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693話 厄介な相手

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693話 厄介な相手

アリアたちが1つ目のチームを倒し、さらに少し進んだ頃だった

「どうするの? こんな闇雲に探しても、見つからないと思うけど」

アマリアの言葉に、アリアは一瞬だけ足を止める

「それでも、ベルがやられるはずがないから。見つけないと」

その声には、迷いよりも焦りが滲んでいた

アリアの頭の中には、もうベルを探す以外の選択肢が残っていなかった

それから少し進んだ頃だった

「あ、魔力反応があるよ」

ミンちゃんが足を止めて声を上げる

「どっち?」

「あっち」

そう言って、左斜め前の森の奥を指さした

「ありがとう。先にそのチームを片付けてから、ベルとミアラを探しに行こう」

言い終わるより早く、アリアは地面を蹴って走り出した

チームメンバーは、その勢いに振り回されるような形で、慌てて後を追うことになる

「居た」

アリアの視線が一点に定まる

その少しあとで、ようやく3人が追いついてきた

「アリア、指揮官なんだからいきなり走り出さないで」

アマリアが息を整えながら注意する

「ごめん……倒すよ」

「ちょっと!!」

謝ったわりに立ち止まることはなく、アリアは前回と同じように、自然と左へ展開していった

「2人はさっきと同じ感じで隠れてて」

前へ出るアリアに代わるように、アマリアが落ち着いた声で指示を出す

「わかった」

「うん」

そうして布陣を整えながら、アマリアはアリアのサポートに回った

『ファイヤーボール!』

アリアはバランスボールほどの大きさのファイヤーボールを生み出し、相手チームの真ん中目掛けて放った

「残念!」

その声とほぼ同時に、地面が盛り上がり、土の壁がせり上がる

土の壁は真正面からファイヤーボールを受け止め、爆ぜる炎を遮断した

「まずはお前からだ、アリア! 先に仕留める!」

「ちょっと、シモンさん!?」

その声と同時に、土の壁を踏み越えるようにしてシモンが一気に距離を詰め、アリアへと迫った

驚いた声が後方から上がり、シモンの行動がチーム内でも想定外だったことがはっきりと伝わってくる

『ウォーターランス!』

『ファイヤーランス!』

近付かれるのを阻止するために魔法を放ったが、シモンはそれらを軽々と避け、速度を落とすことなく距離を詰めてきた

「シモン、邪魔しないで……私、今急いでるの」

「そうか……なら邪魔してやるよ」

そう言ってシモンはしゃがみ込み、地面へと手を着いた

「一応聞くが、反対にいるやつはアマリアか?」

「そうだったらどうするの?」

「なら、お前は大人しくしとけ」

「っ……!?」

その瞬間、アリアの足元を起点に地面が盛り上がり、半円状の土の壁がせり上がる

逃げ場を塞ぐように土の壁が閉じ、アリアの姿を完全に包み込んだ

(このままじゃ息が!)

中に残された空気は明らかに少ない

このまま出られなければ、戦闘不能扱いで強制退出になる

「お前は厄介だからな。さすがの俺でも、アリアとアマリアを同時に相手する気はない」

そう言い残し、シモンは自分のチームの制止も気に留めず、反対方向へと走り出した

(……硬い)

軽く手を当てただけで分かる

この土壁には、相当量の魔力が込められている

(生半可な魔法じゃ壊れない)

だが、だからといって強い魔法を使えばいいわけでもない

中はアリアの身長より少し高く、両手を広げられないくらいの大きさ

この密閉空間で攻撃魔法を放てば、爆風も熱も衝撃も、確実に自分に返ってくる

(やったら……自爆)

しかも内部の空気はすでに少ない

窒息も自爆も、どちらも退場判定になる

(……シモン、ほんとに嫌なことしてくれる)

