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トールVSエマお姉様

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トールVSエマお姉様

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

お年玉です。

豪胆な少女の前に姉弟対決を割り込み投稿いたしました。そちらを読んでいない方はお手数ですが、そちらから確認してもらえればと思います。

「子供混合部門、第二試合の人はこちらへどうぞ」

ラーちゃんの試合が終わり、第二試合の召集の声が上がる。

次の試合はアレイシアとハンナという双子の少女。

「フフ、次は私の番ね。腕相撲なんて随分と久し振りにやるわ」

自らの出番となったことでアレイシアが悠然とした笑みを浮かべながら前に出る。

アレイシアのようないかにも気品のあるお嬢様はこの村には存在しないので、彼女が歩くだけで周囲の視線が集まる。

「アレイシア頑張ってー!」

「ええ、頑張るわ」

ラーちゃんの微笑ましい声援を受けてアレイシアは微笑んだ。

そして、笑顔を引っ込めると鋭い眼差しをハンナに向けながらテーブルの傍に立つ。

公爵令嬢を相手にしてハンナの態度は落ち着いている。

ハンナの方はカンナに比べて落ち着いた性格をしているように見えたが、もしかしてこの子もアレイシア相手に怯まずに食いつくというのだろうか。

「アレイシア様は十三歳。ハンナは六歳なのでアレイシア様は二本指で――」

「ハンデなんて必要ありません」

カルラさんが年齢差によるハンデルールを課そうとするが、ハンナはそれを一蹴。

これには観客達もどよめき、カルラさんも動揺する。

カンナに比べて、ハンナは冷静なように思えたがこの子も相当なバトルジャンキーだったというのか。

「へえ、面白いわね。そういう子は嫌いじゃないわ」

「ありがとうございます」

心底面白そうに口角を釣り上げるアレイシアに、淡々と返事するハンナ。

勝負に集中したいようだ。

「ハンナさんがそこまで言うなら通常戦とします。それではテーブルに腕を――」

「――棄権します」

カルラさんが準備を促してアレイシアがテーブルに肘を着けた瞬間、ハンナは堂々と告げた。

「……も、もう一度言ってくれるかしら?」

「棄権します。私の負けです」

問い直したアレイシアに再度きっぱりと告げるハンナ。

なるほど、道理で肝が据わっていると思ったが、最初から腹をくくっていたようだ。

「貴族と平民のことを気にしているのかしら? それなら大丈夫よ。私はそんな狭量じゃ――」

「……棄権させてください」

「……わかったわ」

もはや、土下座しそうな勢いで頼み込むハンナにアレイシアは説得を諦めた。

知らない人から見れば、貴族であるアレイシアが平民を苛めているようにしか見えなかった。

「……勝者。アレイシア様」

いたたまれない空気の中、カルラさんの声が虚しく響いた。

◆

「……納得いかないわね」

ハンナの棄権により勝利したアレイシアはフルーツジュースの杯をテーブルに叩きつけた。

楽しみにしていたんだろう。大層ご不満そうな表情だ。

美少女が不機嫌そうにしていると威圧感がすごいので、周りにいる村人もすっかりとビビッている。

俺もビビっている内の一人なので、迂闊に動けないでいた。

「……アル、ちょっと機嫌とっときなさいよ」

「嫌だよ、怖いじゃん。それにアレイシアの機嫌の取り方なんて知らないよ」

エリノラ姉さんが肘で小突いて言ってくるが、そう簡単にできる気がしない。

相手はエリノラ姉さんのように稽古に付き合ったり、食べ物を与えるだけでケロリとするような単純な人じゃないんだから。

「へえ、じゃあ後で稽古に付き合ってもらおうかしら? なんだか不機嫌になってきたし。これで機嫌を直すんだからあたしって単純でしょ?」

「……心からお詫びします」

どうやら心の声が駄々洩れだったらしい。即座に俺は頭を深く下げた。

「アレイシア。私と腕相撲しよう!」

「そうね。じゃあ、端っこでやりましょうか」

俺とエリノラ姉さんがそんなことをしている間に、ラーちゃんがフォローを入れた。

ただもっと腕相撲をしたかっただけだろう。だからこそ、不貞腐れていたアレイシアもあっさりと毒気が抜けていた。

相変わらずうちのラーちゃんが天使過ぎる。

ラーちゃんがいれば、世界中の争いがなくなるんじゃないだろうかと思えてきた。

「子供混合部門、第三試合の人はこちらへどうぞ!」

カルラさんの声が上がり、第三試合の準備が始まる。

確か第三試合はトールとエマお姉様の姉弟対決だ。

「ちぇっ、いきなり姉ちゃんが相手とかつまんねえなぁ」

「文句言わないで早く向かうわよ」

ブツブツと文句を言うトールを連れて、テーブルに向かうエマお姉様。

