691話 チームの役割分担
691話 チームの役割分担
森林演習室へと入ったベルたちは、すぐに警戒態勢をとった
「私たちが一番に入ったから、そんなにすぐ相手は来ないよ。だから、そこまで警戒しなくてもいい」
「あ、そうなの〜?」
ミアラにそう言われ、さっきまで一番警戒していたミンちゃんが、少し気の抜けた声で返した
「すぐ入ったとしても、それぞれ結構間隔を空けて移動するから、すぐには会わないよ」
「そっか、警戒して損した」
「まぁ、警戒するのはいいことだけどね。でも、ある程度でいいから、いつ来てもいいように周りは見ておいて」
「は〜い」
そう返事をしつつ、ミンちゃんはさっきより力を抜きながらも、周囲を軽く警戒していた
「ベルは、敵の位置が分かっても誰にも教えちゃダメだよ」
「黙ってればいいんですか?」
「そう。敵がどこにいるか分かっちゃったら、この授業の意味がなくなるからね」
「分かりました」
「開始の合図とか何もないから、全チームがこの空間に入ったかどうかだけ教えて」
「もう4チーム入ってきてるよ」
「なら十分ね。じゃあ、アリアかアマリアのどっちかが指揮を取って、好きに動いてみて」
「じゃあアリアね。判断ミスしたら絶対ミアラに指摘されるんでしょ? それちょっと嫌だから任せる」
「ひどい言い方だけど否定はしないわ。間違えた判断をしたら、ちゃんと止めるように言われてるから」
「……それ聞いたら、私も正直やりたくないんだけど。ベル、やる?」
若干押し付けるように、そう聞いた
「私が指揮なんて出来ると思いますか?」
「頭いいんだから、できるんじゃない?」
「私なら、誰かが死なないように全体を考えるより、自分が飛び込んで1人で解決した方が早いので、指揮は向いてないと思います」
「……はぁ、わかったわよ。私がやればいいんでしょ、やれば」
「その意気ね。最後に確認するわよ。今回の授業はあくまで魔法戦。誰も剣や盾は持ってない。だから、視界に入った時点で、相手もこちらもすでに射程圏内だと思って動いて」
「はい」
そうして、指揮がミアラからアリアへと移った
「じゃあ、ここからは私が指揮を取るわ。みんなは私の指示に従ってね、ベルもよ?」
「はい」
ベルはどこか遠くを見つめながら返事をした
「どこ見てるのよ」
「いや、広いなーって思って」
「とりあえず進むから、ちゃんと着いてきてね」
「はい」
アリアの指示で、森を進み始めた
「広さだけで言ったら、今のカールン王都くらいあるらしいわよ。だから広いのも納得ね」
歩きながらミアラが軽く説明を入れると、ベルは少し目を丸くして周囲を見渡した
「ん〜……カールンの王都の1.5倍くらい広さありますけど」
「あれ、そうなの? まぁ、正確に測ったわけじゃないし、この空間に入るのも主に生徒だからね。カールンの王都くらいっていうのは、誰かの感覚で言っただけの話よ」
「そうなんですね……遭難しそうです」
「この空間とは別の部屋に、全部で10個ある森林演習室の中を監視する特殊な部屋があるのよ。そこで誰がどこにいるか見られるから、万が一遭難しても必ず見つけてくれるわよ」
「……あ、ほんとだ。見えてる」
ベルの視界の先には、透明な監視カメラのように、この空間を監視している先生の姿があった
目が合ったことに気づいた先生が、少し驚いているのは言うまでもない
「あなたに何が見えてるのか、私には分からないわ」
「あそこです。あそこから、さっきいた先生とは違う先生が3人と、上級生5人が見てますよ」
そう言って指さす先には何もないが、ミアラは不思議そうにその場所を見つめていた
「やっほーって言っても聞こえないもんね」
そう言いながら、ベルの指した場所に向けて手を振ってみる
「大きい爆発音は聞こえても、声まではさすがに拾えませんね」
「全く別の場所の声が聞こえたら、それはそれで驚きだけどね」
そんな話をしているうちに、最初に到着した場所からある程度の距離を進んでいた
「ミアラ、そういえば上級生の役割って何?」
アリアがそう尋ねると、ミアラは簡単に説明した
「判断ミスの指摘と、軽い戦力補強かな。私たちは入ったチームの誰かをリーダーに指名して指揮を取らせる。それで、指揮の悪いところや判断ミスを指摘するの。その他のチームメンバーはリーダーの指示に合わせてしっかり動く。それができているか確認する、って感じね」
「じゃあミアラも私の指示で動くの?」
「まぁ、そうね。でも、私の魔法には期待しないでね。あんまり強くないから」
