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659話 思っていたより――

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659話 思っていたより――

アリアの十四歳最後の一日が幕を開けた。

明日には成人を迎える――唯一の王位継承者にとって、それは狙う者にとって絶好の機会になるはずだった

「ほんとに学園へ行くんですか?」

制服に袖を通したベルが問いかける

「何か問題?」

「いえ……明日アリアさんは成人を迎えます。命を狙われやすくなると思うので、今日は大人しくしていた方がいいかと」

「私は王位継承者である以前に学生よ。健康体なら学園に行かなきゃダメなの」

「そうですけど、今日くらいは許してくれると思います」

「今日休んだところで、明日も明後日も変わらないわ。だから今日を生き抜けないなら、なんの意味もないの」

そう言うアリアの瞳には、どこか覚悟が宿っていた

「ですが……」

ベルが言いよどむと、アリアは口の端を上げてニヤリと笑った

「なに? まさか行きたくないからって、私も巻き込もうっての?」

「そんなことありませんよ。ただ、もしものことがあったら……って思うだけです」

「ふふっ、心配性ね。でも、そういうところ嫌いじゃないわ。さ、行くわよ!」

「ちょっと!」

アリアは半ば強引にベルの手を引き、学園へ向かう馬車へと乗り込んだ

(今日一日は気を抜かず、常に警戒していないと)

ベルはそう考えながら、馬車の窓から外を眺めていた

それからしばらく時間が過ぎ、お昼ご飯の時間になった

(ここまで誰も何もしてこない……学園の中だからかな?)

「何してるの、ベルも早く選びなさい」

「あ、はい」

その後、みんなとお昼ご飯を食べ、一切の問題もなく一日が終わった

(学園内だとやっぱり手を出せないのかな……ここからが本番ってことか)

「ね、意外に大丈夫だったでしょ?」

「なんというか、拍子抜けって感じです」

「何言ってるのよ。何もないことが一番なのよ?」

「そうですね、はい」

そのまま馬車で揺られ、城まで帰ってきた

「はぁ……そんなに心配なら、今日はずっと私に付いてなさい。それなら問題ないでしょ?」

ベルの様子を見かねたアリアがそう言った

「なんですか?」

「私が襲われないか心配なんでしょ? なら、ベルがずっと私を守ってくれたらいいじゃない」

「それじゃあ昨日と同じじゃないですか」

「何よ、私と一緒は嫌なの?」

「そういうわけじゃありませんけど」

「いいじゃない、私の最後のわがままだと思って付き合いなさい」

「……わかりましたよ」

そして、まるで昨日の再現かのように、アリアはベルにくっついていた。

守ってもらうという口実で、結局は甘えているだけのような気もする――

結局その日は、何の異変もなく静かに過ぎていった。

常に気を張っていたベルにとっては、むしろ拍子抜けとしか言いようがない一日だった

(成人前って狙い時じゃないのか……いや、成人当日が1番狙われやすいのかな?)

「ほらね、何もなかったでしょ?」

得意げに笑うアリアに、ベルは肩をすくめて答えるしかなかった

「思っていたより何もなくて……少し、驚きました」

そしてその夜も、昨日と同じように二人並んで同じベッドに横になり、静かに眠りについた――

(……静かすぎる気がする)