671話 列の中で隠れたいお嬢さん
671話 列の中で隠れたいお嬢さん
騒動が収まり、会場にも再び穏やかな空気が戻った。
みんなの表情にも笑顔が戻り、ようやく元の雰囲気に落ち着いた
そんな中、会場の中央では――プレゼントを渡す時間が始まろうとしていた
「渡す順番とかあるんですか?」
「身分の低い者から順にだ。今回は一番最後がアマリアとテレスの二人になるな」
「なるほど……じゃあ、私は?」
ベルは少し困ったように首をかしげた
「自分のこと、あっちには何も伝えてないんだろ?」
「はい。国王様以外には、身分とか何してるとか、何にも伝えてません」
「なら、俺らと同じタイミングで行くか?」
シモンは優しくそう聞いてきた
「それでいいんですか?」
「一緒に行くって言っても、俺らの前か後ろになるけどな」
「それでいいなら、それで」
会場の中央では、列ができ始めていた。
最初に並んでいるのは、小さな子どもを連れた家族だ
「どうやら、子ども連れの人から先みたいだな」
シモンがそう言うと、ベルは列を眺めながら首を傾げた
「プレゼント持ってない人も並んでますけど、いいんですか?」
「ああ、この国では“1家族につき1つ”って決まりなんだ」
「理由があるんですか?」
「渡すのに時間がかかるし、贈られても使い切れないってさ。王族が“物より気持ちを大事にしてる”って意味もあるらしい」
「……なるほど、素敵ですね」
ベルが小さく笑ったその時、先頭の女の子が緊張した面持ちで小さな箱を差し出した
「アリア様、これ……髪飾りですっ……!」
アリアは優しく受け取り、箱を開く。
中には、桃色の花をあしらった可愛らしい髪飾りが入っていた
「まあ……とっても綺麗。ありがとう」
女の子は照れくさそうに笑い、母親の後ろに隠れる。
その様子に、会場から柔らかな笑い声がこぼれた
その光景を見守りながら、ベルはふと疑問を口にした
「1家族につき1つ、なんですよね?」
「そうだぞ?」
「……1“家族”?」
ベルは首を傾げながら、シモンとミアラを順に指さした。
2人の手には、しっかりとプレゼントが握られている
「……あれ? それぞれ持ってますよね?」
ベルの言葉に、シモンとミアラは顔を見合わせ、同時に苦笑した
「私たちは特別よ。アリアと仲がいい子はみんな個別に用意してるの。友情に“1家族1つ”のルールは関係ない」
「なるほど」
そう話しながら、ベルたちも列に加わった
「そういえば、テレスとアマリアさんってどのあたりなんですか?」
「あいつらは一番後ろだから、俺らの少し後ろだな。俺らは他国の公爵家で、その後ろにこの国の公爵家が並んで、最後にアマリアたちだ」
「それなら私はシモンさんとミアラさんの前に並びます」
「俺らとしては、後ろに行ってくれると助かるんだが……なぁ? ミアラ」
「そうね、私たちの身分じゃ、ベルには敵わないもの」
「じゃあ、誰が私を隠してくれるんですか」
ベルは少しむすっとしたような表情で聞いた
「もうダンスも踊ったんだからいいじゃねぇか、まだ隠れんのか?」
「そういう問題じゃありません、そのおっきい体で私を隠してください!」
「はいはい、注文の多いお嬢さん」
そう言いながら、シモンはベルの真後ろへ立ち、そっとベルを隠すように立った
それから列は着実に進み、少しずつベルの番が近づいていた
そんな時――
「ギュッとして、ぽーい」
ベルの声に合わせるように、列の最前列に並んでいた男性が突如ロープでぐるぐる巻きにされ、まるでゴミでも捨てるかのように、騎士たちの並ぶ目の前へ放り投げられた
「前が何やら騒がしいみたいね、何かあったのかな?」
「さぁ? 馬鹿な誰かが騒ぎを起こしてるんじゃないですか?」
ミアラが騒ぎに気づいてそう言うと、ベルはまるで「関与していませんよ」とでも言うように、しれっとシラを切っていた
「さぁ? じゃないよ、お前の後ろに俺ら並んでんだよ。聞こえてるからな? 大人しく“私がやりました”って言っとけ」
シモンは「私がやりました」と言わせるように、ベルのほっぺを片手で掴んで口を動かしていた
「殺意を感知したので、やりました」
「……だからって、何も言わずにやるなよ。騎士の人たち困ってんぞ」
「攻撃しようとしたところを止めたんですから、褒めてくださいよ」
「えらいえらい。――2人は並んでてくれ、俺が簡単に説明してくる」
「わかった、ベルは私が預かるわね」
「頼んだぞ」
ミアラにそう伝え、シモンは騒ぎの中心へ向かった。
シモンの背を見送りながら、ミアラはベルの後ろから肩に腕を回し、自分の体でベルを隠すようにそっと抱き寄せた
「あと何人いるの?」
「3人です」
「そっか……アリアも大変ね」
「ですね」
そう言って、ベルはミアラに抱き寄せられたまま、静かに自分の番が来るのを待っていた