「わかった。じゃあベルは?」
「指示してもいいけど、過度に使いすぎると減点対象かな。あんまり規格外なことをされると困るし」
「はい」
それを確認し、アリアは一旦立ち止まった
「そういえば……今のうちに確認しとこう。みんな、何ができるか教えて?」
「私は火と水と風と土の4属性が使えて、50mくらいの範囲なら索敵できる。魔力量もそこそこかな」
まずはアマリアが、自分のできることを伝えた
「了解。じゃあ、2人は?」
「私は風と土の2属性で、索敵は1キロくらい先までできるよ〜。攻撃は2つの属性を組み合わせて、索敵範囲と同じくらいの距離までなら遠距離攻撃ができるんだけど、1キロ先だと弾が耐えられなくて、当たっても土がパラパラ落ちるくらい。実用的にダメージを与えられるのは500mくらいまでかな」
次に、ミンちゃんができることを伝えた
「すごい、遠くまで攻撃できるのは知ってたけど、そんなに遠くまでできるんだね」
「お母さんなら100キロくらい飛ばせるんだけど、私はまだまだ実力不足〜」
「ここならそんなに広いわけじゃないし、十分だよ。ケンちゃんは?」
「俺は風属性と……こんな感じの結界魔法が使えるよ」
そう言いながら、ケンちゃんは手の上に六角形の半透明な結界を作り出した
「結界? 珍しい形だね」
「俺の家系が結界を専門とした家系だから、それのおかげだよ」
「そうなんだ。どのくらいの攻撃に耐えられる?」
「アリアとアマリアみたいなバカ火力だとすぐ壊れちゃうと思うけど、それ以外ならそれなりに耐えられると思う」
「なるほどね。ベル、これどのくらい耐えられるの?」
結界がどのくらいの強度なのか、ベルに確かめた
「ケンちゃんは自信なさそうだけど、魔法の訓練で使ってたアリアさんの魔法なら15発くらいは耐えられるかな」
「え、そんな強かったの?」
驚いたようにアリアが答えた
「普通の結界なら3発くらいで壊れてると思う。でもこの結界は形が形だから強度が高い」
「何か違うの?」
ベルは右手に普通の結界を、左手にケンちゃんの結界を作って見せながら説明した
「普通の結界は一枚板のような形。ケンちゃんの結界は、六角形の結界をいくつもくっつけて1つの結界として作られているの。そうだよね?」
「うん。小さいのをいくつもくっつけて衝撃を分散する。なんでわかったの?」
ケンちゃんは、ベルが当たり前のように説明していることに、少し不思議そうに聞いた
「こういう使い方もできるって、前から知ってたから」
「そっか。一応、俺の家の独自技術だから、情報がどこかに漏れてるのかと思った」
「そういうわけじゃないから安心して」
「うん」
ケンちゃんは納得したように頷き、その話題を終わらせた
「その結界って、他とそんなに違うの?」
アリアが改めてそう聞いた
「強度が上がるっていうのもあるけど、普通の結界って1箇所でも壊れたら、そのまま全体に広がっちゃうんだよね。でもこれは細かく分かれてるから、壊れた部分だけ修復できる」
「分かれてるから、治すのが簡単なんだ」
「うん。その分、最初に張る時は数が多くなるから、消費魔力が多くなるっていうデメリットもあるけどね」
「ケンちゃんは大丈夫?」
「うん。このチームを囲むくらいの結界なら、6回は貼り直せるよ」
本当に大したことはない、という調子でケンちゃんは答えた
「そっか、ならいいや。次にミアラは何ができるの?」
「私は火と風だよ。ただ、みんなみたいに派手ですごい魔法は使えないかな」
「本当?」
アリアが少し意外そうに聞き返した
「ほんとほんと。私の家はね、魔法っていうより近接寄りなの。だから魔法はちょっと苦手なのよ」
そう言ってから、ミアラは少しだけ付け加えた
「まぁ、シモン兄さんは魔法も強いけどね」
「……そういえば一応、同じ森林演習室にいるんだけど。シモンって、どのくらい魔法が使えるの?」
シモンもこの空間にいることを思い出し、念のために確認するように聞いた
「魔力量はアリアほど多くないけど、威力はアリアと同じくらいの魔法を使えるよ。身体能力はガストン先生と同じか、それ以上って感じかな」
「……逃げた方がよくない? 明らかに強すぎる気がするんだけど」
「先生がさっき言ってた意味、分かるでしょ?」
「うん。シモンだけ実力が飛び抜けてるの?」
「まぁね。実力だけ見たら、倍くらい差があると思う」
「そっか……そんなバケモノが、この中にいるんだ」
「大丈夫だよ」
そう言って、ミアラはベルの頭にぽんと手を乗せた
「こっちには、正真正銘のバケモノがいるから」
