673話 止められない一歩
673話 止められない一歩
城の外が一気に騒がしくなった
遠くで悲鳴と怒号が入り混じり、地面が低く震えている
空を見上げれば、黒く渦巻く雲がゆっくりと海側から迫ってきていた
「シモンさん、国王様とアリアさんに現状を伝えて。すぐに騎士を海岸線の避難誘導に回して」
「任せとけ――けどお前、どこ行く気だ」
「怒ってるなら、落ち着かせに行くしかないでしょ」
ベルはそう言い残し、急いで窓へと向かうと、両手で勢いよく窓を開け放った
「襲ってこないでねって、私言ったよね? 何してんの?」
窓を開けると、ベルは空間をねじ曲げて声を届かせるようにしながら、独り言のように呟いた
「海は我らの領域……それを汚すというのならば、わからせるまでよ」
周囲に重々しい声が響く。それと同時に、膨大な魔力が空間を震わせた
「死にたくなけりゃ大人しくしてな、さもなくば三枚おろしにするよ?」
「ふっ……ちっぽけな人間ごときに我らをどうこうできるとでも思ってるのか?」
「今引いてくれるなら海も綺麗にしてあげるのに、本当にいいの? 私、強いよ?」
「海を埋めた報いだ、せいぜい足掻け」
優しく問いかけるベルとは対照的に、海からこちらを見つめるリヴァイアサンは、闘志をみなぎらせながら威圧的に言い放った
「そっか、なら相手してあげる」
そう言って窓から飛び降りようとした瞬間、背後から抱きとめられ、動きを止められた
「ベル、ダメ!」
「何するんですか、このままだと国が滅ぼされますよ?」
「ダメなの!!」
アリアは必死にベルを押さえ込み、離すまいとしていた
「どうしてですか?」
「カールン王国が出来てすぐの頃に、海を埋め立てて土地を広げようとして、リヴァイアサンに国を滅ぼされかけたって記録に残ってるの。だからベルでも、あれには勝てないの!!」
「大丈夫ですから、私に任せてください」
「ダメったらダメ!」
ベルは小さく息を吐き、アリアの腕にそっと手を添えた
「……私1人の命と国、どっちが大切か、アリアさんには分かりますよね?」
「……ベルの方が大事」
アリアはベルを行かせまいと背中から抱きつき、顔を背に埋めたまま動かなかった
(ここまで懐かれたら、逆に大変だね)
「王女様なんですから、国を大切にしてくださいよ」
「もういいもん、あれのせいで国なくなっちゃうし」
「だから守るって言ってるんです。離してください」
アリアは首を横に振り、ぎゅっと抱きしめる力を強めた
「……嫌だ」
「はぁ……」
《転移で逃げますか?》
《それはさすがに無理かな。力込められてる状態で消えたら、アリアさんが窓から落ちる》
《じゃあ魔法で──》
《目立つ。やりたくない。本当は頭冷やせって殴って海に沈めるつもりだったんだけど》
そんなやり取りをしていると、背後から大きな声が飛んできた
「こいつに任せときゃ、なんとかなるって!」
勢いよく駆け寄ってきたシモンが、豪腕でアリアを引き離した。アリアは必死にしがみつこうとしたが、シモンの力に阻まれ、身体を離した
「行かせたらベルが死ぬって言ってるじゃない!」
アリアが食い下がると、シモンは肩をすくめ、軽く笑みを浮かべて言った
「よく考えろ! お前は目の前でベルがとんでもないことするところを何回も見てるだろ! そんなベルが任せろって言ってんだ、信じて任せりゃいいんだよ!」
いつもの軽い口調とは裏腹に、その目にはベルへの絶対的な信頼が宿っていた
「想像してみろ。ベルが負ける姿、思い浮かぶか?」
アリアは涙を拭いながら、震える声で答えた
「……分からない。でも、相手があれじゃ勝てっこないよ」
「だから大丈夫だ。こいつのことだ、何事もなかったみてぇな顔して帰ってくるよ」
シモンは短く、しかし力強く断言した
「お前はベルの“余裕”を見てるし、俺たちもそれを知ってる。だから信じて待ってやれ」
言葉は短く、それでいて重かった。アリアはもう一度ベルの顔を見つめ、深く息を吐くと、しぶしぶながらも頷いた
「……絶対死んじゃダメだよ。ベルが死んじゃったら、私はそこから飛び降りて死ぬから!!」
「はいはい……それじゃ、行ってきます」
そう言ってベルは足元に不可視の結界を張り、それを足場として力強く踏み込んだ
ベルは、まるで瞬間移動でもしたかのような速度で窓の外へ跳び出した
踏み込みの衝撃だけが城全体へ伝わり、重厚な城がドンッと大きく揺れた
今のストーリーとは関係ありませんが、おまけとしてAIでベル、テレス、ミーファ、レミアの4人のイメージ画像を作ってみました
AI生成であることをご理解いただいたうえで、興味のある方は下のXのリンクからご覧ください
https://x.com/i/status/2070342685060431997