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664話 華やかな会場と小さな逃走劇

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664話 華やかな会場と小さな逃走劇

パーティー最初の行事が終わろうとしていた頃、会場の扉が開き、1人の美しい少女が入場してきた

その姿は、第2の主役の登場のようで、会場の視線を一斉に集めていた

綺麗な金色の髪をなびかせながら優雅に歩みを進める少女の前方は自然と道が開け、王族の集まる正面中央の席まで一筋の通り道ができていた

「お初にお目にかかります。私は、マーベルド王国第2王女のテレス・ティア・マーベルドと申します。父、ボルト・テンド・マーベルドに代わりまして、アリア様の15歳の誕生日を心よりお祝い申し上げます」

その言葉が響くと、会場は一瞬にして静まり返った。人々の視線はすべて入場したテレスに注がれる

美しい立ち姿と金色の髪、落ち着いた声に、自然と誰もが息を飲むようだった

小さな子供たちは目を丸くし、大人たちは心の中で感嘆の声を漏らし、王族たちですら目を離せずに見守っていた

ベルは一歩下がりながら、目立たない場所を求め、身を潜めるように移動していた

(すごい……さすがテレスだね、こんなに注目を集めるなんて)

ベルは心の中で静かに感心していた

「マーベルドからかなり遠いのに、こんなところまで私のために来てくれてありがとう」

「いえいえ、父は旧友のルーカス様にお会いしたいそうですが、国王同士で多忙ゆえ叶わず……せめて私だけでもと、送り出してもらいました」

「テレスさんは、この国へ来るのは初めて?」

「はい。マーベルドから比較的近いドルナードへはよく訪れますが、それ以外は距離的に厳しく、ほとんど行ったことがありません。なので、カールンへ来たのも初めてになります」

「そう。テレスさんも王女様ってことは忙しいかもしれないけど、可能な限りカールンを楽しんでいってね」

「もちろんです。存分に楽しませていただきます。いつまでもこの場を独占するわけにもいきませんので、最後にこちらをルーカス様へ」

そう言うと、テレスは淀みない所作で空間収納から1通の手紙を取り出し、まるで舞うような動きでルーカスへと差し出した

ルーカスは微笑みを浮かべ、丁寧にそれを受け取る。会場の空気は再び静かに引き締まり、王族同士の交わりにふさわしい厳かな雰囲気が漂っていた

「王紋ってことは、ボルトからのものか?」

「はい。理由や想いはすべて、この中に記されているはずです。それでは、失礼いたします」

そう告げて優雅に一礼し、テレスは静かにその場を下がっていった

(うわっ! こっちきたー!)

退場の進路は、まさにベルが身を潜めている方向だった

焦りつつも、冷静にテレスの目につかないよう素早く場所を移動する

「多分セーフ」

「ほんとに? 結構怪しかったと思うけど」

「テレスにバレなきゃなんでもいいです」

「だからって私の後ろに隠れないでよ」

「アマリアさんのところは危険地帯なので、今いちばん安全そうなのがミアラさんの後ろです」

「あなたのせいでめっちゃ目立つんだけど……」

「私のことは気にしないでください。そしてミアラさんのドレスで私を隠してください」

そう言いながら、ベルはミアラのふんわりと広がるスカートの裾の膨らみを利用し、器用にしゃがみ込んで姿を隠した

「隠れるのはいいけどさ、私の後ろでいいの?」

「どうしてですか?」

「私、ミーファのお姉ちゃんなんだから、テレスちゃんがこっち来た時逃げられなくない?」

「……さよなら」

それを聞いた瞬間、ベルは速攻でミアラの背後から離れた

(……ここならバレないだろう)

そう考え、ベルは周囲の様子を伺い、床まで垂れたテーブルクロスをそっとめくると、その下へ滑り込んだ

(ここなら安心だね、誰にも見えないしバレない)

テーブルクロスに覆われた机の下で、ベルは小さく安堵の笑みを浮かべていた

《見ていると、子供が遊んでいるようにしか見えませんよ?》

《知らん知らん、テレスにバレなきゃなんでもいい》

そんなことを考えつつ、机の下で三角座りをして静かに身を潜めていた

すると、頭上から人々の声が微かに漏れ聞こえてくる

「さすがマーベルドの王女様、立ち居振る舞いが洗練されているわ」

「ええ、まだ若いのに堂々として……まるで女王のようね」

(おっと……こういうの聞いちゃうと余計に出にくいんだよなぁ)

ベルはテーブルクロスの影で肩をすくめ、息を潜めながら会話に耳を澄ませていた

「あ、誰かいるー!」

「ん?」

背後のテーブルクロスがめくられ、幼い男の子が顔をのぞかせた

「お姉ちゃん、何してるの?」

「隠れてるの。バレちゃうから、別の机行って?」

「かくれんぼしてるの?」

「まぁ、そんなとこ。君のせいで見つかったら、お姉ちゃん怒っちゃうぞ?」

ベルは苦笑しながら小声でそう告げた

「一緒に遊ぼ?」

「君、全然話聞いてないな」

男の子はベルの言葉をまるで気にせず、楽しげにさらに話しかけてきた

「だから静かにして! 本気で見つかったら困るんだから!」

ベルは焦って人差し指を口に当て、必死に口止めをした

「遊んでよ〜。遊んでくれる人いないんだもん。大人の人はみんなおしゃべりばっかで、ぜんぜん相手してくれないんだ」

「はぁ……ちょっとだけなら遊んであげるから、静かにしてね」

「やったー!」

男の子は満面の笑みを浮かべると、机の下に潜り込み、ベルの隣にぴたりと座り込んだ

「何して遊ぶの?」

「わかんない」

「じゃあなんで来たの」

「だってすることないもん」

(社交辞令とか並べまくってる会話なんて、子供にはわかんないよね)

「はいはい。これあげるから、静かにしててねー」

そう言いながら、ベルは空間収納から棒の上半分がバネになっていて、先端に桜の飾りがついたおもちゃを取り出し、手渡した

「なにこれ?」

「揺らしてみて」

「こう?」

男の子は首を傾げながら、桜のおもちゃを横に振る

すると先端の飾りから桜色の光がこぼれ、揺れに合わせて桜のエフェクトが舞い落ちていった

「なにこれ! すごーい!」

男の子は目を輝かせ、とてもいい笑顔を見せていた

「それ、君にあげるから、静かにしててね」

「やったー!」

嬉しそうに、男の子は机の下から飛び出していった

(これで安心)

《ほんとですか?》

《え?》

《あの子が机の下に潜り、あのおもちゃを持って出てきたことが伝わると、必然的にここがバレると思いますけど》

《まぁ、テレスにバレなきゃ誰にバレてもいいよ》

《テレス様なら、あのおもちゃを見た時点で直ぐにマスターだと気づきそうですけど?》

《その辺は祈るしかない》

半分諦めたように、ベルはそう言った

その後も机の下に身を潜めたまま、パーティーはゆっくりと進んでいった