690話 先生の一苦労
690話 先生の一苦労
アリアたちのチームが決まってから少しして、先ほどの教師から声がかかった
「じゃあチームが決まったところからこっち来い。5年生以上のやつを入れるからな。まだチーム組めてないやつははよ組めよ。じゃないと俺らで勝手に決めるからな」
その声に、すでにチームを組み終えていた生徒たちは前へと移動し、まだ決まっていない子たちは慌てた様子で周囲を見回しながら集まり始めていた
「誰がこのチームに入るのかな?」
「さぁ? 先生たちの気分次第?」
アリアとアマリアがそんな話をしているうちに、ちょうど自分たちの番が回ってきた
「アリアのとこか。メンバーは?」
「私とアマリアとミンちゃんとケンちゃんとベル」
「んぁ? ベルって誰だ?」
「この子」
アリアはベルの肩に両手を置くと、そのまますっと一歩前に出させた
「んー……ほんまに誰だ?」
「一時的に入学を許可してもらった子。学園長の許可も、お父様の許可ももらってます」
「そうか。ちゃんと戦えるか?」
「私より強いくらい?」
「なるほどな。まぁいい」
ベルのこと自体は、意外なほどあっさりと受け入れられた
だが次の瞬間、教師の視線がアリアとアマリアに向く
「それはそれとして、なんでアリアとアマリアが同じチームなんだよ。お前らは別れろよ」
「ダメ?」
「問題?」
ほぼ同時に投げかけられたその一言に、教師は一瞬言葉を詰まらせた
強く言うべきなのは分かっている
だが、相手は王女が2人
頭では分かっていても、口が素直に動かなかった
「……好きなやつと組めって言った俺も悪いか。今回だけは許す」
そう言って、教師は小さく息を吐き、頭を抱えるようにして話を締めた
「次からはちゃんと別れてくれよ? お前らが組むとチームバランスが崩れるんだよ」
「なんで?」
「お前ら強すぎんだよ。3年の実力トップ2人が同じチームとか、バカかよ」
「ダメって言われてないよ?」
「……だから今回だけは許すって言ってんだよ。ちょっと待っとけ、考えるから」
そう言って教師は背を向け、少し乱暴に頭を掻きながら、このチームにどの上級生を入れるべきかを改めて考え始めた
「俺、そのチーム入りたい」
「……あ?」
声のした方を見た教師が、心底嫌そうな顔をした
「お前は一番ダメだろ」
「なんでよ」
「ただでさえアリアとアマリアっていう強いのが2人いるんだ。そこにシモン、お前まで入ったら色々終わるだろ。お前が入るくらいなら俺が入った方がまだマシだ」
教師は真顔でツッコミを入れていた
「じゃあ私は?」
今度は横から、何事もなかったかのようにミアラが手を挙げた
「兄弟揃って、そんなにこのチーム入りたいか?」
教師の声には、呆れと頭痛が混じっていた
「私ならシモン兄さんより弱いから、そこまでバランス悪くならないよ。それに、2人が暴れすぎないように制御もできるし」
教師は一瞬だけ黙り込み、深く息を吐いた
「……もうどうでもいいわ。どうせアリアとアマリアがいる時点で、バランスはとっくに終わってる」
そう言って、半ば投げやりに手を振る
「ミアラ、お前が入っとけ。その代わり、ちゃんと2人を制御しろよ」
考えることを放棄したようにそう告げられ、ミアラは一瞬だけ目を瞬かせたあと
「やったね」
と、あっさり嬉しそうに笑った
「というわけで、私が上級生枠を勝ち取ったってわけ。よろしくね」
「なんだか先生が可哀想だったけどね」
「先生を悩ませてるの、2人だからね?」
「……そうだね」
「でもまぁ、仕方ないよね」
アリアとアマリアは顔を向かい合わせ、分かっていながらもそれ以上触れるつもりはない様子で、軽く笑い合っていた
「とりあえず、邪魔にならないように離れてよ」
「確かに」
ミアラの言葉に従い、周囲の様子を見ながら、少し離れた場所へと移動した
「先生はバランス考えてるみたいだけど、このチームには1人でバランスを崩壊させてる人がいるんだから、色々考えたところで意味ないよね」
「それは言えてる。先生も、こんな可愛い子が全部終わらせるなんて思わないよね」
そう言いながらアリアはベルの後ろへ回り、力を抜いたまま顎をベルの頭に乗せた
腕も軽くベルの肩から前へ垂らすように回し、寄りかかるように体重を預けている
「ここにいる生徒全員を相手に1人でも、多分余裕で勝てるでしょ」
「余裕でしょ。そこそこ強いはずのあいつでも、決闘じゃ手も足も出なかったんだから」
