670話 華やかな会場に潜む影
670話 華やかな会場に潜む影
アリアの暗殺を未然に防ぎ、シモンはベルたちのもとへと戻ってきた
「お疲れ様です」
ベルがにこやかに声をかける
「いや、俺は何もしてないよ。ほとんど騎士がやったからな」
「それでも、シモンさんが冷静に判断したからこそ、騎士の人たちも動けたんです」
「……そうか。なら、少しは役に立てたってことだな」
シモンはわずかに肩の力を抜き、安堵の笑みを浮かべた
「それより、なんであいつが短剣を隠してるってわかったんだ?」
純粋な疑問を、シモンはベルに直接ぶつける
「会場に入った時点でわかってましたよ。毒の気配は全部拾ってますからね。他にも武器や武器になり得るものなども」
「じゃあ、なんで最初に止めなかったんだ?」
「最後の思い出にパーティーを楽しんでもらうため?」
「なんで疑問形なんだよ」
「特に理由はないです。ただ……王族の命を狙った時点で、死刑は免れませんから。本当に最後の思い出のためです」
「……そうか」
シモンは短く答えると、にぎやかな会場を静かに見つめ続けた
「ちなみに、この会場にはアリアさんの命を狙う輩が……まだ居ますよ」
「はぁ!? おい、それをわかってるなら早く警備に突き出せよ!」
「私が動いてないってことは、まだ狙う気を見せてないってことです」
「だからって放置は駄目だろ!」
「じゃあ、シモンさんが対処しますか?」
「する! だから教えてくれ!」
「今はダメです」
「なんでだよ!」
ベルはさらりと微笑み、肩をすくめた
「狙う気を見せたら、その瞬間に私が潰します……安心してください」
「安心できるか!」
「今は1人捕まったせいで、他も警戒して動けません。下手に捕まえようとすれば、関係ない人まで巻き込む可能性があるんです」
シモンは眉をひそめ、短く息を吐いた
「……わかった。狙ってるのが分かったら、すぐ教えろ。頼むぞ」
ベルは軽く笑みを浮かべて頷いた
「はい、もちろん」
その後もベルたちがパーティー会場を静かに眺めていると
「あそこの髪が黄色で、赤色のスーツの男を捕まえてください」
ベルはシモンにだけわかるように指さして伝えた
「早かったな」
「混乱に乗じて狙うようです。武器は右手の中指の指輪が暗器で、毒の針が出ます。胸の内ポケットにもペンの形をした暗器を持っているので気を付けてください」
「わかった」
シモンは先ほど1人捕まえたことで自信がつき、肩の力を抜きつつも背筋を伸ばして歩き出した
(任せろ)
内心でそうつぶやき、敵に向かって堂々と歩み寄る
「その隣にいる青髪の男性が騎士です。既にマークされているので、声をかけたらわかると思います」
「了解」
「警戒されてると思うので気をつけてくださいね」
「わかった」
ベルは変わらず冷静に会場を見守り、シモンの行動を注意深く追った
シモンは自信と少しの余裕を持ち、迷いなく敵のもとへ向かった
(こっちのが一応手練なんだよね……1人捕まえたからって慢心しないといいけど)
ベルが静かに見守る中、シモンが声をかけた――その瞬間
敵の動きは速かった。シモンの右手に鋭い痛みが走り、血が滴り落ちる
(ほら、油断するから……)
苦笑いを浮かべながら、ベルはシモンへと近付いた
「だから気をつけてねって言ったでしょ?」
ベルはシモンの前にしゃがみこみ、にこやかに――しかしどこか冷ややかに笑って言った
「手練なら……そう教えてくれよ」
シモンは右手を押さえ、走る鋭い痛みに歯を食いしばって耐えていた
額には汗が滲み、悔しさと苛立ちが入り混じった表情を浮かべている
「なんだおまえは、こいつの仲間か?」
「……私のお友達になんてことしてくれるの?」
ベルの声は穏やかだったが、その瞳は冷たく相手を見据えていた
「知らねぇよ、そいつが勝手に怪我してんだろ? 俺は何もしてねぇぞ」
男はしらを切るように笑ったが、ベルは小首を傾げて騎士へと視線を向けた
「ふーん……ねぇねぇ、この人の指輪、なんか変じゃない?」
「……この子には、その指輪が“変”に見えるようだ」
騎士は静かに答え、男の右手へ視線を落とした
「一応、確認させてもらおうか」
その瞬間、男の顔に明らかな動揺が浮かんだ
それを見逃さず、周囲に控えていた“本物の騎士”たちがすぐに駆け寄る
「な、なんだよ! 俺は何も――」
男は焦りから騎士の手を振り払って逃げようとしたが、四方から伸びた逞しい腕にあっさりと取り押さえられた
「離せっ! 俺は無実だ!」
必死に叫ぶ男を押さえ込みながら、騎士の1人が素早く指輪を外した
「……やはりな。細工が施されている」
指輪を逆さに傾けると、小さな毒針が光を反射して現れる
その場にいた者たちが息を呑み、騎士たちの表情は一層険しくなった
「王族を狙った暗器――言い逃れはできまい」
取り押さえられた男は青ざめ、言葉を失った
「へっ……捕まえられたのは、俺のおかげだな」
シモンは右手を押さえ、苦しそうに息をつきながらも、どこか誇らしげに口元をゆるめた
「はいはい、怪我人は安静にしようね〜」
『完全回復』
そう声をかけつつ、ベルは静かに回復魔法を施した
温かな光がシモンの手を包み、傷口がみるみるうちに塞がっていく
「……おお、もう痛くねぇ」
「だから言ったでしょ、気をつけてって」
ベルが軽く笑うと、シモンは少しだけ照れくさそうに頭をかいた
その後は会場の緊張も次第に和らぎ、賑やかな雰囲気が戻った会場で、皆は思い思いにパーティーを楽しんでいた