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休憩スペース

転生して田舎でスローライフをおくりたい — ncode.syosetu.com · All chapters

休憩スペース

10月25日、MFブックスより『おいでよ魔物牧場!』の2巻が発売となります。

そして、それが完結巻となり、Nスターで連載している小説も既に預けた原稿で完結となります。

Amazonで予約開始されたので、よろしくお願いします。

「ようやく抜けたわ!」

「おめでとうございます、アレイシア様」

アレイシアが粘りはじめてから三十分後。

お隣のほうからアレイシアの喜びの声と、メイドであるリムの祝福の声が上がった。

アレイシアの喜びようから、ようやく宣言通りの板を抜くことができたらしい。

いつも冷静なアレイシアにしては珍しい弾んだ声と柔らかな表情。今のアレイシアの表情は公爵令嬢を忘れた素の反応なのだろう。

余裕のある笑みとのギャップに驚いていると、アレイシアはこちらの視線に気づいたのか少し恥ずかしそうに頬を染めて咳払い。

「大分、お待たせしちゃったわね。全部抜けていないのは心残りだけど、ずっとここに留まるわけにもいかないしね」

完璧主義なのだろうか。アレイシアは若干心残りがあるご様子。

しかし、アレイシアに付き合っていては投球ターゲットから離れることができなくなる。

「一応、屋敷にも試作品が置いてあるので、帰ってからも楽しむことは可能ですよ」

「あら、そうなの? じゃあ、続きは空いた時間にアルの屋敷で楽しむことにするわ」

帰ってからもできるとわかったからか、アレイシアの興味はひとまず投球ターゲットから離れた。

アレイシアの気が済んだところで、次は魔法ターゲットにはまってしまったラーちゃんの説得だ。

遊び始めてから三十分経過しているが、ラーちゃんはずっとサイキックでボールを射出している。

ボールがターゲットのところまで届くようになっているが、まだ速度やコントロールなどは習得できていないよう。ボールはターゲットから外れている。

魔法を継続して使用するのは、かなりの集中力と体力がいるのだが、それを苦としていない辺りはさすがだな。

家できっちりとした魔法教育の基礎を受けているのだろう。

「ラーちゃん、そろそろ終わりにしようか」

「えー、もう少しやりたーい」

俺がそう言うが、ラーちゃんはすっかりこれにはまったようで続けていたい様子。

素直なラーちゃんも可愛いが、なにかに一生懸命に撃ち込み駄々をこねるラーちゃんも可愛い。

「でも、あんまりやり過ぎると魔力と体力がなくなって疲れちゃうよ?」

そう言いつつ、俺はラーちゃんのメイドであるロレッタに目配せ。

ラーちゃんを説得するという意思を汲んでくれたのか、ロレッタも口を開く。

「眠くなると、また昨日のようにあっという間に一日が終わるかもしれませんね。ああ、ラーナ様の楽しみにしていた収穫祭ですのに」

「えー、それは勿体ない! まだ投球ターゲットの他にも面白い催しや、美味しい食べ物もあるのにー!」

「えっ、他にもあるの!? じゃあ、やめる! 投球ターゲットおわり!」

ここ以外にも面白いものがあるとわかると、ラーちゃんは焦ったように終了宣言。

今は魔法の修行よりも面白い催しの方が勝ったようだ。

うんうん、魔法の練習はいつでもできるけど、収穫祭を楽しむのは今しかできないからね。

「アルフリート様がいるとラーナ様を誘導しやすくていいですね」

「ラーちゃんを騙しているみたいな言い方はやめてくれる?」

俺はラーちゃんを心配してのこと。そんな幼気な幼女をだまくらかしているみたいな言い方は心外だ。

「ねえ、アル。あたし達はキックターゲット終わったけど、そっちはどうするの?」

ロレッタに突っ込みを入れていると、エリノラ姉さん、ルーナ、エリックが戻ってきた。

どうやらそちらは既にキックターゲットを楽しんできたらしい。

エリノラ姉さん達はタオルを手にして、ほんのりと浮かんでいる汗を拭っていた。

そうだよな。キックターゲットに移ってから三十分くらい経ってるからね。

「アレイシア様、どうします? キックターゲットもやっていきますか?」

「気にはなるけど、そろそろ喉が渇いたし休憩したいわね。キックターゲットも屋敷にあるんでしょう?」

「はい、ありますよ」

「じゃあ、私としては飛ばして一休みしたいわ」

