たせしました、制服のご用意が出来ました」
「あ、早かったね」
「はい。待たせてはいけませんからね」
「それはいいんだけど、どっち用意した?」
「女性用の制服ですね。現在のお召し物に考慮して、スカートではなくズボンの方をご用意しました」
「……さすがね、シャノ。あなた完璧」
「光栄です」
そう言って、軽く頭を下げた
「そこにある扉の先は今は誰もいないから、そこで着替えてきなさい」
「わかりました」
「どうぞ」
ベルが返事をすると、シャノが丁寧に制服を差し出した。
ベルはそれを受け取り、少しだけ深呼吸してから隣の部屋へと足を踏み入れた