ミアラとアリアとアマリアの3人の会話を横で聞いていたミンちゃんとケンちゃんは、何の話をしているのかよく分からないといった様子だった
「何の話?」
「ミンちゃん、オルカの決闘って見てない?」
そう問いかけられ、ミンちゃんは首を傾げる
「負けたって噂は聞いたけど、見に行ってはないから知らない。ケンちゃんは?」
「俺も見てないから知りません」
「そっか。それがどうしたの?」
少し間を置いて、アマリアが口を開いた
「オルカが負けた相手ってね、実はベルなの」
「へぇ〜、あいつがベルちゃんに負けたんだ」
「そう。オルカがね、ベルを怒らせちゃって殺されかけたの。まぁアリアのお父さんが止めてくれたから助かったんだけどね」
「この可愛さからは想像できないね」
「凄かったよ。火属性魔法の最高峰って、これなのかなって思ったもん」
「そんなに凄かったの?」
「まぁこの後見れるかもしれないから、楽しみにしてて」
「それもそっか。先に聞いたら面白くないもんね!」
興味津々といった様子で、ミンちゃんとケンちゃんはベルの方を見ていた
「言っときますけど、あれは使いませんからね」
ベルは静かに、きっぱりとそう返した
「どうして? 使ってよ〜」
「あの時は本当に殺す気だったので使いましたけど、今回はあくまで模擬戦なので使いません」
「守護魔法があるから、当たっても大丈夫なのに?」
「あの魔法、守護魔法ごと焼きますよ?」
「……魔法が焼けるって何?」
ミンちゃんは、思わずアマリアに助けを求めるように視線を向けた
「多分だけど、発動している魔法を圧倒的な魔力量と熱で散らして、無効化するってことだと思うよ」
「え、じゃあ守護魔法あっても死ぬ?」
「多分ね」
「やっぱり使わないで。さすがに目の前で誰かが死ぬのは見たくないから」
「当たり前ですよ。こんなところで人は殺しません」
そんな話をしている間に、周囲では最後の調整も終わったようで、全てのチームが揃ったのが分かった
それを確認した教師の声が、訓練所に響いた
「それじゃあチームも決まったところで模擬戦を始める。5チームずつに分かれて森林演習室だ。実戦ゲリラ戦形式でやるからな、お前らちゃんとやれよ」
「先生、俺らに任せろって。ちゃんと見ててやるから」
「一室に1人は教師が付くけど、もし困ったら余ってる上級生を頼っていいからな」
「余ったって言い方ひどくない?」
「事実だろ。お前らは好きに5チーム連れて別れていけ。5チームずつで、余ったら演習室5にまとめてぶち込め」
教師と上級生の1人がそんなやり取りをしている間にも、他の上級生たちは手際よく動き出し、すでに各チームを引き連れて移動を始めていた
ベルたちのチームも上級生に案内され、訓練所から森林演習室と呼ばれる部屋の扉の前へとやってきた
「みんな、ちゃんと聞いてね。ここがこれから模擬戦をする森林演習室だよ。この中には空間魔法がかかっていて、中はとっても広い森になってるんだ」
上級生は穏やかな声で扉を指し示しながら、説明を続ける
「この扉に入ると、森の中のどこかに転送される仕組みになってるの。だからね、入る時はチーム全員で手を繋いで入ってね。はぐれないためだから、必ずだよ」
「先輩。私たち、実際に使ったことはないですけど、先生から説明は受けてますよ?」
「あ、そうだったんだ。ちゃんと説明されてたなら安心だね。じゃあ大事なところだけ話すね」
そう言って、にこっと笑ってから続けた
「中の出口には上級生が5人と、先生が1人待機してるよ。もし困ったことがあったら、無理せずすぐ来てね」
上級生は大事なところを確認するように、さらに説明を続ける
「それから、やられた判定になったら、この部屋の隣に自動で移動するようになってるの。目の前で人が消えても、ちゃんと安全な場所に移動してるだけだから心配しなくていいよ」
そう言ってから、上級生は軽く周囲を見回して続けた
「それじゃあ、準備ができたチームから、みんなで手を繋いで扉を開けてね。中に入って、誰かと出会った時点で戦いはもう始まってるから、気は抜かないようにね」
最後にそう優しく念を押し、扉の方へとみんなを促した
「じゃあ行こっか」
ミアラがそう言って、アリアに手を差し出した
「はい」
ミアラとアリアが手を繋ぐと、それに続くようにチームのみんなも順に手を繋いでいった
「それじゃあ、行くよ」
そう言って、ミアラが扉に手をかけた瞬間
手を繋いでいた6人の視界が一瞬だけ白くなった
次の瞬間には、鬱蒼とした森の中へと移動していた