アレイシアとしては投球ターゲットを楽しんだので、運動はもう満足らしい。

「ラーちゃんはどう?」

「アルの家にもあるなら休憩する! 収穫祭を最後まで楽しみたいから!」

先程の体力配分についての言葉が相当怖かったらしい。

ラーちゃんはきっぱりと休憩すると告げた。

「ということで、俺達はキックターゲットは飛ばすことにするよ」

「そう、わかったわ」

俺がそう答えると、エリノラ姉さんは譲ってもらった少女の一団のところに戻る。

「長い時間借りてごめんなさいね。もう自由に使っていいから。それと貸してくれたタオルだけど、洗ってから返すわね!」

「いえ、お姉様! わたくしはその使いたてのまま返して欲しく……っ!」

「な、なんだかヤバそうだから、絶対に洗ってから返すことにするわ」

熱のこもった村娘の言葉に、猫を被ったエリノラ姉さんも思わずドン引き。

どうやってついたファンかは知らないけど、その子にそのままタオルを返すのだけは俺もマズいと思った。エリノラ姉さんの判断は正解だと思う。

エリノラ姉さんが村人達に礼を言うと、他の列に並んでいた村人は俺達の使っていた投球ターゲットに並び出した。

なんだか俺が土魔法で作ったターゲットにも並んでいる。そちらは消すのは何だか申し訳ないので、長い時間占領したお詫びとしてそのまま残しておくことにした。

木製のものよりも板の重量はあるが、男性ならそれすらも楽しんで遊んでくれるだろう。

「じゃあ、飲み物でも買いに行こうか」

「ええ、そうしましょう」

全員の意見が一致したところで、俺達はターゲット場となった場所を後にした。

◆

投球ターゲットなどで身体を動かした俺達は、屋台でリブラのジュースを買って広場に向かった。

普段は村人達が物々交換の取引場所に使ったり、談笑したりする時に自然と集まるような憩いの場。

しかし、今日は収穫祭とあってか、食べ歩いた人々が休めるようにテーブルや長椅子が配置されており、休憩スペースとなっていた。

屋台が建ち並ぶ通りで食べるのもいいが、座ってゆっくりと味わいたい人もいるだろうしな。疲れたからといって家に戻るのは風情がないし、設置を考えた人はわかってるね。

「なんか今年は少し人が多いね?」

例年は閑散としているイメージだが、今年は少しだけ人が多いように思える。

「……あたし達と同じ考えの人が多いってことじゃないの?」

どこか投げやりに答えたエリノラ姉さんだが、その言葉には一理あるように思える。

投球ターゲットやキックターゲットをして身体を動かせば、俺達と同じように喉が渇いて、ゆっくり休憩したいと思うのは当然だ。

結果として、ゆっくりと座われる休憩スペースを求めるのは当然の流れだった。

普段、あまり物事を深く考えないエリノラ姉さんだけど、たまに鋭いことを言ったりするんだよな。

「よかったわね、お客人がいて。いなかったら、頭を引っ叩いているところよ?」

「く、口に出てましたか。ごめんなさい」

どうやら心の声が無意識に口に出てしまっていたようだ。

俺の悪い癖だ。隠したい心の声なのに、表に出てしまうんだよな。もう口元が緩んでしまう年頃なのだろうか。

それはさておき、隣を歩くエリノラ姉さんから重圧がかかって気まずい。

「あっ、あの辺りとか広々としてるけどどう?」

空気を払拭し、ミスを挽回するために俺は率先して空いている席を見つける。

「あそこは騒がしいから嫌よ」

エリノラ姉さんがそう言った瞬間、俺が指さした席から男達の笑い声が上がった。

視線を向けると、ローランドとおバカな仲間達がエールを呑みながらゲラゲラ笑っていた。

ああいう雰囲気は男だけの場合だと気にしないが、アレイシアやラーちゃんを連れている今は厳しいな。

「んー、じゃあどこがいいだろう?」

俺達八人が座れるような広々としたテーブルであり、周囲にいる人が騒がしくないところ……。

「……あそこなんてどう? シルヴィオ君もいるし」

「えっ?」

ルーナさんの言われたところを見てみると、一か所だけやけに空いているところが見つかった。

そこにはシルヴィオ兄さんが座っており、傍にはブラムが寝転がっている。

見ただけで大体の状況を察せられるな。

「なんかブラムがいるんだけど?」

「まあ、遠くから見る限り動ける状態でもないし、他に空いてる席もないから我慢しようよ」

「それもそうね」

ブラムと関わるのは面倒だが、ダウンしているようだし状況が状況だ。

俺とエリノラ姉さんは頷き合うと皆を連れて、シルヴィオ兄さんのいる席に向かうことにした。