674話 海神との対峙
674話 海神との対峙
ベルが城を飛び出して間もなく――
静かな海辺に、ベルの声が響いた。
「おまたせ、私が相手してあげる」
「あと10秒遅ければ、津波で全てを押し流してやるつもりだったところだ」
リヴァイアサンは海面から巨大な胴体を晒し、冷たい眼差しでベルを睨みつける。その体は海面から10メートル以上も突き出し、遠くからでも空を覆うほどの巨体だった
ベルは宙に静止し、小さく頷く
「本当に、これでいいのね?」
「無論だ。前回のように領域を埋め立てる愚か者どもを放置すれば、我らの怒りは収まらん」
そのやり取りを受けて、ピクシーが注意を促した。
《忠告しておきます。殺してはダメです》
《え、ダメなの?》
《このリヴァイアサンはカールンの守護神のような存在です。絶命させれば、他国からの侵略が頻発する可能性があります》
《なるほどね。こいつがいるから襲えば返り討ちにあう──だから逆に手出しされにくくなってるわけだ》
《そういうことです》
《なら黙らせる――海のもずくにしてやる》
《冗談はやめてください。それに、もずくじゃなくて"もくず"です》
《沈めたらどっちも一緒でしょ?》
ピクシーの抑制的な忠告と軽口が対照的に響く中、ベルの目には静かな決意が宿っていた
「行くぞ!」
「はいはい、大人しく沈んどけ」
リヴァイアサンは大きな口を開け、ベルをひと飲みにしようと迫ってくる
ザブン――
だがベルは、片手を軽く振るうだけで、空気が震えるような衝撃を伴ってリヴァイアサンを海へ叩き落とした
「頭冷えた?」
「……この我を一撃で沈めただと? ふざけるな!」
どうやら頭を冷ますどころか、プライドに火がついたらしい。
リヴァイアサンが咆哮すると、周囲の海水が渦を巻き、巨大な水竜となってベルへと襲いかかった
「ん〜……どうしよっかな」
少し考えるように視線を上げ、静かに呟く
「――凍れ」
次の瞬間、リヴァイアサンの操っていた海水は瞬時に凍りつき、氷の竜はそのまま空中で砕け散った。
無数の氷片が月明かりを受けて、青白くきらめきながら海へと散っていく
「なっ!」
「どうしたの? そっちが喧嘩売ってきたんだから、もう少し私を楽しませてよ」
まさか海水で作り出した竜が凍らされ、粉々に砕かれるとは思ってもいなかったのだろう。
リヴァイアサンは明らかに動揺を見せていた。ベルはその様子を見て、無邪気な笑みを浮かべながらも、どこか挑発するような声でそう言った
「これならどうだ!」
リヴァイアサンは海中で大きく旋回し、やがて海に渦が生じる。それに呼応するように、空には黒い雲が集まり始めた。
「おぉ〜、そんなことできるんだ」
雲が集まり、ゴロゴロと鳴りながら稲光が走る空を、ベルはどこか感心したように見つめた
「くらえ!」
その声とともに、眩い光が一直線にベルへと落ちてきた――
だがしかし
「そういうのやめてよね、このドレスが破れたりしたら怒られるの私なんだから」
雷に撃たれてなお、ベルは何食わぬ顔で文句を言う
「……何故我の攻撃はお前に効かんのだ」
「そんなの分かりきってるじゃん、私が強いから」
「……貴様は何者だ」
「私はこの国の王女様のお友達、ただそれだけ」
「……こ、今回だけは見逃してやろう、だが次はないからな」
「はいはい、次に暴れようとしたら本気で懲らしめるから覚悟しててね」
リヴァイアサンは敗色を悟ったのか、低く唸りながら身を引いた。
ベルは軽く肩をすくめ、穏やかに言葉を続けた
「王族には私から話しておくからさ、次からはちゃんと話し合ってね。海は私が綺麗にしてあげるから、だからもう怒らないでね?」
「……わ、わかった」
そう答えると、リヴァイアサンは逃げるようにそそくさと沖へ潜っていった
「ふぅ……諦めてくれてよかったね」
《圧倒的な力を見せつけ、勝てないと悟らせることで諦めさせる――実に効率的な方法です》
《そうだね、あとは崩れた崖を元に戻して》
そう言いながらベルは崩れた崖に魔法をかけると、まるで逆再生のように海底から岩がせり上がり、崩れた断面がみるみるうちに元の姿へと戻っていった
《はい、おーわり……戻ろ》
ベルは崖を修復し、ちらりとリヴァイアサンの様子を確かめてから、元いた城へ転移した