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677話 王女様の本当の願い

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677話 王女様の本当の願い

ベルはアリアの呼びかけに歩みを止め、後ろを振り返った

「どうしました?」

「今日は何の日かわかる?」

「アリアさんの15歳の誕生日?」

「そう。じゃあね、誕生日の日って何があると思う?」

アリアはわざと含みを持たせるように微笑んだ

「お祝い?」

「確かにそれもそうね、だけど違う」

「じゃあプレゼントを貰う?」

「ん〜……プレゼントではないけど、かなり近い」

「じゃあなんですか?」

「正解はね……誕生日の日って、誕生日の人が一番偉いのよ。だからその人の言うことって絶対なの」

アリアはどこか得意げで、どこか期待を含んだ目をベルへ向ける

「つまりね……まだ帰しません。もうちょっと付き合って?」

直接は言わないのに、“もっと一緒にいたい”。

そんな想いだけが、ふわりとベルに伝わってくる

「別に構いませんけど、先に着替えさせてくれません?」

「却下します、私の命令は絶対です!」

アリアは得意げな笑顔で胸を張った

「はぁ〜……何したいんですか?」

(わがままな子だね、まぁいいけどさ)

ベルは軽くため息をつき、半ば諦めたようにアリアへ尋ねた

「あー! 今、絶対"この人わがままだな"とか思ったでしょ!」

「いえ全く」

ベルはそう言いつつ、ほんの少しだけ視線を逸らした

「ほら見なさい、やっぱり思ってたんでしょ。ベルが言ったのよ? 女の子はわがままなくらいが可愛いって。他にも王女様なんて、わがままなくらいがちょうどいいってね!」

「そんなこと言いました? 人違いじゃないですか?」

「私のお友達に"ベル"って名前の子は、あなた以外に存在しません!」

「……はぁ。じゃあ改めて聞きます。わがままな王女様は私に、何をお求めですか?」

「今日の残りの時間と、明日のベルを私が貰います」

「……貰う?」

「一緒にいてってこと! 言わせないでよ、恥ずかしいんだから」

アリアの頬は、言葉とは裏腹にしっかり赤く染まっていた

「今日はまぁ許します。ですけど、明日は誕生日終わってますよね?」

「今日できなかった分を明日やるの! 文句は認めません」

(今日もずーっと一緒にいたと思うんだけど……仕方ない、付き合ってあげるか)

ベルは小さく肩をすくめると、諦めたように笑った

「はいはい、お供しますよ、王女様」

「そう、それでいいのよ!」

アリアはベルの返事に、嬉しさを隠しきれない笑顔を浮かべた

「会場のお片付けはお父様たちがやってくれるから、私たちは……行きましょ!」

「ちょ!」

何か思いついたらしく、アリアはいきなりベルの手を取って部屋を飛び出すように歩き出した

「ちょっと! どこ行くんですか!?」

「ん? お風呂」

「えっ」

あまりにも予想外の返答に、ベルの足は岩のようにその場で固まった

「ほら、お風呂行くよ!」

「ど、どうしてお風呂ですか?」

「会場の準備でも疲れたし、パーティーの時もダンスとか色々あったでしょ。癒されないとね!」

「……行きません」

「どうして? ほら、行くよ」

アリアは当然のように手を引き続け、ベルはされるがまま引きずられる形だ

「私は行きませんよ、絶対に」

「どうしてよ」

「行きませんったら、行きません」

「どうして?」

「行きたくないからです」

アリアは足を止め、ベルをじっと見つめた

その視線が突き刺さるようで、ベルは気まずそうに視線を逸らした

「学園で着替える時も更衣室を嫌がってたよね。なんでなの?」

「行きたくないんですよ。私が誰かの裸を見てしまうと死ぬ呪いにかかってますから」

「……え?」

一瞬だけアリアの表情が固まる

だが、次の瞬間には呆れたように肩をすくめた

「はいはい、変な冗談言ってないで行くよー」

アリアは軽い調子で言いながら、ぐいっと力を込めた

「嫌ですってば!!」

ベルは必死にアリアの進行方向とは真逆へ、全体重をかけて踏ん張っていた

その様子はまるで、散歩を全力で拒否して踏ん張る犬のようだった

「さっき言ったこと、もう忘れたの? その日、誕生日の人が一番偉いの。今一番偉いのは?」

「……私です」

「ぶっぶー、違います。正解は私。だから私の命令は絶対!」

「もうやだこの人……」

ベルは堪えきれずに小さく漏らしてしまった

「そっか……嫌だよね、そうだよね。こんな私、嫌だよね」

ぽつりと落とされた声は妙に弱々しく、その直後、アリアは何故か横の窓を勢いよく開けた

「こんなわがままな王女様はいらないよね。じゃあ……ばいばーい」

「え?」

言うが早いか、アリアは本当に窓の外へ飛び出した

「ちょ、ちょいちょいちょい!!」

あまりの展開に、ベルは思わず素で叫びながらも反射的に魔法を展開し、落下するアリアをしっかり捕まえて室内へと引き戻した

「何やってるんですか!? この高さから落ちたら普通に死にますよ!」

アリアはベルに抱えられたまま、少しも慌てた様子を見せず、小さく笑った

「だって、ベルなら絶対助けてくれるもん」

(風属性の魔法を使えるから着地くらいできるし……)

「だからって飛び降りないでくださいよ」

ベルは呆れたように小さくため息をついて、アリアを下ろした

「だって……ベルが一緒にお風呂入ってくれないんだもん。誕生日特権も無視しようとするし」

アリアは口を尖らせ、わざとらしく拗ねた態度で文句をこぼしていた

「お風呂以外ならアリアさんの望むようにしてあげますから、それでいいでしょ?」

「……ダメ。一緒にお風呂入る」

「どうしてそんなにお風呂にこだわるんですか」

アリアはほんの一瞬だけ目をそらし、もじもじと指先をいじった

「……だって」

小さく漏らした声には、さっきまでの勢いはなかった

「ベル、リヴァイアサンのところへ行っちゃったでしょ」

「……」

「あの時、本当に帰ってこないかもしれないって思ったの。止めようとしても止められなかったし……」

寂しそうに俯いたアリアは、ぎゅっとベルの服を掴む

「だから今は……少しでも一緒にいたくて……」

そこまで口にしてから、アリアはハッと我に返った

みるみるうちに頬を赤く染めると、慌てて両手をぶんぶん振る

「ち、違うの! その、ほら! 男の子って裸の付き合いをしたらもっと仲良くなるって言うじゃない!」

「誰ですかそれ教えたの。私が殺します」

「だ、だからね……一緒にお風呂入ろ?」

アリアは不安そうにベルの返事を待つ

「……」

ベルが黙ったまま視線を逸らすと、アリアは決意したように小さく息を吸った

「一緒に入らないなら、私は何回でも飛び降りるから」

「……きょ、今日限りです。今日以降は何があろうと、アリアさんが飛び降りようとしたとしても放っておきますから、勝手に死んでください」

「ひど!? そこはまた助けてよ!」

「嫌です。私は自分に害をなす人を助けませんよ」

「……わかったわよ、今日だけね」

「本当は嫌ですけど……はい」

アリアの表情がぱっと明るくなった

「やったね!」

その声には隠しきれない喜びがあふれていて、アリアはルンルンと弾む足取りでベルの手を引き、お風呂へ向かっていった