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648話 初めての海と、でっかい贈り物

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648話 初めての海と、でっかい贈り物

店を後にしたベルは、のんびりと歩いていた

(目的のものは手に入ったし、どうしよっかな……アリアさんはまだ勉強中みたいだね。ちょっと観光でもしていこうかな)

歩きながら、どこへ行こうか考えていた

(そうだ。せっかく来たんだし、海でも見に行こう)

そう思うと、ベルは軽く小走りで、海に面した場所へ向かっていった。

その姿を、街の人々が微笑ましく見守っていた

「うわぁ、すっごい! この世界の海を見るのは初めてだけど、めっちゃ綺麗!」

目の前には、陽の光にキラキラと輝く、とても美しい大海原が広がっていた

《マスターは見たことないと思いますが、海には海の妖精というものがいて、その妖精のおかげで海が綺麗に保たれています》

《妖精かぁ〜。未だに見たことないけど、その辺にいるの?》

そう聞きながら海の中を覗き込んだ

《どうでしょう。人目を避けて生活しているので、その辺にはいないと思いますよ》

《そっか……ちょっと残念》

ベルは肩を落とした

《精霊は透過、妖精は同化という形で姿を隠しているので、マスターでも見るだけでは見つけられないと思いますよ》

《そんな分からないもんなの?》

《海の妖精の場合は海水と同化しているので、見ただけではどこにいるのかすら分かりませんよ》

《それは初耳。じゃあ、わからないのか》

少し寂しそうに、桟橋の縁にしゃがみ込み、透き通った海の中を泳ぐ魚を眺めていた

「……襲ってこないでね、めんどくさいから」

遠くの海を見つめながら、小さく呟き、視線を下に戻した

「そこのお嬢ちゃん、危ないからもっとこっち寄りぃ」

「あ、すいません」

足元にいた魚に見入っていると、背後から声がかかった

「魚見てたんか?」

「はい。初めて海に来たので」

「なんや、嬢ちゃん海初めてなんか?」

「私、マーベルド出身なので、海に来たのは初めてです」

「そうかぁ。マーベルドってことは魚、食べたことないんか?」

「いえ、昨日食べました」

「美味かったか?」

「とっても」

「そうかそうか」

話しかけてきたおっちゃんは、どこか嬉しそうに笑っていた

「おっちゃんな、ついさっきまで魚獲ってたとこなんや。嬢ちゃん、よけりゃだけどいるか?」

「いいんですか?」

「ええよ。ただな、すぐ食べへんと腹壊すから気ぃつけよ?」

「はい」

「好きなんやるから、おっちゃんの船においで」

そう言うおっちゃんについて、船へ向かった

「これや、今網を引き上げるから待っててな」

そう言うと、おっちゃんは船の横に吊るされた紐を引っ張った。すると、海の中から魚がたくさん入った網が上がってきた

「たくさん入ってますね」

「せやろ? どれがいい?」

おもちゃを孫に選ばせるおじいちゃんのような、楽しげな笑顔で聞いてきた

「……分かりません」

「そりゃそうやな。海に初めて来たのに魚が分かるわけないわな」

「はい。おっちゃんのおすすめってどれ?」

(何となく分かるけど、そういうことにしておこう)

「んなら、これやるよ」

そう言っておっちゃんは、網の中に入っていた一番大きな魚を引き上げた

「でか! 本当にこんな大きいのいいんですか?」

「おう、今日獲れた魚の中ならこれが一番美味いぞ!」

おっちゃんの手には、1mほどあるキハダマグロによく似た見た目のキマグロという名の魚が掴まれていた

「でも、おっちゃんが食べたくて獲ったんじゃないの?」

「気にせんでもいいぞ。元々売りに出すつもりだったから、おっちゃんが食べるわけじゃないからな」

「それでもこれだけ大きかったら、いい値段になりそうじゃない?」

「この大きさなら金貨1枚になればいい方やな。まぁ別に構わんよ」

「でも……」

ベルはとても申し訳なさそうにしていた

「嬢ちゃんが初めて海に来た記念ってことでええんちゃう? ……それに、おっちゃんはべっぴんさんの嬢ちゃんに会えただけでもう満足や」

「……ほんとにいいの?」

控えめに聞いた

「いいぞ」

本当に気にした様子はなく、おっちゃんはすぐに答えた

「ありがとうございます」

「ええよええよ……それより、どう持って帰る?」

「空間収納が使えるので、そこへ入れます」

「嬢ちゃん、空間収納使えんのか! ええな〜」

それを聞き、おっちゃんは驚き、羨ましそうにしていた

「いいでしょ。そこに入れてください」

「ほんまにな……そのまま入れていいんか?」

「はい」

おっちゃんの横に開けられた空間収納の入り口に、キマグロが入れられた

「ありがとう、おっちゃん!」

無償で貰うのは申し訳ないため、ベルは最大限の喜びを伝えようと、笑顔でおっちゃんに抱きついた

「お、おい! 汚れるぞ?!」

「気にしないよ。おっちゃん、いいお土産をありがとうね。私、とっても嬉しい!」

「嬢ちゃんが喜んでくれるなら、おっちゃんは満足だよ」

突然抱きつかれ、戸惑いながらもおっちゃんの頬は緩んでいた

「私の最大限の感謝だよ、嬉しい?」

「嬉しい、嬉しい。べっぴんさんに抱きついてもらえて、おっちゃんは幸せ者だな」

「良かった」

おっちゃんの反応を確認してから、ベルは離れた

(これで金貨1枚くらいの価値になったかな?)

「貰いすぎなくらい貰ったよ、ありがとう」

「そっか。じゃあ私、もう帰らないとなんだ」

「そうなのか。おっちゃんは毎日この辺にいるから、会いたくなったらいつでもおいで、またいいのが獲れたら何かあげるよ」

「うん。おっちゃん、またね!」

「ばいばい」

ベルは手を振りながら、少し小走りで去っていった