654話 休み時間の終わりに
654話 休み時間の終わりに
みんなとお昼ご飯を食べてから、ベルとアリアは次の貴族学の授業がある教室へと向かっていた
「こうやって見るとベルってホントちっちゃいよね」
3限目の授業へ向かう生徒たちとベルを見比べながら、アリアが言った
「悪口ですか?」
「私に妹がいたらこんな感じなのかなって思って」
「そうですか」
ベルは適当に受け流しながら歩いていると、後ろから怒鳴り声が響いた
「おいお前!! お前昨日の女だよな?!」
振り返る間もなく、さらに大声が飛ぶ
「無視してんじゃねえぞ女!」
肩を強引に引っ張られ、ベルは無理やり向きを変えさせられた
「私のベルになんの用よ! オルカ!」
「お前じゃねぇよアリア、俺様はお前の横にいる白い女に話しかけてんだよ!!」
「キャッ!」
オルカと呼ばれた男は、勢いよくアリアを突き飛ばした。
アリアは恐怖で腰を抜かし、その場に座り込んだ
それを見たベルは、突き飛ばされた方向とは逆に移動して距離を取り、身構えながらオルカを睨んだ
「王女様に手を上げていいとでも思ってるんですか?」
「あぁ? 女が俺様に逆らうからいけねぇんだろ、そもそも俺様が用事があるのはお前だ、こいつじゃねぇ」
「はぁ……で、なんの用ですか?」
「忘れたとは言わさねぇぞ、昨日お前が俺様にしたことをな!!」
「昨日? ……あぁ、私に絡んできた馬鹿がいましたね。それがお前?」
「あんま舐めた口聞いてっとぶち殺すぞ!」
「あーはいはい、やれるもんならどうぞ。昨日一撃でやられたくせに……まだやれると思ってるんですか? 頭悪いですね」
ベルはあざ笑うように、半笑いで言った
「まぁいいや、好きにすれば?」
「……決闘だ」
「っと」
オルカが投げた手袋を、ベルは瞬時に避けた
「避けんじゃねぇよ! 今すぐ取れ」
「は? なんのために? 手袋とかいらないけど」
地面に落ちた手袋を、ベルはまるでゴミを見るような目で見ていた
「いいから取れ!」
オルカはさらにヒートアップしていた
「べ、ベル! 取っちゃダメだよ! オルカの言う決闘は、ただの殺し合いだから!」
アリアは震える声で叫ぶ
「うるせぇ女だな、白いやつより先にお前から殺してやろうか、あぁん?」
その一言で、空気が一気に冷えた
「決闘ねぇ、受けてあげてもいいですけど……」
ベルの目がすっと細くなる
「次、アリアさんに手ぇ出したら……オー何とか公爵家ごと潰すから、覚悟しといてください」
ベルの目は、今まで見たことがないほど鋭く細められていた
「ほら、拾いましたよ。これで満足?」
「今日の放課後、競技場へ来い。そこで決闘だ、逃げんじゃねぇぞ!」
オルカはそう言い残して去っていった
「アリアさん、大丈夫ですか?」
ベルはすぐに駆け寄った
「だ、大丈夫……よ。私、昔ね……あいつに、その……気分を害しちゃって……それで、思いっきり殴られて……っ」
言葉が途切れ途切れになる
「それから……あいつの前だと、震えが止まらなくて……違うの、ほんとに大丈夫だから、平気だから……」
アリアは必死に言葉を繋ぐが、視線は定まらず、小さく首を振り続けていた
「大丈夫……だから……ほんとに……」
その声は震え、今にも崩れそうだった
「アマリアさん、ちょっとこの場を頼みます」
「え、えぇ、任せて」
「ちょっと失礼します」
ベルがアリアの肩にそっと触れると、2人の姿はその場から消えた
次に現れたのは、一面ピンク色の空間だった
「今なら私の胸は無料ですよ」
ベルが笑顔で手を広げると、アリアは迷うことなくその胸へ飛び込んだ
「怖かった……怖かったよ〜」
張り詰めていたものが一気にほどけるように、アリアはそのまま泣き出した
「もう大丈夫ですよ、私が守ってあげますから」
ベルはそっと抱きしめ、優しく背中を撫でる
(俺は護衛失格だ……)
そのまま優しく声をかけ続け、落ち着くのを待った
「……もう大丈夫、ありがとう」
「いえいえ」
恥ずかしそうに離れるアリアに、ベルは笑顔で返した
「1ついいですか?」
「何?」
「どうしてあんな横暴なやつ、生かしてるんですか?」
「それはね、オーロック公爵家にしか伝わらない秘伝の魔法があるの。そのおかげで今も生きながらえてるの」
「なるほど、どんな魔法なんですか?」
「なんか海を綺麗にする魔法なんだって。詳しくは知らない」
《ピクシー、海って妖精のおかげで綺麗になってるんだよね?》
《そうですよ、妖精がいるので魔法をかける必要なんてないです》
《そっか、じゃあ1ミリも必要ない魔法のために生かされてたってわけね》
《そうなりますね。人間の魔法は見た目を誤魔化しているだけで、海は一切綺麗になっていません。妖精がいる以上、あれはただの自己満足です。意味はありません》
《そっかそっか、いいこと聞いちゃったー》
「アリアさん、是非とも今日の放課後、国王様に学園へ来るよう伝えてあげてください」
「どうして?」
「オー何とか公爵家が、今年で終了を迎える証明のために……ヘッヘッヘ」
「悪い笑顔……ベルが何とかしてくれるの?」
「今日の放課後、楽しみにしててください」
「そうだ! 決闘受けちゃったけど大丈夫なの? あいつ相当強いのにいっつもズルしてるから、絶対ズルしてくると思うよ?」
「まぁ、楽しみにしててください」
そう言って、2人は元の場所へと戻った
「あ、帰ってきた」
「ありがとうございます」
「いいのよ、それとこれ」
アマリアが紙を差し出した
「これは?」
「決闘の準備の書類みたいなものよ。あいつが見世物にするために人を集めるらしくて、観客を守る結界を張るために、決闘する人の得意属性を事前に調べてるの」
「そうなんですね……じゃあ火でいっか。これって書いた属性以外は使っちゃダメなんですか?」
「どうなんだろう? 得意なやつだけ書いておけばいいんじゃない?」
「なるほど、じゃあ得意魔法は火で。あとは武器か……杖でいきます」
ベルはアマリアに相談しながら書き込んでいった
「杖なんて持ってた?」
「まぁ、見ててください。すごいの見せてあげますから」
「わかったわ、楽しみにしてる」
「はい」
アリアは少し笑顔を見せていた
「これはどうしますか?」
「じゃあ私が渡してくるわ。ベルはアリアと一緒にいてあげて」
そう言って、アマリアは紙を受け取り、その場を離れていった
アリアはまだ怖そうで、ベルの手をぎゅっと握っていた
ベルはその手を軽く握り返す
しばらくして落ち着きを取り戻し、そのまま2人は教室へと向かった
その後の授業はあっという間に終わり、いよいよ決闘の時間がやってきた