669話 華やかな会場の不穏な気配
669話 華やかな会場の不穏な気配
プレゼントを渡す時間を静かに待っていた時、ベルは何かを見つけた
「シモンさん、今アリアさんの横に並んでるダンス待ちの列の3番目の人、取り押さえてください」
「急だな、何があったんだ?」
「いいからいいから、とにかく3番目の緑の髪の女性を捕まえてください」
「ベルがそう言うならわかった」
ベルの瞳は疑念ではなく、明らかな敵を認識した確信の色を帯びていた
「ドレスのスカートをめくり、右足の内側を確認してください」
「女性のスカートをめくるのはさすがに気が引けるんだが……」
「なら、列の5番目にいる男性に任せてください。あの人は参加者に扮した騎士で、警備役です」
「無理にでも抑えるか? それとも静かに?」
「どちらでも、できるなら穏便にお願いします」
「了解」
「一応伝えておくと、短剣を持っていて、毒も塗られていると思います。お気をつけて」
「短剣は要注意だな、わかった」
必要な情報を頭の中で整理し、シモンはベルに言われた人物へ近づいていった
「お兄ちゃん、気をつけてね」
「任せとけ、俺はそう簡単にやられたりしない」
心配そうに声をかけるミアラに、シモンはお兄ちゃんらしく堂々と胸を張って答え、目的の人物へ歩み寄った
「ちょっといいか?」
声をかけられた女性が振り返り、不思議そうに首を傾げる
「はい、なんでしょう?」
「少しお話を伺いたい。ここだと人目があるから、端の方へ」
にこやかに微笑みながら、シモンは自然に列の端へと促した。その際、視線だけで合図を送り、列に並んでいた警備役の騎士も同行させる
人目の少ない場所に移ると、シモンは声を落として口を開いた
「確認させてもらっていいか? 右足の内側だ」
女性は一瞬息を呑み、すぐに小さく笑みを作った
「……冗談でしょう? そんなところ、男性に見せられるはずがありません」
スカートを押さえる仕草をして、軽く身を引く。声音は穏やかだが、瞳には「絶対に見せない」という固い意志が宿っていた
「それなら女性に確認してもらうことも可能だが、どうする?」
シモンがそう告げると、女性の表情が固まり、次の瞬間には明らかな動揺を見せた
「そ、それは……必要ありませんっ!」
手に力を込め、必死に押さえながら、わざと声を張り上げる。その声で周囲の参加者がちらりとこちらを見た
「ちょっと! この人、私のスカートをめくろうとしてます!!」
その声に周囲の視線が一気に集まる
「な、何ですって!?」
「え、どういうこと?」
必死に騒ぐことで、周囲の視線を逸らそうとしているように見えた
騎士に扮した参加者は女性の変化を見逃さず、気づかれないよう仲間の騎士を静かに集めた。列の人たちはざわつくが、騎士たちは動きを乱さず、慎重に囲んでいく
女性がわずかな隙を見せた瞬間、複数の騎士が静かに押さえ、逃げられないよう固定した
「落ち着いてください。抵抗しても無駄です」
女性は慌てつつも身動きできず、息を荒げた
「何するのよ!! 離して!!」
シモンは前に出て慎重に確認する。女性のスカートの下をそっと覗くと、ホルスターに収められた短剣を見つけた。刃には毒らしき液体が塗られていた
騎士たちが囲んで押さえているため、女性は抵抗できず、緊張の糸が張り詰めた空気が辺りを包んだ
女性の短剣が確認され、騎士たちが周囲を固めると、場の緊張が少しずつ和らいだ
「……あぁ、良かった」
「やっぱり誤解だったのか」
列の端で見守っていた参加者たちが、安堵の声を漏らす
シモンは両手を開き、にこやかに笑いながら言った
「ご覧の通り、私が疑われるようなことは何もしてません。皆さん、安心してください」
騒ぎに巻き込まれた列の参加者たちも、ほっとした表情を見せ、視線がシモンから短剣の確認へと移る
「……ご、ごめんなさい。誤解でした」
先ほどシモンへ疑いの目を向けていた女性参加者が、気まずそうに頭を下げた
シモンは苦笑しながら肩をすくめる
騎士のひとりが低く告げる
「取り押さえた者が凶器を隠し持っていたことを確認しました。シモン様には我々の捜査にご協力いただいただけです。皆さま、ご安心ください」
こうして、シモンへの誤解は自然に解け、騒ぎは静かに収束していった