662話 若き王女の祝宴
662話 若き王女の祝宴
ベルが1人、会場へとやってきてからおよそ10分後、国王ルーカスと王妃であるアリアの母が先に入場してきた
「あ、あー……聞こえてるな」
声が響き、ベルや他の参加者は思わず上を見上げた
そこには、バルコニーに立つこの国の国王ルーカスの姿がある
その姿を見た瞬間、自然と視界が広がり、会場全体の光景がベルの目に映った
真っ白な大理石のような床と壁、長方形に伸びる空間の左右には料理が並べられる長机。中央は舞踏のために広々と開けられ、正面奥は一段高くなっていて、そこに王族の席が用意されている。左右から伸びる階段はバルコニーへと繋がり、その中央のカーテンから王族が入場するのだろう
頭上にはいくつものシャンデリアがきらめき、とりわけ中央の巨大なシャンデリアは会場の輝きを一層引き立てていた
壁にはリボンや宝石の装飾が施され、貝殻を模した宝石細工が、この国らしい海の気配を漂わせていた
「皆の者……我が娘、アリアの15歳の誕生日パーティーに集まってくれてありがとう」
満足気な笑みを浮かべながら、ルーカスは会場を見渡した
「これだけの人に娘の成長を見届けてもらえて、父としてこれほど誇らしいことはない。娘が生まれてから15年……長いようで短いような、不思議と複雑な気持ちが込み上げてくる。だが何より、ここまで健やかに育ってくれたことが嬉しい」
そこで一度言葉を切り、王としての眼差しで会場を見渡す
「そして国王としても、この日を迎えられたことを大変誇りに思う。我が国を支えてくれる諸侯、諸国の使節、そして友人たち……皆の協力があってこそ、今日という日を祝うことができるのだ」
ルーカスはゆっくりと会場を見渡し、穏やかな笑みを浮かべる。その声には、父としての想いと国王としての威厳が混じっていた
「どうか今宵は、存分に楽しんでほしい。我が娘の門出を祝うこの場を、共に喜び合おうではないか!」
その言葉を合図にしたかのように、背後の大きなカーテンが静かに開かれた
今宵の主役である第一王女アリアが、優雅に歩み出て、会場へと姿を現した
背中の中ほどまで流れる水色の髪は、光を受けて淡い輝きを放ち、動くたびに清らかな波のように揺れた
整った輪郭と真っ直ぐに伸びた睫毛。その奥に宿る深い青の瞳は、まだ15歳の少女らしさを残しつつも、周囲を見据えるような強さを秘めている
幼さよりも、未来の女王としての自覚と覚悟を感じさせる眼差しだった
纏うドレスは、淡い水色を基調としたロングドレス。裾は波打つように広がり、銀糸で描かれた紋様がきらめきながら、まるで大海のうねりを象徴していた
胸元は気品あるハートカット。肩には透き通る薄布が流れ、優雅でありながら威厳を漂わせる。
腰元には真珠を連ねた飾り帯が添えられ、その光沢が清らかな気品をさらに引き立てていた
そして髪には銀のティアラ。繊細な貝殻の模様に青い宝石が散りばめられている
それはまるで“海が授けた冠”のようで、彼女の存在を際立たせていた
その姿は、もはや幼さを残す一人の少女ではない
“海に愛され、国を背負うことを運命づけられた、凛然たる若き王女”
そう呼ぶにふさわしい風格を、彼女は確かに纏っていた
アリアが歩みを止めると、会場は静まり返り、その視線は一斉に彼女へと注がれた
王女は深く一礼し、顔を上げると、澄んだ声で言葉を紡いだ
「本日は、私のためにこのような場を設けていただき……本当にありがとうございます」
わずかな緊張が表情に浮かぶものの、その声は凛として揺らぎがなかった
「15歳を迎えた今日、こうして皆さまに祝っていただけることを、心から嬉しく思います。そして……これからは父や母に恥じぬよう、一人の王女として国のために尽くして参ります」
その瞳には決意が宿り、少女から王女へと歩みを進める覚悟がはっきりと見えていた
《ピクシー、この風景……保存しといて》
《アリアさんを切り抜きますか? それともこのまま全体で保存しますか?》
《両方お願い》
《わかりました、いつでも念写できるようにしておきます》
ベルはピクシーにそうお願いしながら、アリアの姿を静かに胸へ刻み込んでいた
ベルがアリアへ視線を向けていると、会場に待機していた使用人たちが参加者一人ひとりにグラスを手渡し始めた
「お嬢さんはジュースでよろしいですか?」
「まだ11歳なので、お酒は飲めません」
「かしこまりました。では果実水をどうぞ」
ベルも微笑みながら差し出されたグラスを受け取る
透明な液面が光を反射し、会場のシャンデリアの輝きと重なって、祝祭の雰囲気を一層引き立てていた
ルーカスは手元のグラスを軽く確認すると、優雅に掲げる
「では、皆の者――我が娘アリアの門出を祝して、乾杯!」
その声に続き、アリアも澄んだ笑顔でグラスを掲げる
「皆さま、よろしくお願いいたします」
母である王妃も、穏やかに微笑みながら静かにグラスを掲げた
会場全体が一瞬にして祝福の空気に包まれていく
こうして、アリアの誕生日パーティーは華やかに幕を開けた――
ベルは果実水の入ったグラスを軽く揺らしながら、この先に待つ時間へ静かに胸を高鳴らせていた