644話 魔法の威力調節②
644話 魔法の威力調節②
魔法の威力を調節するため、神能で偽装することにし、ベルは練習を始めた
「手始めに――ファイヤーボール」
口にしたのは詠唱ではなく、ただ魔法名を告げただけ。
だが手の中に浮かぶはずの魔法陣は無く、炎の球だけが静かに形を取っていた
「見た目はいい感じ。次は――威力」
ベルは手の中のファイヤーボールを、軽く投げるようにして的へと放った
ぽふっ
小さな爆ぜる音とともに、炎はかすかに弾けた
その威力は通常のファイヤーボールよりもはるかに低く、とても実戦で使えるものではなかった
「よっわ!?」
あまりの弱さに、ベルは思わず声を上げる
《見た目は問題ありませんが……ひよって抑えすぎです。今の十倍は強くしないと、普通のファイヤーボールにすら届きません》
《威力を上げるには、魔力を込めればいいの?》
《方法は三つあります》
《そんなあるんだ》
《はい。一つ目は、マスター自身で魔力を込めること。これは少し強めになります》
《俺の魔力は圧縮されてるからその影響ね》
《はい。二つ目は、大気のマナを変換して込める方法。変換の手間はありますが、ちょうど一般レベルです》
《威力は一般レベルにできても、手間が……》
《三つ目は、作るときに威力を決めてしまう方法。このくらい、と最初から決めれば、望む強さで出せます》
《1つ目が1番いい感じ??》
《まずは全て試してみましょう。その中からマスターの好みで使ってください》
《それもそっか、とりあえず1つ目から》
「もう1回――ファイヤーボール」
ベルは声に出し、ほんの少しだけ魔力を込めて神能を発動させた
手のひらに、小さな炎の球がふわりと浮かび上がる。さっきよりは僅かに熱を帯びている気がする――
「さっきよりは威力が上がると思うけど……とりあえず行ってこい」
そう言ってファイヤーボールを投げた
ドーーン!!
轟音と共に爆発が広がり、その威力は先程のテストで的を吹き飛ばした時と同じ規模になっていた
「……おかしいな? ちょっとしか込めてないんだけど」
《やはりダメでしたか、ではこの方法は除外ですね》
《はい》
「次! 魔法を作りながら、大気のマナを魔力に変換――それをファイヤーボールに込める」
これまでの二回は、その場にパッと炎の球が現れていた
だが今回は違った。空気がじわじわと震え、何もないところから炎の粒子が集まり、やがて訓練場でよく見る程度のファイヤーボールが形を成す
「見た感じは良さそうかな? ――とりあえずGO!」
先程と同じように投げ放つ
パンッ!
乾いた音とともに炎が弾けた
威力は、周囲の生徒が普段使うものと比べても遜色ない、まさに“普通”のファイヤーボールだった
「うわ、完璧だ……これなら合格かな?」
《合格ですね。完成まで時間がかかるのが欠点ですが、その辺はマナから魔力にする変換率をいじれば調整可能です。これが完成形に近いかと》
「2つ目は採用だね。じゃあ一応3つ目も試してみよう」
《それがいいですね。3つ目が上手くいけば、マナを魔力に変換する手間もありませんから》
「だよね、やってみよう」
初めに神能を試した際は側だけを生成したが、今回は威力までしっかり設定した
すると、見た目は完璧なファイヤーボールが出来上がった
「見た目はいい感じかな? あとは威力――行ってこい」
そう言いながら、3つ目の案のファイヤーボールを的へ向けて飛ばした
ドッカーーーン!!
事前に威力を設定した神能で偽装された魔法は、テストの時のファイヤーボールよりも何倍も大きな爆発と轟音を伴って炸裂した
爆煙が晴れると、そこに的の姿はなかった。
いや、それどころか周囲の地面まで大きく抉れている
「……あれ?」
ベルは首をかしげる
《やはり、マスターの感覚は終わっていますね》
「今の結構いい感じだと思ったんだけどな……」
《いいえ。今のは訓練場破壊レベルです》
ベルはもう一度、抉れた地面を見る
「……ちょっと強かった?」
周囲の生徒たちがざわつき始める
どうやら、ベルの威力感覚は大幅に狂っていた