692話 突然の突撃
692話 突然の突撃
アリアの指示で、警戒しながら森の奥へと進んでいた
「ん……前、1キロ先に反応」
ミンちゃんのその声で、アリアのチームは一斉に足を止めた
「了解。相手が進んでる方向は分かる?」
「うん。まっすぐこっちに来てるよ」
「そっか……」
一瞬だけ考えてから、アリアは結論を出した
「ならこっちはケンちゃんの特別な結界もあるし、まっすぐ突撃しよっか」
「突撃?」
その作戦を聞いて、ミアラが思わず聞き返した
「うん。向こうも一直線で来てるなら、こっちも真っ直ぐ行った方が早いでしょ」
一瞬だけ考えるように目を伏せてから、ミアラはぱっと顔を上げた
「そっか。じゃあベル、一緒に突撃だー!」
話が終わる前に、ミアラは勢いよくベルの手を掴んだ
「えっ……!」
説明を理解する間もなく、そのまま引っ張られる形で走り出す
「ちょっと!?」
アリアたちは、ミアラのあまりにも唐突な行動に、ほんの一瞬だけ反応が遅れていた
驚きと制止が混じったアリアの声だけが、2人の後を追う
体が動くよりも先に、声だけが反射的に飛び出した形だった
「え……どうする? 2人いなくなっちゃったけど」
周囲を確認しながら、アマリアが落ち着いた声でそう言った
「……どうするも何も、追うしかないでしょ!」
一拍遅れて我に返ったアリアが、苛立ちを隠さずに声を張り上げる
「チームメンバーが2人もいなくなったら、さすがに私の評価落ちる!!」
そう言ってアリアが走り出すと、アマリア、ミンちゃん、ケンちゃんも慌てて後を追った
「ちょっと、なんか早くない!?」
「アリア! 2人、加速してどんどん離れていってる!」
「なんでそんな速いの!?」
「知らないよ! あと10秒も経たないうちに、2人が接敵する!」
「はやすぎ!」
4人は必死に追いかけたが、距離は縮まるどころか、逆に引き離されていくばかりだった
「……接敵した!」
ミンちゃんが、息を詰めたように声を上げる
一瞬の間
全員が、次の言葉を待つ
「あれ……?……2人の反応が、消えた」
「……え?」
やられたら、別の空間に転送される
そう説明はされている
でも、実際にどうなるのかは、この場にいる誰も体験したことが無い
「……まさか」
アリアの胸の奥に、不安と焦り、そしてほんの少しの後悔が同時に込み上げた
自分が出した指示、攻撃は控えるという判断
「……私の、判断で……?」
声は小さく、それでも確かに揺れていた
「アリア、どうするの?」
その一言で、意識が現実に引き戻される
「……ふぅー……」
アリアは一度、深く息を吸って吐いた
胸の中のざわつきを、無理やり押し込める
「これは模擬戦の授業よ。この先にいる相手は、予定通り倒す」
視線を上げ、はっきりと言い切る
「ベルがいない分、魔力回復は期待できない。無駄撃ちはなし、魔力は温存で……行くわよ」
指示を出したその声には、もう迷いは残っていなかった
それから慎重に、距離を詰めていく
「そろそろ、目視できるくらいまで近付くよ」
「了解。ケンちゃんが結界を張りやすいように、全員一塊で動くわ」
茂みを盾にしながら、足音を抑えて進む
「そのまま隠れつつ、射程距離まで引きつける」
「ねぇ……今更なんだけどさ、相手も索敵できるの分かってる?」
「……あっ」
アマリアの一言で思い出した、その瞬間
前方から一斉に魔法が飛んできた
「結界!!」
「うん!」
アリアの声に反応して結界が張られ、降り注ぐ魔法をケンちゃんの結界が正面から受け止めた
重い衝撃が連続してぶつかる
「急に張ったから、強度が……!」
六角形で細かく分かれた結界の表面には無数のヒビが走り、全体が次の一撃で砕けてもおかしくない状態だった
「私とアマリアで攻撃する。ケンちゃん、盾お願い!」
「任せて、相手の攻撃を見て張り直す」
「ミンちゃんも、索敵しながら攻撃できそうならお願いね」
「攻撃すると索敵がブレそうだから、今回は隠れてる!」
それぞれが即座に役割を選び、アリアの判断を軸に、陣形が固まっていった
『ウォーターランス!』
鋭く形成された水の槍が、アリアの前に生まれる
『ウェンドジェット!』
次の瞬間、アマリアの風が水の槍を包み込み、それは風に押し出されるように一直線に射出された
発射された魔法は勢いよく相手へと迫ったが、魔力の動きを読まれていたのか、相手は難なくそれを避けてみせた
「アリア、避けられてる」
「まぁそうよね。真正面から撃ち込んだんだもの、避けられて当然か……」
一瞬だけ考え、すぐに判断を切り替える
「私の方が魔力量は多い。だから私が優先的に攻撃するわ。アマリアは様子を見つつ、動き回りながら隙を突いて」
「アリアの魔法を見てから攻撃ね。じゃあ、アリアの魔法が来たのが見えたら、私が次を撃つ」
「それでいいわ。ただし、魔力量の管理はしっかりね」
「もちろん」
続けて、後衛にも視線を向ける
「ケンちゃんはミンちゃんを守って。ミンちゃんは乱入がないか周囲の警戒をお願い」
「わかった」
「任せて!」
役割を確認し終えると同時に、アリアは横へと駆け出した
それを見たアマリアも反対方向へと動き、2人で相手を挟み込むように展開していく
走りながらアリアが魔法を放ち、その軌道を見た直後、間を置かずにアマリアが次の魔法を重ねた
挟み撃ちになるはずの連続攻撃だったが、相手はその全てを避けるか、防ぐかしてやり過ごしてみせた
(魔力反応で狙ってる以上、誰かは分からない。でもこの連携を捌くのはさすがね……なら、動きを奪う)
『ウォーターボール!』
アリアは直径2メートルほどの巨大な水球を出現させ、命中よりも圧を重視するように、相手の正面へと打ち出した
着弾と同時に、水が弾けるように広がり、相手の周囲と足元を一気に水浸しにする
その一瞬の隙を逃さず、アマリアがマッドフィールドと呼ばれる、地面を沼地化させる魔法を相手の足元へと重ねて発動させた
(今なら動きにくい……次こそ当てる!)
