636話 囲まれてお昼ご飯
636話 囲まれてお昼ご飯
アリアとともに1限目の授業を受け、空間魔法を披露したことで、教室中の視線が妙にベルへと集まっていた。
けれど本人は気にする様子もなく、静かに授業を聞いているうちに、いつの間にか1限目は終わっていた
「ベル……ってば、ベル! 行くよ!」
「ん……ああ、忘れてた」
「何ボーッとしてるのよ。何回も呼んだのに、全然聞いてないじゃない」
ベルは授業が終わってからも、どこか上の空のままじっと座っていた。
視線は教壇の方を向いていたが、焦点はどこか遠くを見ているようだった
「ごめんなさい。もう大丈夫」
そう言って、ベルは静かに立ち上がった
「何考えてたの?」
いつの間にか横にいたアマリアが、少し不思議そうな顔で問いかけてきた
「いや、ちょっと考え事を」
(子供たちの様子を見てた、なんて言っても通じないよね……)
「隣見ても、ピクリとも動かないから寝てるのかと思ったわ」
アリアは少し呆れたように言った
「次に行きましょ。次は貴族学よ」
そう言ってアリアとアマリアの2人に連れられ、次の教室へと向かった
(貴族学か……エイルが全部やってくれるから、あんまり関係ないかな)
そう考えながら、ベルはまたぼーっとしていると、あっという間に2限目の授業が終わっていた
「おーい、また考え事?」
「いえ。ただ、何も考えてなかっただけです」
「……あなた、一応貴族なのよね? だったら、ちゃんと聞いておけばためになると思うんだけど」
「私は貴族の仕事はやらないし、ある程度はもう覚えてるので、大丈夫です」
「……そっか。まぁ、ベルくらいの美貌があれば、いい人なんてすぐ見つかるもんね」
(そんなの見つかってたまるか)
「この後は?」
「この後はお昼ご飯。それから3限目が魔力操作の実技、4限目がそのまま魔法の実技って流れ。5限目は魔法陣の仕組みの授業、6限目が特殊適性魔法についてね」
「ほんとに魔法ばかりですね……」
「文句があるなら、4日前の私に言って。あの時は、ほんと適当に書いてたから」
そう言ってアリアは、自分で言っておきながら半分笑っていた
「ま、行きましょ。お昼は食堂だけど、全部無料で食べられるからさ」
そう言って、アリアに案内されるがままに、ベルは食堂へと向かった
「――ということで、ここが食堂。昼休みはみんな一気に来るから、ちょっと騒がしいけどね」
案内されたその場所は、広々とした空間で、まるで休日のテーマパークのように生徒たちが押し寄せていた
「迷子になったら困るから――手、繋ぐ?」
「それ、今言います?」
ベルはツッコミながら視線を手元に落とす、右手はいつの間にかアリアに握られていた。
ふと左手を見ると、そちらもアマリアにしっかりと掴まれている
「あら、手間が省けたわね」
「ベルはちっちゃいから、ちゃんと掴んでてあげないと」
「……まるで歩行補助でもされてるみたいなんですけど」
両側をアリアとアマリアにがっちり支えられ、両手をつかまれたベルの姿は、傍から見ればまるで足元のおぼつかない幼子のようだった
「そんなの気にしなーい」
アリアが歩き出すと、それまでごった返していた生徒たちの間に、まるでモーゼの海割りのように隙間ができ、自然と進路が開かれていく
(王女の風格ってやつか……アリアさんも気にしてないってことは、これが日常……)
両側をがっちりと支えられながら、ベルは多少の居心地の悪さを感じつつも、されるがままカウンターへと連れて行かれていた
「さ、何食べたい?」
「全部無料だから、上に見えるメニューの中から好きなの選んでいいよ」
目の前のカウンターの上には、まるでフードコートのように、様々な料理の見本が魔法のスクリーンに映し出されていた
「好きなの……あ、あれがいいです!」
(この世界じゃ食べる機会がないやつ!)
ベルは映し出された一品に目を留めた
「どれ?」
「……あれです」
「“あれ”じゃわかんないってば」
「お寿司、食べたいです」
「おすし? ……おすしって何?」
「なにそれ? 聞いたことない……」
ベルが指を差そうとしても、両手はアリアとアマリアにしっかり握られていて、動かすことすらできなかった
「すいません、おすしって分かりますか?」
アリアがカウンターの中の人にそう聞いた
「その名前で呼ぶのは珍しいね。お寿司っていうのは魚握りのことだよ。地域によって呼び名が変わるんだ」
「へぇ〜初めて聞きました。ベルはそのお寿司ってやつでいいの?」
「はい!」
「じゃあお寿司1つと、他は何かいる?」
「大丈夫です」
「そう。じゃあお寿司1つと、私はローストビーフで。午後に備えてしっかり栄養取っておかないとね」
「私はこれ、鶏肉のクリーム煮」
「お寿司にローストビーフに、鶏肉のクリーム煮だね」
「はい」
「はい」
「あいよ、注文入ったよー!」
奥に声が飛ぶと、数秒後――まるで時間が飛んだかのように、温かい湯気を立てた料理が次々と並べられていく
「はい、お寿司にローストビーフ、鶏のクリーム煮ね。出来たてだから、火傷しないように」
「早っ……」
ベルが思わず漏らすと、アリアは少し得意げに微笑んだ
「これがこの学園の食堂よ。“できたてを数秒で”がここでは当たり前なの」
「さすがですね」
(なるほど……皿に状態保存の魔法陣が描かれてる。事前に大量に調理して、この皿に乗せることで、いつでも“出来たて”が提供できるってわけか。しかも全部“今日作られたもの”……いつから仕込んでるの?)
ベルは1人、感心していた
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
アリアとアマリアはようやくベルの手を離し、お礼を言って料理を受け取る
「あ、ありがとうございます」
ベルも少し遅れて頭を下げ、丁寧に料理を受け取った
「どこがいい?」
「どこでも」
「なら、いつものとこね。ちゃんとついてきてね」
そう言ってアリアが歩き出し、その後ろをベル、そしてアマリアの順でついていった
「ここ」
アリアはそう言って、机の上に料理を置いた
「ベルは私の横ね」
「強制ですか……」
「どこでもいいんだけど、反対側にはあと4人来ると思うわよ?」
「4人?」
「そう。いつもあなたを除いて、計8人で一緒に食べてるの」
「そうなんですね……」
ベルは少し遠慮がちに首をかしげた
「じゃあ、私、邪魔じゃないですか?」
「誰も気にしないでしょ。それに私が連れてきてる時点で、誰も文句言わないわ」
「はは……」
当然のように言い切るアリアに、ベルは少し呆れたように笑った
「緊張しなくても大丈夫よ。あなた、一応会ったことあると思うし」
アマリアがそう補足した
「会ったことある?」
「そう……会ったって言っても、遠くから見てただけかもしれないけど」
「いつ?」
「テレスの誕生会のとき」
「……?」
候補となる人物が多すぎて、ベルはピンと来ていなかった
「まぁ、来たらわかるわ。食べながら待ちましょ」
アリアがそう言って箸を手に取ったそのとき、ちょうど6人の人影がこちらに近づいてきた