帰って一息
帰って一息
書籍、7巻は来週の木曜日である25日に発売です! Amazonでも予約開始されてますので、よろしくお願いいたします。
「うう、ピョン吉……」
ラーちゃんが、ウサギを撫でながらこくりこくりと船をこぐ。
大きな瞳は半目になっており、ふとした瞬間に目を瞑ってはハッとなるのを繰り返している。
「ラーちゃん、ちょっとウサギを借りるね」
「……うん」
ひとまずラーちゃんの腕の中にいたウサギを受け取ると、ロレッタさんが傍に寄る。
「ラーナ様、少しだけお休みしましょうか。ちょっと目を瞑るだけです」
優しい声で抱き寄せると、ラーちゃんはそのまま身を預けるように目を瞑った。
そして、すぐに規則的な寝息を立てるようになる。
「すいません、どうやら旅の疲れが出てしまったようで……」
「いや、仕方がないよ」
王都から一週間に及ぶ場所の旅を終えたばかりなのだ。
見知らぬ領地にきて気持ちが高ぶってはいたが、身体が休息を求めていてもおかしくはない。
「それにしても、気持ちよさそうに眠っているわね」
「本当だな」
ラーちゃんの寝顔を見て微笑ましそうにするアレイシアとエリック。
見ているこちらが微笑んでしまうくらいラーちゃんの寝顔は、無垢であり心地よさそうなもの。
なんだか俺も昼寝したい気分になってきたが、さすがに平原で昼寝にしようとか言ったら怒られるだろうな。
平原で昼寝もコリアット村の名物なのであるが、さすがに疲れたラーちゃんをそこで寝かせるのは忍びない。また元気な時に提案してみよう。
「それじゃあ、ピョン吉。今日はありがとうね」
ラーちゃんがそう名付けたウサギ、ピョン吉を地面に下ろし、お礼とばかりにキャベツを渡す。
ピョン吉はむしゃむしゃとキャベツを食べ終え、俺の手の中に餌がないと確認すると、ピョンピョンと跳ねて巣穴へと戻っていった。
餌がないとわかると、すぐに帰ってしまうとは冷たい奴である。
「そろそろいい時間ですし戻りましょうか」
「ええ、そうね。私も屋敷で一休みしたいし」
俺の提案にアレイシアが頷いたところで、俺達は散歩を切り上げて屋敷に戻ることになった。
◆
「帰ってきたな、アルフリート! 今から俺とーー」
「「しー」」
「し、しー?」
中庭に戻るなり、待ち伏せしていたブラムが声を上げたが、俺達の圧力にたじろいだ。
俺達が無言で指さすと、ブラムは胡乱げに視線をやってからロレッタさんに抱かれているラーちゃんに気付いた。
「そういうわけだから、屋敷でも少し静かにしてあげてね?」
「……は、はい、失礼いたしました」
アレイシアに釘を刺されて、気まずそうに道を開けるブラム。
今日はもう俺に決闘を吹っ掛けるなということだろう。
帰ってくるなり絡まれて面倒だと思っていたので非常に助かる。
やはり公爵パワーは偉大だな。爵位を冠する相手を束縛する効果があるのだから。
だが、それはいざという時に俺にも降りかかるかもしれない効果でもある。こちらに矛先が向かないように気を付かないとな。
そんなことを考えながらサイキックで扉を押し開けて、玄関へと入る。
うん、今度はミーナもいなかったし問題はない。
外靴からスリッパに履き替えていると、ロレッタがおずおずと尋ねてくる。
「アルフリート様、このゲコ太スリッパを寝室に持って行ってもいいでしょうか?」
「うん、いいよ。目が覚めた時になかったらガッカリしちゃうかもしれないしね」
許可すると微笑んで、ゲコ太スリッパを持ち上げるロレッタ。
目を覚ましたラーちゃんが、ゲコ太スリッパを嬉しそうに履くのを想像すればそうなるよな。
「では、私はラーナ様を寝室へとお連れしますのでお先に失礼いたします」