外から壊されにくく、中からも迂闊に手を出せない

逃げる猶予も、考える時間も削るためだけに作られた檻

アリアは歯を噛みしめ、即座に別の手段を探し始めた

一方、その頃のアマリアは――

「よぉ、アマリア」

「アリアは?」

「土の壁で閉じ込めた。まぁ、どうなるかは知らんけどな」

「そう」

感情のこもらない返事と同時に、アマリアは魔法を展開する

『アースシェイカー!』

『ウィンドカッター!』

『ウォータースラッシュ!』

まず地面を揺らし、足場を崩す

その直後、風と水の刃が時間差なく放たれた

「……残念」

シモンはニヤリと笑い、前に出した手の指を左へと軽く振った

その動きに呼応するように突風が巻き起こり、アマリアの放った2つの刃は、空中で押し流されるようにかき消されてしまった

「チッ……何が目的よ」

「アリア、もしくはアマリアのどちらか、それか両方を倒すこと」

「ほんとシモンは強すぎて嫌い」

「はっはっはっ、文句があんなら俺の親に言うんだな!」

そう言って、シモンは腹の底から大きく笑った

その隙を突くように、勢いよく岩の槍がシモンへと飛来する

高速で、しかも視界外から放たれたそれは反応を許さず、見事にシモンの右側頭部へと直撃した

「……あっ」

間の抜けた声を漏らし、シモンは一瞬だけ目を見開く

「ふっ、バイバイ」

まるで最初から分かっていたかのように軽く手を振ったその直後、シモンの体は光に包まれ、死亡判定と共に強制退出が発動する

次の瞬間、その姿は跡形もなく消えていた

『ファイヤーボール!』

『ファイヤーボール!』

『ファイヤーボール!』

『ファイヤーボール!』

シモンの姿が消えたのを見届けるや否や、アマリアは間を置かずに魔法を放った

狙いは、残された相手チームの中心

魔力量の差をそのまま押し付けるような高威力の魔法に、耐えられるはずもなく

相手チームの5人は、ほとんど抵抗もできないまま次々と退出判定となった

「アリア!」

戦場が静まり返った瞬間、アマリアは迷うことなく駆け出した

「やばっ!」

シモンの魔力が大量に込められ、異常なほど強化された土壁

アマリアは魔力量の差で無理やり主導権を奪い取るようにして、力ずくで干渉する

数分かけて、ようやく軋むような音と共に土壁が限界を迎え、崩れ落ちた

「アリア!」

壁の内側には浅く水が溜まり、地面は一面濡れていた

閉ざされた空間の中で、水の魔法が繰り返し使われた痕跡だけが、はっきりと残っている

火を使えば、自分も焼かれる

風は何度放っても形を残さず、壁を削るには至らない

アリアは土の適正を持たないため、アマリアのような無理矢理の突破もできなかった

その結果、最後まで残ったのが水だけだった

その中央で、アリアは目を虚ろにしたまま、呼吸も限りなく浅く、力なくその場に倒れ込んでいた

「息! 息して!」

その声に反応するように、アリアの喉がかすかに動く

(い……き……)

そう思っているのに、ついさっきまで酸素のほとんどない空間に閉じ込められていたせいで、肺がうまく膨らまない

空気を吸おうとしても、胸の奥がひくりと震えるだけで、思うように息が入ってこない

アリアは意識が朦朧とするなか、必死に何度も浅く息を求める

だが、体にはほとんど力が入らず、指先がわずかに震えるだけだった

「ごめんね……!」

アマリアはそう短く謝ると、ためらうことなくアリアの顎に手を添え、そっと顔を上向かせる

浅く、ほとんど感じられない呼吸を一瞬だけ確かめる

次の瞬間には、もう迷いはなかった

アリアに呼吸を促すため、アマリアは慎重に息を送り込む

一度送り込んでは様子を確認し、反応がなければもう一度繰り返す

それを何度か続けた、その時

アリアの胸が、かすかに上下した

「……っ」

喉の奥が引っかかるように、短く息が漏れ、小さな咳が1つだけ零れ落ちた

それでもまだ呼吸は浅く、不安定だった

胸はぎこちなく、思い出すように上下を繰り返し始めた

アマリアはその様子を、息を詰めるように見つめる

「……はぁ。これなら、もう大丈夫かな」

「あ……り……がと……」

今にも消えてしまいそうなほど弱々しい声で、アリアはかろうじてアマリアにお礼を伝えた

「そんなのいいから。今は、呼吸に集中して回復優先」

その言葉に、アリアは小さく頷き、目を閉じて、呼吸だけに意識を向け始めた

「強制退出が発動して外に出た方が、きっと楽なのかもしれないけど……助けられるのに見捨てたら、後で先生に怒られちゃうから」

そう言って、アマリアはもう一度だけアリアの呼吸を確かめる

「大丈夫。今は、ゆっくり息に集中してて」

それだけを言い残し、アマリアは踵を返して、離れた場所で待機しているミンちゃんとケンちゃんを呼びに走っていった