652話 試せない実力
652話 試せない実力
教師との模擬戦が決まり、互いに距離を取って木剣をかまえた
「俺はさすがに手加減するが、お前は全力でいいからな」
ベルは軽く息を整え、握る木剣に力を込め、心の中で戦う準備を確認する
「……わかりました。先生が手加減できないくらい私も本気で行きます」
「おうおう、その意気でこい」
「行きます!」
ベルは勢いよく踏み込み、木剣を振りかぶった
「うお! すっげぇー威力だな!」
教師はベルの振り下ろした木剣を受け止めたが、2人の木剣は軋み、パキパキと異音が鳴っていた
「……これなら、もう少し強くできるか」
受け止められたのを見て、ベルは小さく呟いた
ベルは仕切り直すために、再び間合いを取り直した
「もう少し強く行きます」
「いいぞ」
互いに剣を構え、ベルは素早く踏み込み、鋭く木剣を振り下ろした。
教師も必死に受け止めるが、木剣同士が軋み、パキッと小さな亀裂が走る
「次!」
ベルはさらに勢いをつけて斬りかかる。
軋む音が大きく響き、ついに3度目の斬撃で木剣が耐え切れず砕けた
「うわっ!?」
「ははっ、これで終了だな」
ベルは折れた木剣を見下ろし、慣れたように微笑む。
教師も驚きつつ笑い、息を整えながら頷いた
「お前すげぇな、純粋な力だけで木剣砕くとはな」
ベルは片手に残った木剣の柄だけを握り、教師に一礼して模擬戦を終えた
(……こいつの木剣が折れてなかったら、俺も危なかったな)
教師はベルの様子を見ながら、慌てて声をかける
「手は大丈夫か!? 木の破片が刺さったり、切れてたりしないか?」
礼をすると同時に、教師は素早くベルの手を取り、念入りに確認する
「……いえ、大丈夫です。傷もありません」
「ほんとか? 力みすぎて手首痛めてたりしないか? 無理してないか?」
ベルが首を横に振って見せても、教師はまだ心配そうに目を細めていた
「このくらいなら問題ありません。無理もしてませんから」
「見た感じ外傷はないが、ちょっとでも違和感があれば言えよ?」
「はい、ありがとうございます」
そうお礼を言い、アリアのもとへ歩み寄っていった
「先生の声が大きくてこっちまで聞こえてたけど、ほんとに手は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ」
教師と同様にアリアがベルの手を心配していると、後ろから教師も歩いてきた
「こいつほんと強いな。アリアが負けたのも納得だ」
「でしょ? ベルの木剣が折れてなかったら、先生も危なかったかもしれませんね」
アリアはくすっと笑いながら、からかうように言った
「なんだ? その言い方だと、俺に負けて欲しかったみたいじゃないか」
「先生が負けてるところ1回も見たことありませんからね」
「木剣が折れたから負けなかっただけで、折れてなかったら普通に俺が負けてたぞ? そもそもこいつは全然本気じゃなかったしな」
「えっ……あれで本気じゃないんですか!?」
「終始木剣が折れないか様子を見てただろ?」
「そんなことありませんよ?」
教師にそう言われ、ベルはとぼけるように言った
「なんだ? とぼけるのか〜?」
「そんなことないですよ」
教師は友達に絡むようにベルの肩に腕を回したが、ベルはそれでもとぼけ続けた
「先生、諦めた方がいいですよ。ベルはとぼけ始めたらホントのこと言ってくれませんから」
アリアは肩をすくめて、苦笑まじりに言った
「そうなのか。まぁいいけどさ」
そう笑う教師に、アリアはふと真顔になり
「あ、それと先生。あんまり女の子に引っ付かない方がいいですよ?」
軽く釘を刺すように言った
「おっと、王女様に怒られる前に気をつけないとな〜」
教師はおどけたように手を上げ、笑いながら肩から腕を外した
「私は別に気にしませんけどね」
「だってよ王女様、こいつは俺の味方だよ?」
そう言いながら隠れるようにベルの背に回り、両手を肩に置いた
「ベル? そんなことばっかりしてると私も怒るよ?」
「……ごめんなさい先生」
そう言って、ベルは慌ててアリアの元へ駆け寄った
「あらら、俺の味方が居なくなっちまった。てな訳で俺は逃げる!」
教師はひらひらと手を振りながら背を向け、子どもみたいに笑って去っていった
「あーあ、逃げられちゃった。ベル、貴女も女の子なんだから、しっかり自覚を持ちなさいよ?」
「嫌です」
(女の子じゃないもん)
アリアは一歩踏み出し、木剣を軽く構える
「そう……あなたがそのつもりなら、体に教えこんであげる!」
剣術の授業なのをいいことに、木剣を失い無防備なベルへと、遊ぶように容赦なく斬りかかった