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カエル財布とカエル人形

転生して田舎でスローライフをおくりたい — ncode.syosetu.com · All chapters

カエル財布とカエル人形

『転生して田舎でスローライフをおくりたい』が日間ランキング25位に浮上しました。久しぶりに上がって嬉しいです。

近々コミカライズ16話が公開されるはずなので、このマンガがすごい! Webをチェックしてみてください。

ティクルがサイキックに打ち込み、ドール子爵がカエルの人形作りをする。二人共とても集中してやっているので、室内はとても静かだ。

ドール子爵が興奮の声を上げたり、ティクルが悲鳴を上げることもない。

そんな打って変わった室内でドール子爵が針を動かす様を眺めたり、ティクルのサイキックを観察しながらアドバイスをしていると扉がノックされた。

しかし、ティクルもドール子爵もそれぞれの作業に没頭しているせいか気にもしない。

俺が返事するとミーナが恐る恐る扉の隙間から顔を出した。

「……あの、紅茶をお持ちしたのですが、今は大丈夫ですか?」

「うん、今は二人とも作業に夢中だからね」

「よかったです。怒声やら泣き声やらが聞こえていたので、紅茶を持っていくタイミングが中々掴めなくて……」

室内の様子を眺めると、ミーナはホッとした様子で入ってくる。

恐らく本当はもっと早く紅茶を持ってきたかったのだろうが、さっきまでの出来事を思い返すと中々難しかっただろうなと少し同情した。

「ひとまずテーブルの上に三人分の紅茶とお菓子を置いておきますね」

「できたぞアルフリート殿! カエルの財布だ!」

俺が「うん、ありがとう」とミーナを労おうとしたところで、ドール子爵が急に叫び出す。

「ひゃっ!? どうされたのですか!?」

突然興奮したテンションで叫び出すドール子爵にミーナが驚く。

「む? 君はスロウレット家のメイドか? どきたまえ、私はアルフリート殿に用があるのだ」

「は、はい、すいません」

今のドール子爵は人形と俺とティクルにしか興味ないらしく、それ以外は無関心のようだ。

ミーナがちょっと可哀想だけど、こういう人だから勘弁してあげて欲しい。普段は温厚で、今はタイミングが悪かっただけだから。

「ミーナ、良かったらティクルさんに協力してあげてよ。ティクルさんもミーナの動きや倒れるまでの重心なんかも見ていたら参考になるよ。やっぱり自分の身体だけで把握するのは難しいから」

「へ? 協力? 人形?」

「いいんですか! では、ミーナさん、協力をお願いします! そこで立っているだけでいいんで!」

「は、はい。よくわかりませんがいいですよ」

事態を呑み込めてはいないが、とりあえずティクルに協力するミーナ。

客観的な観察によって得られるものがあるかもしれないしな。

「アルフリート殿! カエルの財布ができたのだぞ!」

そんな事を思っていると、ドール子爵に肩をガシリと掴まれる。

どうやら財布を完成させたのに、ほったらかしにされた事が不満だったらしい。

「ああ、すいません。ちょっとティクルの指導をしていたので」

言い訳をしながら振り返ると、どこには緑色の萎んだカエルが置かれていた。

微かに丸みはあるがクッション性がないせいか、干乾びたカエルのようだ。

「これがカエルの財布ですか?」

「ああ、カエル人形は後で綿を詰めてやればできるからな。まずは、こいつに金を入れて丸くなるか実験だ」

いずれは二つ作るであろうが、そうした方が早く実験できるな。

「この部屋にお金はあるか? なければバスチアンに持ってこさせるが」

「ありますよー」

一応俺だって貴族の息子だ。自分のお小遣いだってそれなりにある。

テーブルの引き出しから革袋を取り出す。

それをひっくり返すと金貨や銀貨、銅貨が無数に出てきた。

「お金ですか!」

お金の音が聞こえたのかミーナが露骨にこちらを向く。

物欲しそうな視線を向けてきてもこれはあげられない。

「よし、では詰めるか」

床に積み上がった硬貨をドール子爵と一緒にカエル財布に詰めていく。

すると干乾びたカエル財布がまるで水を得たかのようにドンドンと硬貨で膨れていく。お金を入れることによって復活するカエルというのは可愛げがないが、見た目的には可愛くなっているのでいいか。

