642話 魔法の威力確認
642話 魔法の威力確認
ベルが課題をクリアしたあと、アリアはアドバイスをもらいながら魔力操作の練習を続けていたが、気づけばあっという間に三限目の授業が終わっていた
「そういえば、課題ってやらなくてもよかったんですか?」
「別に問題ないわ。あれはあくまで目標みたいなもの。クリアできるなら、もう遊んでてもいいよって感じね」
「じゃあ、課題がクリアできてたら、あとの授業の時間は何をしててもいいってことですか?」
「そうね。魔力操作って、得意な子と苦手な子がけっこうはっきり分かれるの。だからこの課題形式なのよ。できる子は遊んでてもいいし、もちろん努力を続けてもいい。できない子は、その時間で努力しましょうっていう授業なの」
「そうなんですね。私は遊んでたから、課題をやらされたってわけですね」
「そう。そして多分、自分たちより明らかに年下の子がその実力を見せることで、みんなのやる気を引き出す、そんな狙いもあったんじゃないかしら」
「なるほど……アリアさんは、やる気出ました?」
「どうでしょうね……あ、先生来たから。集中して」
アリアは、はぐらかすように話を切り替えた
「さ、このまま続けるよ。三限目で魔力操作を鍛えたから、四限目は魔法を使うよ」
三限目と同じ教師がそう説明した
「四限目の授業でやることは2つ。まず1つ目は、魔法の威力の確認。まぁ、これはいつもやってるわね。もう1つは、動いている的を狙う練習。今日はいつもより的を早く動かすから、難易度はちょっと高めにしてるよ」
そう言うと、教師はすぐに的の準備に取りかかった
「私は魔力操作は苦手だけど、魔法の威力には自信があるんだから。見てなさい?」
アリアは胸を張りながら、自信満々にそう言った
「さっきはダメダメでしたから、次は楽しみにしてますね」
「ダメダメって……事実だけど、ちょっと傷付く」
アリアはむすっとした表情でベルをにらんでいると、そこへ教師の声がかかった
「それじゃあ、名前を呼んでいくから、呼ばれたら来てね。魔法の威力テストが終わったら、あっちに順番に並んで、動く的を狙う練習に移って。まずは、アイノ」
そう説明しながら、教師は用意された動く的の一番奥、左側を指さした
生徒たちは名前を呼ばれると前に出て魔法の威力を測定し、そのまま的の前へと移動して練習を始めていった
「最後は、アリアさん」
「はい」
名前を呼ばれると、アリアはベルの手を引きながらテストの場へと向かった
「この子はどうしますか?」
「あ、そういえばいたわね。じゃあ、先にアリアさんがテストして、そのあとでその子もやってもらいましょうか」
「わかりました」
「いつでもいいわよ」
「じゃあ、いきます」
そう言ってアリアは手を前に構えた
『燃え上がれ、紅蓮の槍――敵を貫け! ファイヤーランス!』
詠唱を終えると、構えた手の前に魔法陣が展開され、そこから炎の槍が勢いよく放たれる。
槍は一直線に的へと飛んでいき、その瞬間、轟音と共に爆発を起こした
「中級魔法でこの威力……さすがですね」
「ありがとうございます」
その魔法は中級でありながら、上級魔法にも匹敵するほどの破壊力を持っていた
ちなみに、魔法の威力をおおまかに表すなら、たとえばファイアボールなどの初級魔法であれば、着弾地点に直径約2メートルのクレーターができる程度。
中級魔法なら約5メートル、上級魔法ともなると10メートル以上の破壊範囲が生まれるのが一般的な目安とされている
この基準は、魔力量、集中力、制御力のすべてが揃っている場合に発揮されるもの。ここに上昇系スキルによるバフが加わることもある
※なお、これらの数値はあくまで火属性の爆発系魔法における物理的な破壊力の目安であり、属性や魔法の性質によって威力の現れ方は異なる
「じゃあ次、あなたね」
「はい」
「魔法は好きなのでいいから、あの的に向かって撃ってね」
「わかりました」
(やりすぎたら困るし、ファイアボールでいいか)
そう返事をし、ベルは手の上に無詠唱でファイアボールを出現させた。
それを投げるように手を振ると、球体はゆっくりとした軌道で的へと飛んでいく
(魔力量がすごいから、どんな魔法を使うのかと思ったけど……意外と普通ね)
アリアは安心したように、ベルの魔法を見つめていた
だが、その魔法が的に着弾した瞬間、先ほど自分が放った中級魔法とは比べものにならないほどの轟音が響き渡り、爆炎があたりに広がった
「……え?」
「……あっ」
教師とアリアは、目の前で起きた信じられない光景に、思わず言葉を失っていた
「すみません。ちょっと調節、失敗しました」
ベルは申し訳なさそうにそう言った
本来なら、生徒全員が順番に魔法を撃ち込んでも傷ひとつつかないはずの高強度の的は、跡形もなく、文字通り消し飛んでいた
「……私、10年近くここで教師やってるけど、あの的が壊れたの、初めて見たわ」
「いや先生……壊れたっていうか、的が消えたんですけど……?」
「そうね……さすが黒ライン……でも、的が壊れたのは気にしなくていいわ。壊れないくせに、なぜか予備がまだまだあるのよ」
教師はそう言って、ベルを安心させるように微笑んだ
「すみません、ありがとうございます」
「全然いいのよ。それにしてもあなた、すごい魔法ね」
「威力の調節を間違えました」
「威力が高いのはいいことよ。でも調節はしっかりできるようになりなさい。あなたの魔法は、一歩間違えれば簡単に人を殺せるんだから。ちゃんと練習すること。いい?」
「はい」
ベルは特に気にした様子もなく、普通に返していた
「うん。何年か後に正式入学するかもしれないけど、あなたは特別に他の子よりも早くこの学園に入ってるんだから、そのぶんしっかり練習していきなさい。ここなら、よっぽどのことをしない限りは大丈夫だからね」
そう言いながら、教師はベル用に動く的を用意し始めた。
その場所は、他の子たちの位置よりもかなり遠く離れたところだった
「先生、私……アリアさんから、あまり離れないようにって言われてるんですけど」
「……あら、そうだったの?」
「はい」
「でも、ちょっとくらいならいいでしょ? あなたはここ、アリアさんはそっち。このくらいの距離なら、多分平気じゃない?」
「それなら……大丈夫だと思います」
ベルに用意された場所は、アリアのいる位置からおよそ5メートルほど離れていた
「じゃああなたは、威力の加減の練習ね。あの魔力操作のレベルなら、動く的を狙うなんて簡単でしょ?」
「……まぁ、はい」
「だよね。だからまずは、さっきの魔法の威力を半分に抑えて撃ってみて。そこから少しずつ上げたり下げたりして、感覚を掴んでいきましょう」
「わかりました」
「アリアさんは、授業通りにね」
「はい……」
アリアはどこか力の抜けた返事を返していた。
放心しているのか、それとも自信満々に魔法の威力には自信があると言った直後に、ベルの魔法で圧倒的な差を見せつけられたせいか。理由は分からないが、明らかに調子が狂っているようだった
「アリアさん、行きますよ」
「……あ、うん」
アリアは、まだ呆然としたまま的に向き直る。
その背中を、ベルは少しだけ心配そうに見つめていた