トールは腕をブンブンと振り回すと首の骨を鳴らして、どっかりと肘を置く。

「で? ハンデはどれくらいつける?」

「へえ、ハンデをくれるの? 優しいわねトール?」

「ちっげーよ! どれだけ俺にハンデをくれるかって聞いてんだよ!」

仮にも男であるというのに一切の躊躇を見せることなくハンデを要求するトール。

ここまでハッキリと言われると、情けないと言うよりも清々しいな。

「じゃあ、私は手首を握るわよ。これなら力も入りにくいしいいでしょ?」

「指三本だ。俺はまだ八歳なんだ」

エマお姉様が妥協しているというのに、さらなる要求を突きつけるトール。

「おい、コラ! トール! 男なら正面から戦ってみやがれ!」

「そうだそうだ! 情けねえぞ!」

「うっせぇ! こっちは真剣に勝とうとしてんだよ!」

トールのちまちまとした要求に観客である村人がイラついたようで、あちこちでブーイングの声が上がる。

まあ、外野からすれば、年上である姉に真正面から歯向かって、やられる姿が面白いのであってエマお姉様がやられるのを見たいわけではないからな。

しかし、このままでは収集がつかなくなりそうなので、俺はトールにこっそりと近付いて耳打ちする。

「おい、トール。エリノラ姉さんが見てる前だぞ?」

「――っ!!」

トールはその言葉にハッと目を見開くと、エリノラ姉さんに視線を向ける。

そして、改めてエマお姉様の方を向くと、覚悟を決めた眼差しで、

「ハンデなんていらねえよ。真正面からねじ伏せてやる」

「はいはい、わかったわよ」

トールの気持ちを察しているのか、エマお姉様が心底呆れたように肘を着いた。

「ひゅー! やるじゃねえかトール! それでこそ男だぜ!」

「たまには姉貴をギャフンと言わせてやれ」

トールの男気ある言葉を聞いて、周囲にいる村人が大はしゃぎ。

手首で妥協しておけばよかったものを、わざわざハンデなしにまでするとはな。

「それでは手を組んでください」

「うわぁっ!」

手を組み出そうとした二人であるが、瞬間的にトールが悲鳴を上げた。

「ちょっと、そんな嫌そうな声出さないでくれる? ちゃんと手は洗ってるんだけど?」

「いや、そうだけど姉ちゃんと手を握るとか鳥肌しか立たねえよ!」

「もう、いいから早くして」

嫌そうにしているトールの手を半ば無理矢理握り込んでしまうエマお姉様。

エマお姉様と手をつなぐのを嫌がるだなんてあいつの脳内はどうなっているんだろう?

「それではいきますよ。レディ……ゴー!」

カルラさんが腕を離した瞬間、トールとエマお姉様が力を込めた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

開幕早々に上がるトールの雄叫び。

よほどエリノラ姉さんにカッコいいところを見せつけたいのか、勝利してエリノラ姉さんと握手するまでいきたいのか。その両方の煩悩をパワーとして、トールが凄まじい気迫を見せる。

子供ながら畑作業で鍛えられた筋肉は伊達ではなく、トールの腕にうっすらと筋肉や血管が浮かび上がる。

そのトールの怒涛のようなパワーに、さすがに年上であるエマお姉様も苦戦している模様。

エマお姉様の腕がやや傾いてしまう。

「もしかして、トールが勝つ?」

五歳差の年齢があるとはいえ、年下のトールがここまで押すことができるとは。

弟が姉を押すという状況に、会場にいた村人も大盛り上がり。

男性はトールを応援し、女性はエマお姉様を応援している。

トールの勢いに押されているエマお姉様は顔を真っ赤に……あれ? していないな。汗一つかいていないし、何故か応援している俺と視線が合ったような?

追い詰められてさえいる状況で、こちらを見る余裕なんてあるのだろうか?

「……アル、靴紐が解けているわよ」

「え、ほんと?」

エリノラ姉さんにそう言われて足元を見ると、確かに靴紐が解けていた。

腕相撲の状況が気になるが、紐を踏んで怪我をしてしまうことを考えると結ばないわけにはいかない。

「勝者、エマ!」

屈んで靴紐を結び直していると、テーブルの方からダンッという音が鳴り、勝者を告げるカルラさんの声が響いた。

「ええ? どういうこと?」

とりあえず、紐を結んで立ち上がった頃には地面を転がるトールと、お淑やかに微笑んでいるエマお姉様の姿があった。

「大丈夫、トール? 後ちょっとだったのにテーブルに体をぶつけるなんてドジね」

悶絶するトールに優しく声をかけるエマお姉様。

なんだ、ただのトールの自爆か。

そうだよね。エマお姉様に限ってエリノラ姉さんみたいな怪力なんてあるはずないもんな。

「まったく、テーブルに身体をぶつけるとかトールもバカだよね」

「……そうだね」

俺の言葉に同意したアスモだったが、何故かこちらに向ける視線に憐みのようなものがあった。

SSは2億を突破してから書きますので、もう少しお待ちを。