638話 お昼ご飯と自己紹介
638話 お昼ご飯と自己紹介
みんなで挨拶をして、お昼ご飯を食べ始めた
「1番年上から自己紹介ってことは俺からか、家名とか名乗っとくか?」
「別にいいんじゃない? 正式な場って訳でもないし」
アリアがそう返した
「そっか、なら名前だけな。俺はシモン、ドルナード王国の公爵家長男だ」
赤い髪を無造作にかき上げながら、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべていた
「次は私かな。私はミアラ、シモンの1歳下の妹」
柔らかい口調と控えめな笑みを浮かべながら、ミアラは丁寧に名乗った
「私たちだね。私はミリア、マリアの双子の姉です」
「私はマリア、ミリアの双子の妹です」
瓜二つの2人は、示し合わせたようなタイミングと口調で自己紹介をし、どちらからともなく同じ笑顔を浮かべていた
「なるほどね。まともに会ったことないから覚えてないわけだ」
そう言って1人で納得していた
「あれ、会ったことなかった?」
「遠くから見ただけですね、名前はシモンさんとミアラさんのお父さんに聞かされました。なので名前は覚えてます」
「それはごめんね。ミーファとレミアのお兄ちゃんお姉ちゃんだから会ったことあるんだとばかり」
アマリアは「あっ」と声を漏らし、気まずそうに笑った
「あの時以外、帰ってきてないんですから関わってないに決まってるじゃないですか」
「そりゃ失礼」
軽く謝っていた
「ミーファの名前が出たってことは、君、あいつの友達か?」
「まぁ、そうなるかな。でも――何か気づいても、今は絶対に口に出しちゃダメよ?」
アマリアは声をひそめた
「言ったら、ベルと2人きりで個人面談コースだから……私、昨日それでちょっと泣いた……」
後半になるにつれて、どんどん声が小さくなっていった
「こんな可愛いのにアマリア泣かすとは中々やるな! 俺はアマリアが泣いてるのを1度も見たことねぇし、俺でもこいつを泣かせられる気がしねぇよ」
「ちょっとシモン! 恥ずかしいんだから掘り返さないでよ!」
「へいへい、何して泣かせたんだ?」
意地悪っぽく笑い、ベルに聞いていた。
それに対しベルは目線を泳がせ、ちょっと困ったように笑った
「ベル! あの時のシモンにもやってあげて! こう、ドンって感じで」
「いいの?」
「いいわ、私が許可する!」
「……こういうの、ですよね?」
ベルは顔を少し下げたまま、目だけでシモンを見上げた。
その瞳に宿る魔力が、無言のまま空気を圧迫する
冗談半分で聞いたつもりのシモンが、不意に冷や汗をかく
「……」
「それそれ! それを対面でやられたら誰でも泣くよ?」
実際にやられて、シモンは冷や汗を流して黙り、アマリアは横で満足そうに言っていた。
シモンだけでなく、周りのみんなもほんのわずかに魔力の余波を受けたようで、思わず目を丸くしていた
「……こんな具合です」
「ぷはっ……これは恐ろしい。この可愛い見た目から、こんな威圧感が出るなんてな……」
今まで息をするのを忘れていたのか、シモンは少し荒い呼吸をしながら、心底驚いた様子でそう言った
「ね、言ったでしょ」
「言ってた意味が分かったわ。俺が女だったら、泣いてたかもな」
ベルの威圧が解け、シモンはようやく軽口を叩いた
「許可をもらったとはいえ、シモンさんだけに圧をかけるつもりが、周囲にも漏れてしまっていました。すみません」
「別にいいのよ。食事は楽しい方がいいもの」
ベルの謝罪に、アリアが穏やかに答える
「ありがとうございます」
その後も簡単な世間話をしながら、みんなでお昼ご飯を楽しんでいた
(それにしても、異世界なのによくできてる……回らないお寿司って感じがする。本格的なお寿司がこの世界で食べられるとは思わなかった)
ベルは自分が選んだ寿司を一貫つまみ、心の中で感想をつぶやいた。
ベルの食べている寿司は、角の丸まった四角い少し大きめのお皿に、同じネタが3貫ずつ、計30貫が並べられていた
「美味しい?」
ベルの食べる様子を見て、アリアがそう尋ねた
「はい。思ってたよりも、かなり本格的な仕上がりです」
「へぇ〜。私は食べたことないけど、それは良さそうね。今度食べてみよっかな」
「食べてみます?」
「いいの? あなたの分がなくなっちゃうけど」
「構いませんよ。気になるものをどうぞ」
「気になるもの……」
アリアはベルの皿に並ぶ寿司をじっと見つめ、どれにしようかと吟味していた
「……見ても分かんないわね。ベル的には、どれがおすすめ?」
「王道なら、マグロとかエビ、あとサーモンですかね」
「……どれがそれ?」
名前を聞いても、アリアの表情は曇ったままだった。
どうやら、見た目ではどれがどれか判別できていないようだった
「見た目じゃ分かりませんよね。この赤いのがマグロ、ふわっとしててしっぽがついてるのがエビで、このオレンジのがサーモンです」
「この赤いのがマグロ……ねえ、食べて平気? 血の味とか、しない?」
「大丈夫ですよ。大丈夫じゃなかったら、そもそもメニューに載ってませんから」
「それもそうね。じゃあ、このマグロっての、もらうわ」
「どうぞ。既にソースが塗られているので、そのまま食べてください」
「わかったわ」
アリアはベルの皿からマグロを恐る恐る箸でつまみ、心の準備をするように小さく深呼吸してから――勢いよく、一口で頬張った
「……見た目に反して、なかなか悪くないわね」
「ですよね! ここって海に面してるから、新鮮な海産物が食べられるんです。だからこそ、このマグロも最高の――」
ベルは胸を張って力説していたが、途中でアリアに遮られる
「確かに美味しいけど……“最高”ってほどじゃないわ」
「……そうですか。なら、別にいいです」
ベルはピタッと口を閉じ、スンッとした顔で静かに食べ始めた。
学園の食堂では三ツ星レストラン級の料理がたくさん提供されているため、どうしても見劣りしてしまうのと、生の魚という点で抵抗があったのかもしれない
「あーあ、拗ねちまったよ。どうするんだ?」
「わ、私に言われても知らないわよ。感想を言っただけだもの」
アリアは困ったように肩をすくめて言った。
その横でベルは悲しそうな表情で俯きながら、寿司を食べていた