「それもそうね。シモンに困らされたら、ベルを当てましょうか。じゃあ最後に、ベルも何ができるか教えて?」
「……大体のことは出来ます」
「……1番得意なのは?」
苦笑いを浮かべ、少し困ったように聞いた
「得意ってわけじゃないですけど、使うなら氷ですね」
「氷……氷属性ってこと? なんで?」
「火だと全焼しますし、水だと海になりますし、風だと嵐、土だと地形が崩れます」
少し間を置いて、さらに続けた
「光だと最悪失明しますし、闇だと……全部飲み込まれて、なくなります」
「どれもやばいんだけど」
「だから、1番被害が少なそうなのが氷なんです。安全策ですね」
「それほんとに大丈夫? 全部凍ったりしない?」
「さすがに……多分……きっと、大丈夫だと思います」
ベルはそのまま、少しずつ視線を逸らしていった
「まぁいいわ、氷ね」
「はい。氷なら炎みたいにエネルギーが拡散するものじゃなくて、質量として扱えるので、多分安全だと私は勝手に考えてます」
「魔法は氷ってことは分かったけど、他は?」
少しだけ間を置いてから、ベルは胸の前で握りこぶしを作る
「殴れます」
「ふっ……それは誰でも出来るわよ」
ベルは一瞬考え込むように視線を彷徨わせてから、アリアを見た
「……何をして欲しいですか?」
「そうね……足りないものを考えるなら、回復。それから支援魔法とかかしら?」
「できますよ。回復は体力回復ですか、魔力回復ですか。支援魔法は魔法威力向上ですか、それとも移動速度強化ですか。魔力の最大値を上げます? なんなら私が魔力タンクとしてみんなに魔力を分けましょうか?」
一気に言い切ったあと、ベルは小さく首を傾げるようにしてアリアを見た
その表情は、はっきり口に出さずとも「私に何を求めますか?」と問いかけているようだった
「あなた、ほんとなんでも出来るのね……」
「はい。魔法は火、水、風、土、光、闇、氷、雷、聖。結界や空間、時間、重力も扱えますし、回復や支援、索敵もできます。あと……殴れます」
淡々と指折り数えるように告げるベルに
「多いのよ……」
と、アリアは即座に突っ込んだ
「冗談じゃなくて、ほんとに使えるものを教えて」
ベルの言ったことが、まさか本当だとは思えず、念のため聞き返す
「火と氷と空間と回復と支援と索敵と……殴れます」
選んだ結果だけを、淡々と答えた
「……それでも多いけど、了解」
チーム全員の能力を頭の中で整理し、アリアは一瞬だけ視線を落として考え込む
「……あ、一応私のことも伝えとくね」
そう前置きしてから続けた
「私は火と水と風が使えて、魔力量で吹き飛ばすのと、物量で押し切るのが得意よ。ね、アマリア」
「そうならないことを願ってるわ」
そう返しながら、アマリアはどこか苦い表情を浮かべた
アリアはそんなアマリアの表情を見て、万が一自分が先にやられた時には、物量で押し切る役をアマリアに任せることになるかもしれないと思った
少し考えるように視線を落とし、それから顔を上げる
「あ、聞き忘れてたけど、ケンちゃんの結界って、持続させるのにどのくらい魔力を消費するの?」
「1秒ごとに500くらいずつ減っていくよ。だから、維持するだけなら3分くらいは持つかな」
「なるほどね。じゃあ、張り直しは何回できる?」
「みんなを守れるくらいの四角い結界だと、1回張るのに15000くらい消費するから……全部で6回」
「了解。ちょっと考えるわ」
そう言って、アリアは腕を組み、少しだけ考え込んだ
「よし……役割を伝えるわ。まずミンちゃんが索敵。相手を見つけたらすぐ教えて。その後、相手にゆっくり近付いて、接敵したらケンちゃんの結界で隠れながら、私とアマリアを主軸に攻撃するわ。ミアラの魔法は……おまけみたいな感じで」
一通り指示を出し終え、アリアはみんなの顔を見渡した
ベルだけ、役割が出ていないことに気づき、少し首を傾げる
「私は?」
まるで、みんなが呼ばれている中で、自分だけ名前を呼ばれなかった子供のような、純粋な目で聞き返した
「ベルは攻撃は基本なしよ」
一拍置いてから、アリアは続けた
「あなたが攻撃したら、連携とかクソもなくなりそうだしね。だから回復がメイン。あとは誰かが魔力切れになりそうなら助けてあげて」
「分かりました」
ベルは特に不満を見せることもなく、納得した様子で素直にそう返事をした
「それじゃ、ゆっくり先に進むわよ」
アリアがそう告げると、自然と全員の意識が前に向いた
そのままアリアを先頭に、森のさらに奥へと進んでいった