礼をすると、迷いなくラーちゃんにあてがわれた寝室に向かったことからメイドから既に聞いていたのだろう。
「私も一休みするわ。部屋は知っているから案内は結構よ」
アレイシアもそう言って、メイドであるリムを引き連れて歩き出す。
メイドを引き連れながら上品に歩く後ろ姿は、まさに令嬢の鏡なのであるが、足元がカバ美とチュー吉なのでどこか決まりきっていなかった。
二人にはもうちょっと大人のスリッパの方が似合うのかもしれないが、気に入っているようだしそっとしておこう。
「フン、今日はもう遅いし勘弁してやろう。だが、明日は必ず勝負を引き受けてもらうからな!」
勿論、俺は了承するつもりもないので返事はしてやらない。だけど、ブラムは言うだけで
満足したのか、自分の部屋の方向へ去っていった。
残されたのは同じ男爵家であるエリックだけだ。
「……お前、明日は返事をしていないとかで惚ける気だろう?」
「わかってるじゃん」
「さすがにこれだけ一緒にいれば貴様の狡い考えもわかる」
「失礼な。そこは思慮深いと言ってくれないと」
俺がそう言い返すと、エリックは腕を組みながら鼻で笑った。
ちょっとムカつくけど、エリックとの会話は随分と気楽でいいな。
正直、公爵令嬢であるアレイシアがいると気を遣う必要があったのでかなりホッとした。
ラーちゃんも公爵令嬢だけど、まだ子供だからね。
とはいえ、各自があてがわれた部屋に戻ったので、ここから夕食までは自由時間というわけだな。
「ということでエリック。夕食まで自由だから部屋で休んでいいよ」
「そうしたいのはやまやまだが、俺は自分の部屋を知らん。案内しろ」
「えー、面倒くさい。なんで知らないんだよー」
などと言ったが、屋敷に着いてすぐにラーちゃんに連れ出されたせいだと気付いた。
ラーちゃんのせいだと責める訳にもいかないので、俺は仕方なくエリックを寝室に案内。
今回の客人は一階の左側にアレイシアとリム。そして、ラーちゃんとロレッタの部屋がある。
そして、その反対側のシルフォード家とブラムとその執事さんだ。
後の護衛やメイドさんは屋敷から少し離れた、使用人の寮に泊まることになっている。
さすがにうちの屋敷では、引き連れた護衛やメイド全員を泊めることはできないからな。
「こっちの部屋がエーガルさんとナターシャさん。こっちがエリックとルーナさんの部屋だよ」
「わかった」
「一人部屋じゃなくて悪いね」
「仕方がないだろう。これだけ公爵家や伯爵家がやってきてはそうなる」
意外なことにエリックは文句を言う事なく、自分の部屋に入っていった。
まあ、お互いに人を招いて茶会をするような家ではないしな。理解があるので助かる。
さて、これで俺はようやく自由になれた。
「おい、アルフリート」
晴れやかな気分で歩き出すと、エリックが扉を開いて顔を出す。
「なに? ベッドや枕に文句が?」
「いや、それらに文句はない。むしろ、心地が良すぎて気持ち悪いくらいだ」
まあ、エリックの家のベッドは少し硬めだったからな。そう思ってしまうのも仕方がないのかもしれない。
「文句がないなら、どうしたの?」
「夕食はマヨネーズを用意しとけよ? これがないのは我慢ならんからな!」
「あー、はいはい」
俺が頷くと、エリックは用は済んだとばかりに扉を閉めた。
姉と相部屋でも文句を言わないのに、マヨネーズがなければキレると宣言するとは変わった奴だな。
まあ、部屋で不便をかけている分、バルトロに頼んでマヨネーズ料理でも追加してやるか。
ニコニコ静画にて『Aランク冒険者のスローライフ』が配信されました。よろしければ、そちらもどうぞ。