668話 疑惑の視線とダンス後の大問題
668話 疑惑の視線とダンス後の大問題
ベルが最初に踊ってから数曲が終わり、会場ではちらほらと休む人の姿も見え始めた頃
「お嬢さん、私とも一曲いかがですか?」
「あ、えっと……」
《ピクシー、ヘルプ!》
シモンとミアラが別の相手に誘われて席を外した隙を突き、テレスがベルのもとへ歩み寄り、優雅に手を差し出した
《どうしようもできません、諦めてください》
《そんなぁ〜……》
「……喜んで」
心の中で絶望しながらも、ベルはテレスの差し出す手を取り、ダンスの誘いを受け入れた
テレスのリードで二人は軽やかに踊り始めた。
すると会場のあちこちから、ささやき声が聞こえてきた
「さっきはアリア様と踊っていたわよね?」
「今度はテレス様と? 一体あの子は誰なの」
「……可愛いだけじゃなく、踊りも様になってる」
視線と噂が集まる中、ベルはひたすら目立たないように自然な笑顔を作りながらステップを踏み続けた
「……やっぱり、とても素敵ですね」
耳元に届いたテレスの言葉に、ベルの心臓が大きく跳ねた
「あ、ありがとうございます……」
(やめて……そんなこと言われたら余計にまずいんだけど!?)
「ふふっ」
ベルの返答に、テレスは楽しげに微笑みながらも、しなやかにリードを続けていた
それから少しして静かに曲が終わり、それを合図に踊っていた人たちも互いに礼をして別れて行った
「最後にお名前をお聞きしても?」
「あ、えっと……ベル、です」
「ベル……さん、お顔が私の婚約者様ととても似ていたのでお声がけいたしましたが、お名前まで同じとは……」
困惑したような表情を浮かべ、視線をさまよわせていた
「同じ人……なんて、ありえませんよね?」
「いえ、私はあなたのような美しくも可愛らしい子に会った記憶はありませんね」
「そう……ですか」
(一応確認しておこう)
〔ベルくん? 今どこにいる?〕
テレスはベルに疑いの目を向けつつ、確信を得るためにベルへ念話をかけた
(念話来たよ)
《どう返せばいいと思う?》
《普段通りでいいと思いますよ》
《それもそっか、なら今回は適当な嘘で切り抜けよう》
〔急だね、どこって聞かれたら海かな〕
〔じゃあお城にはいない?〕
〔うん、今いるとこは水しかないよ〕
〔そっか、それならなんでもない〕
少し安心したように息を吐く
〔了解、お魚お土産に持って帰るね〕
〔わかった、楽しみにしてるね〕
そう言って念話を切った
「なにか不都合がありましたか?」
「いいえ、世界には同じ顔の人が3人いるって聞いたことがあるので、本当に同じ顔の人を見たのが初めてで驚いているだけですよ」
そう言ってテレスは笑って見せた
「そうですか……踊ってくださってありがとうございました。それでは」
ベルはそう言うと、慌てるように足早に元いた場所へと戻って行った
「私を守ってくれないせいで、大変な目に遭いましたよ……」
ベルはムスッとした表情でシモンを睨んだ
「悪かったって……さすがにダンスを誘われたら断れんだろ?」
そう言いながらシモンに詰め寄ったベルは、もう逃がさないと言わんばかりに背後からお腹に腕を回して抱きついた
「こうしてるとほんとに子供みたいね」
「ち、違います。私は甘えてるんじゃなくて……シモンさんが逃げないように捕まえて、ついでに隠れてるだけです」
「ほんと〜? 泣き顔隠してるんじゃないの〜?」
ミアラはニヤニヤしながらそう言った
「会場中に聞こえるくらいの声で、ミアラさんにいじめられたって泣いてあげましょうか?」
「さすがにやめて? 私が子供いじめてるみたいじゃない」
「……シモンお兄ちゃん、この人がいじめてくる……」
「ちょっと!!」
