640話 手をひかれて地獄へ
640話 手をひかれて地獄へ
色々とあったお昼が終わり、アリアに連れられて三限目の教室へと向かう
「あ、さっきも言ったけど、次は魔力操作の実技。そのまま魔法の実技にも入るから運動着に着替えるんだけど……そういえばベル、どうする?」
「そんなの、持ってませんけど」
「そうよね。まぁ、見学ってことでいいか。そのままでも動けそうなら参加しちゃってもいいわ」
「わかりました」
そのまま手を引かれ、ベルはもう逆らう気も無い様子で歩き出す
「あの、今はどこへ?」
「運動着に着替えるんだから、更衣室よ?」
「魔法の実技の場所、教えてください。私は先に行ってます」
「学園長に一緒にいるように言われてるんだから、ダメよ」
「でも、私着替えないので行かなくてもいいですよね?」
「だーめ」
アリアは満面の笑みでそう言い、ベルは半分絶望したような表情で引きずられていった
「ここが女子更衣室。男子禁制の聖域よ」
(わざわざ言われなくてもわかってるよ……)
「せめて……外で待ってますから」
「学園長に“一緒にいるように”って言われたんだから、同じ空間にいないと意味ないでしょ?」
「でも……」
「学園長との約束なんだから、守らないとダメよ?」
「……」
《ピクシー、更衣室から出るまで、声と方向感覚以外の全てを遮断して》
《と言うと……魔力感知や視界ですか?》
《そうそう。視界は目を閉じたら見えなくなるってわけじゃないから、それも無くしてほしい》
《了解です。制限します》
その声と同時に、ベルの感覚のいくつかがふっと消えた。
消えたのは、感覚で見る視界、声以外の音、嗅覚、魔力探知、空間探知、空間認識など。
その場で誰かが着替えているとわかるもの全てが遮断された
「行くよ」
アリアはベルの葛藤をよそに、更衣室の扉を開けた。
その瞬間、ベルは両目をきゅっと閉ざす
アリアに手を引かれながら、ベルは何も分からない“暗闇”の中を進んでいった。
今のベルにわかるのは、更衣室のあちこちから聞こえる、着替える女の子たちの声だけだった
「私も着替えるから、そこで待ってて」
「はい」
そう言ってアリアが手を離すと、ベルは置物のようにぴたりと動かず、じっとその場に立ち尽くしていた
「ねぇアリア、その子どうしたの?」
「ちょっとね、子守りみたいな、そんな感じ」
「ふーん、可愛い子ね……なんで目、ぎゅって閉じてるの?」
「さぁ? 恥ずかしいんじゃない?」
「なにそれ、かんわいー」
女の子はクスッと笑いながら、ベルの顔を覗き込んでいた
「この子、着替えないの?」
「うん。運動着持ってないから、今日は見学」
「そっかー、黒がどんなもんか見れると思ったのに、残念」
そう言って、その女の子は自分のロッカーへと戻っていった
その後すぐにアリアが着替えを終え、ベルの手を再び取り、更衣室の外へと連れ出した
《更衣室の外へと出たため、制限を解除します》
ピクシーの声とともに、ベルの感覚がすべて戻ってきた
《ありがとう》
「早かったですね」
「ベルが嫌そうだったから急いで着替えてあげたの。感謝しなさい?」
「ありがとうございます」
「それはいいけど、そんなに誰かの着替えを見るのが嫌なの?」
「いろいろと理由があるので」
「可愛くて綺麗な子ばっかりで、醜い人なんていないわよ?」
「それでも、私が見るわけにはいきません」
「私も体型には自信あるんだけどなぁ?」
「関係ありません」
「まぁ、いいけどさ」
そう言いながら、アリアはベルの手を引いて魔法の実技のある場所へと歩いていった