647話 お休みに紅茶を買いに
647話 お休みに紅茶を買いに
ベルとアリアを乗せた馬車は、道中で襲撃などの事件に遭うこともなく、無事に城へと到着した
到着してすぐ、ベルは友達に予定を聞くような調子で「この後、何するの?」と問いかけ、護衛としての役目を果たすためにアリアの行動を自然に探った。
そんなふうにして、その日は平穏に過ぎていった
――そして翌日
「どうして毎朝、私の部屋に突撃してくるんですか?」
「あ、ダメ?」
今日は闇の日の休み。
朝ごはんを済ませたあと、休みだからなのかどうかはわからないが、アリアはベルの部屋で紅茶を飲みながら、ゆったりとした時間を過ごしていた
「別に構いませんが、王女様なのにそんなにゆっくりしていてもいいんですか?」
「……」
アリアは紅茶を啜りながら、静かに目を逸らしていた
「ダメなんですね。なら早く行ってください」
「だって、唯一の王位継承者だからって勉強ばっかりよ? もう疲れたの。だから休憩」
「そうですか……まぁいっか」
そう返事をし、ベルは何も無い壁の方を見て小さく呟いた
――その直後、扉がノックされた
「どうぞ〜」
「失礼致します」
ベルが返事をすると、扉が開いた
「あ、お嬢様! 何でこんな所で道草食ってるんですか。さぁ、お勉強の時間ですよ!」
「お休みなんだからいいじゃん! それに、どうしてここがバレたのよ!」
「それはお嬢様のお父様にお聞きくださいませ。お嬢様は王位継承者なのですよ。完璧な女王様となるためには、それ相応の頭脳が必要です。そのための勉強です」
「勉強やだー! ベル助けて!」
「バイバイ」
家庭教師と思われる人に手を引かれ、アリアは必死に助けを求めていた。
しかし、ベルは笑顔で手を振って見送った
「さて、暇になったね」
《護衛なんですから、見ておかないと》
《まぁその辺は臨機応変にね。普段は使ってないけど、マップをアリアさんを中心に設定して、範囲は半径100mくらい。敵対反応が近づいたら反応する感じで》
《わかりました。一応聞いておきますが、遠距離攻撃の場合は?》
《発射物を感知して、範囲内に入ったら消滅させて》
《了解しました》
すぐにベルの視界に、アリアを中心とした丸いマップが浮かび上がる
《離れても大丈夫なようにマップを設定したということは、どこかへお出かけですか?》
《うん、ここに来た初日に教えてもらったセレスティーチャーってお店に行こうと思って》
《紅茶のお店ですね?》
《そうそう。お土産に買おうって思ってて、忘れたら困るしさ。せっかくのお休みだから、忘れないうちに行っとこうと思ってね》
《護衛中なのに離れてもいいんですか?》
ピクシーは茶化すように言った
《アリアさんに敵意を向ける人はマップに映るし、それに勉強中は部屋に缶詰めにされてるようなもんだし、大丈夫だよ》
《……それ、めっちゃフラグに聞こえますけど》
《気のせい気のせい》
そう言ってベルは、護衛任務の最中であることを隠すように、ひっそりと城下町へ出かけていった
――町に出てから、アリアにもらった地図を片手に歩くこと数十分、思ったより早く目的地に着いた
(ここか)
アリアにもらった地図の印と、店の看板を見比べる
(うん、間違いなさそうだね。目的のもの買って、さっさと帰ろう)
そうしてベルは、セレスティーチャーの店内へ足を踏み入れた
「いらっしゃいませ! 本日は何をお探しですか?」
「あ、えっと……」
入るや否や、店員と思しき女性が元気よく声をかけてきた。
少し積極的な対応に、ベルはわずかに戸惑う
《アリアに貰った紅茶の缶を見せればいいと思いますよ》
《あ、確かに》
ベルは頷き、小さな缶を取り出す
「これと同じものを、4ついただけますか?」
「かしこまりました。確認いたしますね」
差し出された缶の銘柄を、店員は素早く確かめた
「こちらは“セレスティルミー”ですね。4つでよろしいでしょうか?」
「えっと……じゃあ、ここでしか買えないおすすめってあります?」
「ございます。もしよろしければ、お持ちしましょうか?」
「うん、それも4つお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
店員は缶をベルに返すと、奥へと姿を消した
――ほどなくして、お盆に注文した品を乗せて戻ってきた
「お待たせしました。こちらがこのお店限定のセレスティルミーです。そして、こちらがこの国でしか手に入らない紅茶、カルンティになります」
「ありがとうございます。おいくらですか?」
「セレスティルミーは1缶25,000Grですので、4つで100,000Grです。カルンティは1缶8,000Grですので、4つで32,000Grになります。合計で132,000Grになります」
(……セレスティルミーは1缶25,000円!? カルンティも1缶8,000円って……紅茶ってこんな高いの?)
ベルは驚きで小さくため息をつき、店員に尋ねた
「わかりました。あと1つ、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「普通の方が飲まれる紅茶ってありますか?」
「一般の方がお買い求めになる紅茶ですか?」
「はい」
「ございますが……貴族様にご満足いただけるか分かりませんが、よろしいですか?」
「構いません。飲み比べてみたいと思って」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言うと店員はお盆を持ったまま裏へ下がり、すぐに戻ってきた
「こちらになります。1つ500Grの“ノンティ”という紅茶です。計132,500Grですね」
「ありがとうございます。大金貨3枚でいいですか?」
「大丈夫ですよ、すぐにお釣りを用意します」
「あ、お釣りは大丈夫ですよ。取っておいてください」
「え……でも」
「用意してくれたお礼とでも思ってください」
「えっと……ありがとうございます」
店員は小さく頭を下げながら言った
「すぐに袋詰め致しますね」
「あ、そのままでいいですよ」
「……わかりました」
戸惑いながらも店員はお盆をベルの前へ差し出す
ベルは差し出されたお盆に手を伸ばし、乗せられている紅茶缶だけを空間収納へとしまった。
代わりに、お盆には大金貨3枚を置いておいた
「それじゃ、ありがとね」
「……あ、はい! またのご来店お待ちしております!!」
ベルの素早い動作に呆気に取られつつも、店員は挨拶を返した。
その言葉を背に、ベルは静かに店を後にした