『ファイヤーランス!』
『ファイヤーランス!』
『ファイヤーランス!』
『ファイヤーランス!』
『ファイヤーランス!』
詠唱のたびに、炎の槍がぽん、ぽん、と空中に出現していき、それらは発射されることなく、アリアの周囲に待機する
そして最後の詠唱と同時に、生成された全てのファイヤーランスが、一斉に相手目掛けて撃ち出された
次々とアリアの魔法が着弾し、それに重なるように複数の叫び声が響き渡る
1人、また1人と魔力反応が途切れていき、あっという間にその数は減っていった
最後にかろうじて1人だけ魔力反応が残っていたが、反対側から飛んできたアマリアの魔法がそれを捉え、その反応も完全に消え去った
(……これで全部、かな。大丈夫そうね、戻ろ)
アリアは周囲に意識を巡らせ、自分が把握できる範囲に仲間以外の魔力反応がないことを確かめる
警戒を解かないまま、アリアはミンちゃんとケンちゃんの待つ場所へと戻った
「こっちは大丈夫だった?」
「一応かな。遠くから魔法が飛んできて、何回か結界が割られたけど、俺たちにダメージはないよ」
「そっか……」
短く息を吐いてから、アリアはミンちゃんへと視線を向けた
「ミンちゃん、その時の位置は分かる?」
「ううん。私の索敵外から攻撃されたみたい。飛んできた方向を集中して探知してみたけど、分かんなかった」
「方向は?」
「……あっち」
ミンちゃんは、アリアたちが戦っていた場所とは違う、右側の方角を指し示した
「あっちがどうしたの?」
そう話していると、少し遅れてアマリアが戻ってきた
「私たちが戦ってる間に、あっちから魔法が飛んできたんだって。ミンちゃんの索敵範囲外からの攻撃で、ケンちゃんの結界が割られたらしい」
「……そんなこと、できる人いる?」
アマリアの問いに、アリアは小さく首を振った
「分かんない。でも可能性があるとしたら上級生の誰かだと思う。3年で一番遠距離攻撃できるのはミンちゃんのはずだし、他は考えにくい」
「そっか……どうする? 不安要素の確認に行ってみる?」
少しだけ考えてから、アリアは問い返した
「流れ弾の可能性が大きいとは思うけど……その攻撃、探知できた?」
「俺は分からなかった。結界に当たって、初めて気がついたから」
「私も。結界がなかったら、私たち退場してたと思う」
「……そっか」
アリアは少し考え込む
この中で一番索敵範囲が広いのはミンちゃんだ。
そのミンちゃんですら探知できない距離から攻撃できるなら、もしこちらを狙っていた場合、相手には自分たちの位置が完全に把握されていることになる
遠距離から一方的に攻撃される可能性もある以上、わざわざ相手のいるかもしれない場所へ向かうのは危険だった
「なら、ちょっと怖いけど、それは無視する。今はベルとミアラの2人を探すわ」
「アリアの判断に任せてついて行くけどさ、反応が消えた2人を見つけられる? そもそも反応が消えたってことは、退場した可能性もあるし……こんなに広い場所で、魔力探知に引っかからない2人を探すのは難しいと思うけど」
「それでも……あのベルが、一瞬でやられるとは考えにくい。だから探す」
迷いを振り切るように、アリアはそう言い切った
「了解」
「探してる途中で他の相手を見つけたら、そのまま倒していくわ。ミンちゃん、見つけたら教えてね」
「わかった」
ミンちゃんの返事を聞くと、アリアは迷いなく歩き出した
その背中を追うように、アマリア、ミンちゃん、ケンちゃんの3人も続き、ベルとミアラの反応が消えた方角へと向かっていった