639話 お昼ご飯と小さな事件
639話 お昼ご飯と小さな事件
アリアの反応に落ち込んでいたベルの様子を見て、シモンが声をかけた
(仕方ねぇな)
「……なぁ、俺にも一つくれよ」
「……シモンさんも、食べてみたいんですか?」
ベルは少しムスッとした様子で聞いた
「おう、俺はこの学園に……ひーふーみー……八年だったか?」
「どこがよ、九年でしょ?」
シモンは指を折って数え、最終的にミアラにそう聞いて、呆れたように返されていた
「九年だったか……九年通ってるが、まだ食ったことねぇんだわ。マーベルドじゃ見たことないし、生の魚って聞くからちょっとな。だから誰かが食べてるところを見てから俺も試してみようって思ってたんだが、今の今まで誰も食べてるところを見たことなかった。だから一個でいいからくれないか?」
「そういうことなら……好きなのどうぞ」
そう言って、ベルは両手で皿を持って差し出した
「なんでもいいのか? そう言われると迷うな」
シモンも並んだ寿司を見ながら、どれにしようかとしばらく悩んでいた
「じゃあ、さっきエビって言ってたこれ、もらうな」
「どうぞ」
そう言われ、いざ食べようとしたシモンがふと手元を見て、苦笑した
「あ、やべ……俺、今日スプーンしか取ってなかったわ」
スプーンを持ち上げて見せながら、「はっはっはっ」と笑っていた
「じゃあなんでくれなんて言うのよ、スプーンでお寿司食べる気だったの?」
「忘れてたんだよ!」
シモンはミアラにツッコまれ、言い訳をしていた
「うちの兄がごめんね」
そう言って、何故かミアラが謝っていた
「大丈夫ですよ」
「ありがとう。今日私もスプーンだから貸せないから……ほら、さっさとお箸取りに行きな」
ミアラが呆れたように指差した
「ははっ、そうだな。悪ぃ悪ぃ、取ってくるわ!」
そう言ってシモンが席を立とうとした時、ベルに止められた
「待ってください。仕方ないので、そのまま口、開けてください」
「なんだ? ……ん?」
「えっ、嘘でしょ!? やめ――」
ベルが何をしようとしているのか察知したアリアが止めようとするも、
「はい、あーん」
「……ん?」
アリアの制止は虚しく、ベルは気にする様子もなく、自分の使っていた箸でエビを摘んでシモンの口へと入れた
「しっぽはちぎって出してくださいね」
ベルは当然のように言い、次にどれを食べようかとネタに視線を向けていた
「……」
「はぁ……」
シモンは驚きつつも口の中のエビを味わい、アリアは呆れたようにため息をついた
その様子を見ていた他のメンバーは、「今の見た?」とでも言いたげに目を見合わせていた
「どうですか?」
(こいつ全く気にしてないな、それなら俺も気にしないでおこう)
「思ってた味と全く違った、なんかもっとこう優しい感じなのかと思ったら、めっちゃあめーのな、なんだこれ」
「このエビが甘エビって言う種類のエビなので甘いんですよ」
「へぇ〜、物知りだな。その甘エビっての、俺好きかも。これならまた食べたいな」
「ならこれはどうですか?」
有無を言わせず、ベルは1つの寿司を箸で摘んでシモンの口へと押し込んだ
「ん! ……んぐっ……って、またかよ! けど……うまっ」
無理やり入れられて驚いていたが、そのまま味わっていた
「これもいいな、ねっとりした食感で甘みがある。これも俺好みだな」
「やっぱり、今のはイカって言うやつです」
「イカって言うのか、覚えておこう」
「じゃあ、次はサーモンいってみます?」
(横からの視線がこえーから、この辺で止めとかねーと)
「いや、もういい。上手いことがわかったからな、明日にでも自分で食べてみるよ」
シモンはこの場にいるベル以外の唯一の男の子で、そのため周りの女の子たちからの視線が、たった1人に突き刺さるように注がれていた
「そうですか、満足してくれて嬉しいです」
さっきまで拗ねていたのが嘘のように、ベルはふんわりとした笑顔でそう答えた
「ねぇベル、今自分が何したかわかってる?」
「お寿司食べました」
ちょうど口いっぱいに寿司を頬張っていたベルは、当然のように答えた
「そういうことじゃなくて、シモンに何したかよ」
「……食べさせましたね。それが?」
「はぁ……もし今この場にシモンの彼女がいたら、確実にブチギレ案件よ?」
「食べさせただけで?」
「とぼける気なら、全部説明してあげましょうか?」
「ぜひぜひ。でも聞いたところで私は気にしませんけど?」
「……」
アリアは呆れながら、ベルの額に軽くチョップを入れた
「いてっ」
「どこまで行ってるのか知らないけど、ミーファちゃんが可哀想。まさか、お兄ちゃんに先を越されるなんてね」
「……何が言いたい」
アマリアの言葉にシモンが眉をひそめて尋ねるも、彼女は軽くはぐらかした
その後も、いろんな意味でにぎやかなお昼ごはんとなった