675話 静かな帰還
675話 静かな帰還
ベルは簡単にリヴァイアサンを追い払い、余裕綽々と転移で城へと戻ってきた
「……そんなにお祈りしなくても、私はそんな簡単に死なないよ」
城に戻ると、アリアが神にベルの無事を祈っているところだった
「っ! ……良かった……無事でよかった」
アリアは声の聞こえた方へ振り向き、力の抜けたような安心しきった声でそう言った
「だから言ったでしょ、私に任せてくださいって」
ベルは普段と何ひとつ変わらぬ様子だった。
リヴァイアサンとの戦いを終えた直後とは思えないほど落ち着いており、その姿からは激戦を終えた者らしい気配は微塵も感じられない
「だってそんなの……本当に勝てるなんて思わないもん」
「私ってそんな弱そうに見えます?」
ベルがそう聞くと、アリアではなくアマリアが答えを返した
「あなたの場合は強さよりも可愛さの方が目立つから、弱そうに見えても仕方ない」
「まぁ、人の意見なんてどうでもいいですけどね。私のやりたいように出来ればそれで十分です」
ベルは自分で聞いておきながら、肩をすくめてあっさりと流した
「あ、そうだ。国王様」
「なんだ?」
場を収めるために騎士へ指示を出していた国王に近づき、ベルは軽く声をかけた
「リヴァイアサンには、次からはちゃんと話し合いをしてって伝えておいたから。もう同じことにはならないはずだよ」
「そうか、手間をかけさせたな。ご苦労」
そう言って国王は、無意識のうちにベルの頭へ手を伸ばし、優しくひと撫でした
「あ……すまん」
「あ……すまん」
我に返ったように手を離す
「いえ、それじゃ」
ベルは少しだけ目を瞬かせたが、気にした様子もなく小さく頷くと、静かにその場を後にした
その後、会場の隅で静かに過ごしていると、男たちの低く抑えた声が耳に届いた
「……あの子、直接見たわけじゃないが、知っている気がする」
「ふむ、俺はさっぱりだ」
「まさかとは思うが――あれ、ランクEXの冒険者じゃないか?」
「……それは、世界に一人しかいないという、あの?」
「そうだ。白い髪に、子供のような容姿だと聞いたことがある」
「馬鹿な。そんな存在が、王女殿下の誕生会に顔を出すものか。そもそもそのEXは、マーベルドやドルナード近辺を活動場所としている冒険者だ。この国との接点など、存在しないはずだ」
「だが、もし本当にそうなら……この国は安泰かもしれんな……」
そんな噂話を聞き流していると、会場は少しずつ落ち着きを取り戻し始めた
「騒ぎもあったが、アリアの誕生会を再開しよう。プレゼントを渡せていない者はいるか?」
会場が落ち着いたのを見て、国王が声を上げたが、誰も名乗り出る者はいなかった
「お父様。列の一番後ろに並んでいたアマリアさんとテレスさんからのプレゼントは、既に受け取っていますよ」
「そうだったか、なら――本日の誕生会はこれで締めとしよう」
そう言って、国王は場を見回し、軽く杯を掲げた
ほんの少し前までの騒ぎが嘘のように、会場には静かな安堵が広がっている
「今日は波乱もあったが……娘の無事を祝えるだけで、私は十分だ」
その言葉に、貴族たちが小さく頷き、控えめな拍手が起こる
音楽も再び流れ始め、緊張の残る空気の中、それでも誕生会は穏やかに終わりへと向かっていった
「何度も言うが、こうして無事に終えられたことを、神に感謝しよう」
国王の言葉を合図に、会場は徐々に穏やかな終わりの空気に包まれていった
侍女たちが並び、笑顔で参加者たちへ小さな包みを手渡していく
「本日は特別な日にお越しいただき、誠にありがとうございました」
包みの中には、小さな宝石の飾りと焼き菓子が入っていた
王女の誕生を祝うと同時に――今日という1日を無事に終えられたことへの感謝の印でもある
人々はそれを受け取りながら、互いに挨拶を交わし、名残惜しそうに会場を後にしていった
「お嬢様にはこちらを」
退場の雰囲気が広がる中、ベルはあえて最後まで会場に残っていた
理由は単純。先に出てしまえば、貴族たちに色々と声をかけられるのが目に見えていたからだ
ならば――皆が退場するまで静かに待っていればいい
そうすれば、誰にも話しかけられることなく、自然に姿を消せる
ベルなりの、ささやかな回避策だった
「えっ……と?」
ベルは少し首を傾げながら、渡されたものを受け取った
「参加してくださったお礼の品になります」
「まぁ……うん。流れ的にわかるけど、私のだけ他の人のと違くない?」
軽く見た限り、他の人たちが渡されていたのは10センチ角の小さな箱だった
けれど、ベルが受け取ったのはそれよりも一回り大きい、20センチ角の箱だった
「そちらはお嬢様だけの特別なお品でして、アリア様ご本人がお選びになられたものです」
「そうなの?」
「はい。特別なお品ですので、他の参加者の方にはあまりお見せになりませんようにお願いいたします」
「そっか、ありがとう」
そうお礼を言って、すぐに空間収納へとしまった
「ちなみになんだけど、私はどうするのが正解だと思う?」
「と、言いますと?」
「このままここで待ってるのか、それとも部屋に戻ってもいいのかってこと」
「そうですね……あくまで私個人の意見にはなりますが、どちらでも構わないと思います。お嬢様はアリア様のご友人であり、会場の設営などもお手伝いいただきました。ですので、お嬢様を運営側として扱っても不自然ではありません。どうなさるかは、お嬢様のご判断にお任せいたします」
「そっか、私のために時間を取ってくれてありがとう」
「いえいえ、お気になさらず」
そう言って、笑顔で一礼し、静かに仕事へと戻っていった
(どうしたものか)
そう思ったが、深く考えるよりも大人しくしていようと決めた
会場の邪魔にならないよう、隅の方で静かに、誰かに呼ばれるまで待つことにした