ベルはわざと子供っぽく可愛い声に変えて、そう呟いた
「はいはい……仲良くしろよ」
苦笑しながらそう言い、シモンは呆れ気味に場を収めていた
「そういや、この後プレゼント渡すけど、ちゃんと用意してるのか?」
「プレ……ゼン……ト?」
「忘れてたのかよ。パーティーの最後にプレゼントを渡す時間があるんだ。用意できる人は用意してねって感じの、あれだ」
「……聞いてませんよそんなの!」
ベルは思わず声を裏返らせ、顔を上げてしまった
「テレスのときもプレゼント渡す時間あったんだから、あるのはわかるだろ」
「ど、どうしよう……何も用意してません……!」
「空間収納とかになんか入ってないのか?」
「……考えるので隠していてください」
「はいはい」
「私も!」
そう言って、シモンとミアラは横に並んでベルを隠した
「これ?……それともこれ?……女の子に何をあげればいいんだ……?」
2人の後ろで、ベルは次々と物を取り出しては戻し、また取り出してはしまうことを繰り返しながら、必死にプレゼントを考えていた
「ねぇねぇ、こんなのどうかな?」
「ん? なんだそれ」
「何それ?」
ベルが差し出した物を見て、シモンとミアラはそろって首をかしげた
「魔石だよ?」
「デカすぎだろ!?」
「大きすぎない?」
「純正龍っていう龍の魔石だよ、多分、一番いい魔石だと思う」
「まじかよ……」
「そんなにいいものなの!?」
「価値だけ見たらかなりいい物だから、喜んでくれると思う?」
「普通の女の子に送るってんなら喜ばないだろうな、加工するのにも馬鹿みたいな金額がかかるし」
「そうですか……ミアラさんはどう思います?」
「見た目も綺麗だし、いいものなんだろうけどね……私はあんまり嬉しくないかも、使い道がないし」
「確かに……なら女の子として意見をください。ミアラさんなら何が嬉しいですか?」
「女の子が嬉しいもの……可愛いものとか? それから、アリアに渡すってことだから、普通に買えるものよりは希少価値が高いものとかもいいかもね」
「可愛いもの、それから希少価値が高いもの……」
(え、どうしよう……どうやって決めればいいんだろう)
《それでしたら、マスターが好きな桜茶の桜をプレゼントしてはどうですか?》
《桜茶……たしかに可愛いけど、あれで喜ぶかな?》
《喜ぶと思いますよ。今朝、紅茶に桜を浮かべてあげたら喜んでいましたし》
《確かに喜んでたけど、いるのかな?》
(やっぱり、これでいいのかな……焦るなぁ)
《見た目も可愛いので、そのまま飾ってもよし、紅茶に浮かべても華やかになっていいですね。希少価値で言うと、この世界ではマスターしか持っていないので、かなり高いと思いますよ》
(なるほど……見た目も可愛いし、希少価値もあるし……これで決まりかな?)
「これはどうですか?」
そう言って、ベルは小瓶に入った生の桜を見せた
「それならいいんじゃないか? さっきの魔石よりは女子が喜びそうだし」
「私もこれなら嬉しいかな、可愛いし」
「ならこれをプレゼントにしますね」
「それがいい」
「うん、それがいいわね」
「意見ありがとうございます」
2人にお礼を言い、ベルは用意した可愛い包みで小瓶を包み始めた
「さっきから見てたが、いろんなもん出てくんな」
プレゼントを探すために、空間収納から色々出してるのを見て気になったようだ
「そうですか?」
「アクセサリーとか魔石とか出てきたと思ったら今度はそれ、さらに包み紙とかリボンとかさ」
「なにかに使いそうだなって思ったものは適当に入れてますからね」
「それにしてはいつ使うんだ? みたいなのも入ってるな」
「とりあえずで詰めますからね、容量多いので」
「ふーん」
それから会場の端に身を潜め、渡す時が来るのを静かに待っていた