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660話 特別な日もいつも通り

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660話 特別な日もいつも通り

アリアの十四歳最後の日が静かに過ぎ、そして迎えた翌朝――

「おはようございます」

「ん……おはよう」

目を覚ましたアリアに、ベルが声をかける

「どう? 大人の女性になったかしら?」

「ダメですね、むしろ退化しました」

「朝から酷い言い草ね」

「自分からそんなことを聞いてしまうあたり、子供っぽいですよ」

「そう?」

「はい。まぁ別にアリアさんはそのままでもいいと思いますけどね」

「そうは言っても、大人になったからにはわがままを無くさなきゃね」

(別に大人だからって、わがままを言っちゃダメって決まりはないんだけどね)

「ちょっとくらいならいいと思いますよ」

「……未来の、女王様にそれが許されると思う?」

アリアは少し悲しそうな顔をして、椅子に座って桜茶を飲むベルをじっと見つめた

朝の静けさに溶けるように、二人の間に一瞬の沈黙が流れる

「思いますよ。女王様ってのは一番偉いんです。だから、わがままなくらいがちょうどいいまであります」

「ふふっ……そうだといいけど」

アリアはそう言ってベッドから起き上がり、ベルの隣に腰を下ろした

距離が近づいたせいか、ほんのりと寝起きの体温が伝わってくる

「それより、あなたいつから起きてるの?」

アリアは柔らかく微笑みながら問いかけた

「少し前からとだけ」

「ほんと、あなたはなんでも秘密にしたがるわね……私にも1杯入れてくれる?」

「昨日と同じでいいですか?」

「なんでもいいわよ」

それを聞いて、ベルは手早く紅茶を入れた

「どうぞ」

「ありがとう」

そうお礼を言い、アリアはカップに視線を落とした

「あら、綺麗ね。桜が浮いてる」

「昨日話した生の桜ですよ。味はほとんどしませんけど、香りと見た目が華やかになるんです」

「これはいいわね、見た目も可愛いし……本当に素敵ね」

「私がアリアさんのために誕生会とかを開いてあげることは出来ませんから、ちょっとしたプレゼントだと思ってください」

「そっか。ありがとう」

アリアは嬉しそうに微笑んだ

「桜茶って、本来は特別な日に飲むものだったりするんです。だから、今が最高のタイミングなんですよ」

「そうなんだ……なのにベルは毎日飲んでるのね」

「私の朝のルーティーンなんです」

「まぁベルの好きにすればいいけどさ……美味しいの?」

アリアは、昨日ベルの飲んでいた桜茶を自分も試したことを思い出し、本当にそう思っているのか確かめるように尋ねた

「美味しいですよ。桜好きには最高の一品です」

(……まぁ味がほとんど無いから、味覚を100倍に引き上げて桜の美味しさを全力で受け止めてるんだけどね……たまに戻し忘れて大ダメージ食らうけど)

「まぁそうよね、ベルの表情見てたらわかるわ」

「おっと、お恥ずかしい」

そうふざけるように言い、ベルはすぐにいつもの澄ました表情へ戻った

「そんなことより、今日はどうするんですか?」

「今日は学園はおやすみ。お父様が学園長にお願いして、特別にお休みにしてくれたの。まぁ、私だけなんだけどさ」

「そうなんですね」

「その代わり、私の成人の誕生会の準備に追われるわ。学園に行った方がマシなくらい大変よ」

「なら私は何もしなくていいですね。のんびりして待ってます」

「何言ってるのよ。昨日は私を守ってくれるって息巻いてたくせに、今日は守ってくれないの?」

アリアはからかうような笑顔を向けた

「あ、ほら……準備の邪魔をしたらいけませんからね」

「だーめ。今日もベルは私の付き添いです。オルカの時とか、他にも目を離した隙に色々問題が起こるんだから、今日は余計にあなたから目を離さないわよ」

「ということは……私の自由は?」

「ない」

「そんな……」

少しだけしゅんとして見せていた

「それに、どうせベルのことだからパーティ用のドレスとか持ってないでしょ? だからついでに選んであげるわ」

「いりません」

被せるような勢いで即答した

「ダメよ。あなたもパーティに出席するんでしょ? ならドレス着なきゃ」

「嫌です。ドレスを着るくらいなら出席しません」

「出席しないって、ベルがこの国に来た目的は?」

「……アリアさんの誕生会に出席すること」

「じゃあドレス着なきゃ!」

「それは嫌です」

ベルは断固拒否の様子で、アリアと言い争っていた

「わかったわ。なら自分で用意しなさい。まぁ、用意する時間なんて無いと思うけど、もし用意できていなければ、私の用意したものを無理やりでも着せるからね」

「隠れておきますね」

「無駄よ。お父様に頼んで騎士団を使ってでも探し出してあげるから」

「絶望です」

表情は特に変えず、呟いた

「なら用意しなさい。用意すれば解決なんだから」

「……わかりましたよ、特別ですよ?」

「何がよ」

アリアは何が特別なのか分からず、ツッコミながら笑っていた

《ピクシー、俺のために作って》

《何をですか? しっかり言ってくれないと分かりません》

《わかるでしょ? お願い》

《はて、何を作ればいいのか分かりませんね》

とぼけるように、ピクシーはベルをからかっていた

《ドレスだよ、ドレス!》

《かしこまりました! マスターのために、最高のドレスを作り上げてみせます!!》

初めてのお願いに、ピクシーは張り切っていた

《うん。だけど今回は控えめにお願いね。主役のアリアさんより目立っちゃダメ》

《わかっていますよ。主役を食わない程度に仕上げます》

《なんでもいいけど、できるだけ目立たない感じでお願いね》

《……あ、はい》

(こりゃダメだな、諦めよう……俺は俺で覚悟決めなきゃ)

その後、ピクシーはベルのためのドレス制作を始めた

城の中では、使用人たちが慌ただしく行き交い、成人の誕生会へ向けた準備が進められていた

ベルとアリアも運ばれてきた朝ごはんを食べ終え、その準備に追われていくのだった