634話 魔法学の教室へ
634話 魔法学の教室へ
ベルはアリアに手を引かれ、学園の廊下を歩いていた
「――あ! アマリア、ちゃんと生きてたんだね」
「失礼ね。私はちゃんと生きてるわよ」
そう返しながら、アマリアがくるりと振り返る。
そして隣のベルに気づくと、少し表情を変えた
「って、あなたもいたのね」
「無理やり連れてこられました……」
ベルはどこか力ない声で返した
「だって昨日みたいに問題行動されたら困るじゃない? だから私が監視するために連れてきたの」
「監視されてるのは、どっちなんでしょうね……」
(なに口滑らせてるの……?)
アマリアの不用意な言葉に、ベルはアリアの後ろからじとっと視線を送る
「ううん、それがいいわ。その子は何をしでかすか分かったもんじゃないから」
「でしょ? 学園長にも許可はもらってるし」
「……そうみたいね。制服も着てるし……しかも、黒」
アマリアは少し引き気味に目を細めながら、ベルのラインの色に目を止めていた。
――予想通り、といった表情で
「昨日アマリアに“ベルはヤバい”って聞いてたけど……私も、こうなるとは思ってなかったわ」
「黒って、そんなに変ですか?」
「一応言っとくけど、この学園でいちばん魔力が多い先生でも“金色”なのよ?」
「昨日、誰かさんのせいで少し知ってるかもしれませんが……アマリアさんの妹のテレスさん。その子も私と同じ“黒”になると思いますよ」
「……ごめんって」
「そんなに魔力量が多いの?」
「簡単に見た感じ、“金”の判定は100万から1000万程度。それを超えてるので、当然“黒”になります」
「……え?」
「……は?」
アリアとアマリアは、想像を遥かに超える数値に、顔を見合わせて絶句していた
「そもそも1000万以上の人なんて滅多にいませんし、“黒”の基準もあってないようなものですけどね」
「……あなたの小さい体のどこに、そんな魔力が詰まってるのか気になるわ」
アマリアは、もはや呆れたように呟いた
「ベルがヤバいのはもうわかったから。さ、授業を受けに行くわよ!」
アリアはベルの返事も待たず、当然のようにその手を取って教室へと向かっていった
そのまま引っ張られるようにして、ベルも廊下の奥へと連れていかれる
「ここ、私が1限目を受ける教室よ」
ベルたちが立ち止まった先には、“魔法学”と記された教室の扉があった
「魔法学ですか?」
ベルが問いかけると、アリアはにっこりと笑って答える
「うん、今日は“魔法”の日ね。週の初めに適当に書いたら、今日はずっとそれ系の授業ばっかりになっちゃった」
「……そんな感じで決めていいんですか?」
「もちろん。でも、適当でもちゃんと出しとかなきゃいけないのよ? 提出しなかったら、先生が勝手に決めちゃうから大変なの」
そう言ってベルの手を引き、そのまま教室の中へと入っていった
教室の扉が静かに閉まり、空気が少し張りつめる
中に入ると広々とした扇形の講義室になっていて、5つの長机が弧を描くように並び、合わせて100人ほどの生徒たちが着席できるようになっていた。
階段状に作られた座席は教壇を中心に高くなっており、後方の席からでも講師の動きをしっかりと見ることができる
毎回アリアは中央のブロックのちょうど真ん中あたりに座り、威厳と落ち着きを漂わせていた
「ここが私の席で、あなたは隣のここ……いい? 逃げちゃダメだからね」
「今更逃げませんよ」
ベルは言われた通り、その席に腰を下ろした
「ここって、誰の席って決まってないんですか?」
「決まってないわ。みんな自由に座っていいの。私はいつもここで、アマリアは――あそこ」
アリアは、教室の一番左手前のブロックを指さした
見るとアマリアは、5列ある座席の中でも、最前列の一番左端にぽつんと座っていた
「めっちゃ端っこですね」
「前に理由を聞いたら、扉が近くてすぐ外に出られるし、何よりここが1番目立たないって」
「……寝るため?」
「さあ? 私は気にしてないけど、たまに机に突っ伏してる時はあるわね」
「マーベルドの第1王女様でしょ、何やってるの……」
「まあ、アマリアだから。仕方ないのよ」
「なるほど」
(王女だから何も言えない、ってことか)
「アマリアが例え寝てたとしても、成績がずば抜けてるから誰も文句を言えないのよ」
実際、アマリアはこの学園に通う生徒の中でも、常にトップクラスの成績を誇っていた
それから教師が現れるまでのわずかな時間、アリアとベルは学園の制度や日常について、他愛もない話を交わしながら静かに待っていた