無心で硬貨を詰めていくとカエル財布は見事に膨らんだ。

「おお、金を入れたら見事に丸くなったな!」

「硬くてパンパンですけど、丸くなっているので可愛いですね」

「うむ、可愛いカエルを見るがために貯金なども捗るかもしれないな」

小さい子供がカエル財布を太らせるために、お金を貯めていく光景などが見られたら可愛いものだ。

「次は綿を入れていきましょうか」

一通り、カエル財布の膨らみ具合を確かめた俺達はお金を抜いていく。

俺がお金を革袋に戻しているとドール子爵がハサミで糸を外して、布の間からスルスルと綿を詰めていく。

そしてあっという間に中を綿でパンパンにして、最後に針を潜らせて布の間を閉じた。

本当にその巨体からは考えられない程に器用だな。

まるで早送りのビデオでも見ているような速さだった。

「綿を入れ終わったぞ!」

引き出したにお金を直して向き直ると、ドール子爵が綿を入れたカエルの人形を手渡してくる。

先程の財布のように不自然に硬貨の形が浮き出ることなく、綺麗な円形をしている。

握ってみると中にある綿のお陰でとてもフワフワだ。

使っている布も肌触りがとてもよく、触っているだけでも気持ちがいい。

「可愛いくてフワフワで最高ですね」

「うむ、私もそう思う! 丸いカエルとは随分と突飛だとは思ったが、これはこれで愛らしい!」

俺がカエル人形を返すと、ドール子爵はそれを思いっきり抱きしめた。

うん、ドール子爵のような人が抱きしめる姿は、かなり違和感があるが本人が幸せそうなので突っ込まない事にする。

「アルフリート殿、これをカエルらしく動かすことはできるか?」

幸せそうにしているドール子爵を生暖かい目で見ていると、ドール子爵がそんな事を言ってきた。

カエルらしくか。人間の動き方は慣れてきたが動物などになると全然違うし、やったことはないので難しい。

だが、期待の籠ったドール子爵の瞳を見ると、そんな事も言えないな。

「やったことはないですがやってみましょう」

「頼む!」

ドール子爵が嬉しそうに笑って床にカエル人形を置く。

俺はそれにサイキックの魔法をかけて、まずはカエルジャンプ。

しかし、実際にやってみせたのはカエルのジャンプ軌道をなぞって移動させたもので、とてもカエルのジャンプとは呼べない。これでは球体が跳ねている様にしか見えないな。

普通のカエルに比べて手足が短いせいか、カエルらしい足の動きができないのが原因だ。

ナイトやエリザベスであれば、足を曲げる動きと手を振ることでそれらしく見えるのだろうが、この短い手足ではどうにも……。

「私の作った人形が目の前で動く! 幸せだ……」

俺はそんな感想を抱いていたが、ドール子爵は自分の作った人形が動くことが酷く嬉しいのか満足そうな笑顔を浮かべていた。

まあ、このカエル人形はさっき作ったばかりだったからな。それがすぐに動くことはドール子爵にとってかなり嬉しいことなのだろう。

この際カエルらしさなんて捨てて、丸いカエルらしい動きを模索してみよう。

それを会得するにはやはり動かすのみ。俺はカエル人形をピョンピョンとジャンプさせてドール子爵の周りを跳ねさせる。

「お、おお! 元気なカエルだ! はははははは!」

それだけでドール子爵は大はしゃぎ。

自らの周りを飛び跳ねるカエル人形を見て楽しそうに笑う。その顔はまるで小さな子供のようでとても無邪気であった。

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