645話 狂った威力感覚
645話 狂った威力感覚
ベルの威力感覚が完全に狂っていることが露呈すると、アリアが慌てて駆け寄ってきた
「ちょっと! テストの時より威力高いんだけど!?」
「あ……ミスりました」
「どう見ても“ミスりました”で済む規模じゃないから……!」
ベルの目の前にあった的は跡形もなく吹き飛び、さらに少し離れた場所に設置されていたアリアの的も、爆風に煽られて無残に吹き飛ばされていた
「練習なので……ね? 失敗しても仕方ないよね?」
まるで子供が叱られまいとするように、ベルはおずおずと弁解した
「はぁ……」
アリアはため息をつき、仕方なく先生のもとへ助けを求めに向かった
《神能で事前に威力を決めるのはダメですね。マスターの感覚が終わっているので意味がありません》
《……もしかして俺、今盛大に悪口言われてる?》
《事実しか言っていませんが?》
《……》
ぐうの音も出ず、ベルは黙り込むしかなかった
《マスターの感覚は狂っていると判明しましたので、選択肢2の方法で“マクロ”を組むことをおすすめします》
《マクロ?》
《はい。今は――魔法を発動して、大気のマナを魔力に変換して、さらにそれを集めて……と全部手動でやっていますよね。それをまとめて一つの動作にしてしまう仕組みです》
《ショートカット的な?》
《そうですね。ですがこのマクロは、一連の流れを自動化するものなので、威力の細かい調整まではできません》
《つまり強くしたい時は自分でやれってことね》
《その通りです。魔力への変換時間を長くしたり、変換速度を上げれば威力は強くなります。なので、そのへんはマスターが頑張ってください》
《了解。とりあえず初級の何とかボール系のをまとめて普通レベルで設定してくれる? 普通に魔法名を口にした発動みたいな感じで》
《わかりました。基本属性の火・水・風・土・光・闇に、上位属性として氷と雷。この8種類のボール系魔法を“普通レベル”でマクロを組みます。例えば火なら“ファイヤーボール”と口にすれば発動、という形ですね。これで大丈夫ですか?》
《うん。お願い》
《わかりました。アリア様が帰ってくるまでに組みますね》
そうこう話していると、先生はベルの魔法の爆音を聞きつけ、アリアと共に戻ってきた
「……見事に吹き飛んでるわね」
先生は跡形もなくなった的を見て、どこか楽しげに口元をゆるめる
「すいません……」
ベルは申し訳なさそうに頭を下げた
「大丈夫大丈夫。どうせ吹っ飛ばすだろうなーって思って、ほら!」
先生は台車をガラガラと引っ張ってきていた。そこには新しい的が山盛り積まれている
「……準備いいですね」
「ふふん、経験ってやつよ。はい、並べ直すからちょっと待っててね……あれ、アリアさんのも消えてるじゃない」
「はい。一緒に飛んでいきました」
「やっぱり? まあ想定内想定内」
先生は肩をすくめながら、手際よく的を並べ直していく
「よし、完了! いつでも始めていいよー……あ、そうそう。次からはここに予備置いておくから、自分で好きに使ってね」
「わかりました。ありがとうございます」
先生はそう言って巡回を再開した
「今度は吹き飛ばさないでよね!」
アリアは念押しするように言った
「今度は大丈夫ですよ」
「ほんとかな〜」
アリアは疑いの目を向けつつ、自分の場所へと戻って行った
「できてる?」
《はい。いつでも大丈夫です》
《了解》
「手始めに、ファイヤーボール」
そう口にすると、しっかりと手の中に火球が出来上がった
「さっきより完成が早い!」
《先程は完成まで2秒ほどかかりましたので、マクロを組むついでにマナの変換速度を10倍にしておきました》
先程は少し時間がかかったが、声に出してすぐに完成するほど早く魔法が出来上がった
《さすがピクシー、気が利く〜》
「それ!」
そう言いながら、出来上がったファイヤーボールを的へと飛ばした
バンっ!
先程と全く同じ威力のファイヤーボールを打つことができた
「よし!」
《まとめて打てたりする?》
《そう言うと思って、設定してあります。使いたいものに意識を向けながら声に出してください。声は適当でいいです》
《おっけー》
「色々ボール!」
そう言うと、ベルを中心に半円を描くように8種類の属性ボールが生成された
「いい感じ……それ!」
炎から順に、流れるように飛んでいき、そのすべてが綺麗に的へと直撃した
「完璧!……じゃあ授業でも使えそうだし、同じ感じでバレット系とアロー系もお願い」
《かしこまりました》
ベルの要望を受け、ピクシーはあっという間に2種類のマクロを組み上げた
《完了しました》
「早いね〜……じゃあ早速――ファイヤーアロー、ファイヤーバレット!」
右手に鋭い光を放つファイヤーアロー、左手に圧縮された炎弾のファイヤーバレットが同時に浮かび上がった
「よいしょー!」
ベルは両手を振りかぶるようにして、勢いよく投げ放った
「何も考えずに連射できるのって、めっちゃ楽しいねー!!」
今まで“やりすぎないように”と必死に加減してきた反動もあって、ベルは子供のように興奮していた
「それそれー!」
右手を振れば各元素のボール魔法、左手を払えば各元素のアロー魔法が次々と生み出される
ベルはそれらを一斉に的へと放ち、まるで花火のように爆ぜさせた
そんなベルの様子を見て、アリアはまるで「やれば出来るじゃない」と言いたげに小さく微笑んだ
その後もベルはピクシーに組んでもらったマクロを駆使し、夢中になって魔法を打ち続けた。気がつけば、もう4限目が終わる時間になっていた
「ベル、最初はめちゃくちゃだったけど、的を直してもらってからはちゃんとできてたじゃない」
「ありがとうございます」
「こんな短時間で普通レベルにまで調整できたってことは……強いやつはもしかしてわざと?」
「そんなわけないですよ。そんなことしたら、気を引きたい子供みたいじゃないですか」
「気を引きたかったの? このこの〜」
アリアは笑いながら、ベルのほっぺをちょんちょんとつついた
「……」
ベルは無視を決め込んで、ぷいと横を向いた
「ふふっ、拗ねなくてもいいのに。――でも、さっきみたいにバンバン撃ってて魔力は大丈夫?」
「はい」
「そっか。さすがの魔力量ね。私はもう半分以下よ」
アリアはさらなる威力や精密さを求めて魔力を多く込めていたため、すでにかなり消耗していた
「5限目も6限目も魔法の授業ですよね? 必要ならポーションとかありますけど」
「大丈夫。両方で魔法を使うわけじゃないし、心配しなくていいわ」
「わかりました。必要なら言ってください」
そう話していると、先生の声が響いた
「みんなお疲れさまー! このあと授業ある子もない子も、とにかく休んで魔力回復しとくのよ。はい、それじゃあ4限目はここまで!」
そうして、4限目の授業が終了した
「さっ、行くよ!」
アリアはにっこりと笑みを浮かべながらベルの手を掴んだ
「ど、どこに……?」
その笑顔がどこか悪戯めいていて、ベルは嫌な予感を覚える
視線の先に見えたのは――女子更衣室の扉だった
「わ、私は嫌だーー!!」
必死の抵抗も虚しく、ベルはずるずると引きずられていく
そしてそのまま、半ば強引に女子更衣室へと連れ込まれていった