物分かりのよさ
物分かりのよさ
『転生して田舎でスローライフをおくりたい』書籍8巻は5月9日に発売。
そして、なんと文庫版1巻が5月11日に発売です。
どちらも書き下ろしがありますので、よろしくお願いします。
「ふう、危なかった」
王都の商店街に降り立った俺はホッと息を吐いた。
窓にもたれかかっていたおじさんが、王冠を中庭に落としてしまうだなんて思わなかった。
お陰で騎士達が空を見上げることになり、空中にいた俺は危うく存在がバレかけるところだった。
運良く王冠を被っているおじさんを目撃することはできたのだけど、ハッキリと視認することはできなかったな。
王冠を被っていたことから高い確率で王様な気がするが、あのような醜態を見せられる疑わしく思ってしまう。
やはり、確定となる情報が欲しい。王様をモチーフにしたバトル鉛筆だとかいって、違う人をモチーフにしてしまったら無礼だからな。
「やっぱり、安定的に情報を仕入れるなら肖像画とかかな」
王都には本屋があることは知っているが、王様の肖像画なんて置いているかな?
それとも美術館に行けばあるのだろうか。
王都では商店街くらいしかまともに散策していないので、土地勘がないのでわからない。
「仕方がない。転移を繰り返しながら適当に人に尋ねようかな」
「何か困っているのか?」
突然、声をかけられて振り返ると、そこには鎧を着こんだ衛兵らしき二人がいた。
髭を生やしたいかめしい顔のおじさんと、もう一人はどこか気だるそうな目の死んだ若い男性が――あれ? この人見たことがあるぞ。
「「あっ……」」
俺だけでなく、相手の男性もこちらに気付いたのか間の抜けた声を漏らした。
「ケニー、この子と知り合いか?」
「ええ、まあ。以前広場で会ったことがありまして」
ケニーと呼ばれたこの男性と出会ったのは、春の貴族交流会で王都にやってきた時だ。
エリックを待っている間にベンチで少しお喋りをしたのだ。
ほんの少し一緒の時間を過ごしただけなのに、よく俺のことを覚えていたものだ。
「なら、俺よりケニーの方が適任か」
ケニーの上司らしいおじさんはそう言うと、少し後ろに下がった。
どうやらケニーに一任するらしい。
「あー、こんなところで何をしていたんだ?」
どうやら道端でポツリと佇んでいる俺を見て、この二人は心配してくれたらしい。
自分の風貌を見れば仕方のないことだが、これでも中身は大人だ。
いい歳なのに職務質問をされているようで少し恥ずかしいな。
「少し散歩を――」
と適当な理由で誤魔化そうとしたところで、ケニーが残念そうに眉を下げるのが見えた。
ケニーは現在王都の警備をしている。上司のマンツーマンはきっと彼にとっても気が抜けなくて疲れるに違いない。
どうせ聞きたいことがあったのだしケニーを頼ろう。
「――いや、ちょっと探し物をしていて」
「探し物? それはなんだ?」
「国王様を見たことがないから肖像画とかないかなーって」
「肖像画なら貴族街の方に美術館があるが、子供一人で行くのはオススメしないな。引き留められる可能性がある。国王陛下の石像なら北の広場にあるぞ」
「北ってどっち? 王都は疎くてわからないや」
「……ケニー、子供一人だけで行かせるのは危険だ。ここは俺が見ているからお前が連れていってやれ」
「わかりました」
本当はわかるのだが、わからないフリをすると上司がそう言ってくれた。
返事するケニーの表情は気だるげだが僅かに口角が上がっていた気がする。
「それじゃあ案内しよう」
「ありがとう!」
無邪気な子供のように返事して俺はケニーに付いていく。
そして、上司が見えなくなったところでケニーが口を開いた。
「本当は一人でも行けただろう?」
「うん。でも、ああいう名目があればケニーは上司から離れられて気楽でしょ?」
「……まあ、それはそうだが」
言うなればこれは上司から離れて一人外回りをするようなもの。
きちんとした大義名分と役割があれば、多少仕事をサボっていても許されるものだ。
「拘束時間の長い仕事。それも上司と一緒だなんて息が詰まるよね」
「まったくだ。いつもならばただ散歩すればいいだけなんだが――というか、物分かりが良すぎないか?」
「そうかな?」
つい、前世を思い出してしみじみと言ってしまったせいか、ケニーに怪しまれてしまった。
あまり共感し過ぎると不思議に思われるので話題転換を図る。
「そういえば、彼女さんとは仲良くやってる?」
ケニーといえば、以前連れ添っていたこれまた気だるげな彼女が印象的だった。
「まあな。アイツとは職場も同じでほぼ毎日のように顔を見てる」
「ということは彼女さんも衛兵なんだ」
「そうだな」
意外な職場恋愛の関係性に思わず好奇心が疼く。
「どっちからアプローチとかしたの?」
「……それ、言わないとダメか?」
彼女さんとの関係を言うのは恥ずかしいのか、ケニーが露骨に顔をしかめる。
「俺のワガママで他にも案内させられたって上司に報告すれば、もっと休憩時間が増えると思わない?」
「……強いていえば、どちらからでもない」
恥ずかしさより休憩欲の方が勝ったようだ。
ケニーは俺との取引きに応じてサラッと事実を告げた。
「どちらでもないってどういうこと?」
「俺とアイツは仕事熱心なタイプじゃなくてな。考え方が同じだからペアで動くことが多く、ずっと一緒にいたらカップル扱いにされた」
なるほど、外堀から埋められたタイプか。
確かに二人は正義感といったものはなく、お金に見合った最低限の働きをするタイプだ。
考え方が同じで意気投合したのであろう。
自分の働き方や生き方を認め合えるのはいいことだ。
「それで?」
「アイツのことは割と好きだったし、そのまま付き合うことにした」
「ふむふむ、それでどっちから告白したの?」
「どっちもしてない。気が付いたら恋人関係になってた」
ああ、男女でたまにある何となくパターンだ。
「随分、ヌルッとした恋人関係だね」
「まあ、別に今更改まったことをするような関係でもないしな」
ああやって仕事以外でも二人で一緒にいられるということは、互いのことを好きなのだろう。
だけど、明確に言葉にしない関係というのはちょっと悲しいな。
でも、これはケニーの問題だし、七歳児の俺が男女の関係に口を出したところで響くとは思えない。余計なお世話であろう。
彼には彼のペースがあるだろうし、そういうカップルもいるものだ。
「着いたぞ。あそこにあるのがジギル国王陛下の石像だ」
なんて思っていると、いつの間にか目的地の広場についたようだ。
ケニーの指さすところを見ると、そこには大きな石像があった。
威厳に満ちた顔つきの男性が腕を掲げている。
「……これが国王様?」
「ああ、そうだ」
王冠のおじさんに似てはいるが、顔つきや身体つきが微妙に違うような。
お城で見たおじさんはもっと冴えない感じだった。少しぽっちゃりとしていてこのような筋肉質ではなかったような気がする。
でも、顔の形や髪型なんかは間違いなく、さっき城で見たおじさんだ。
ということは、王冠を中庭に落としたおじさんが国王様らしい。
うーん、アレが国王様なのか……この国大丈夫なのかな?
でも、国王様だって一人の人間だ。ミスすることはあるだろうし、休憩したい時もあるだろう。
普段の職務ではこの石像のように威厳ある顔つきをしているに違いない。
国王様に贈るバトル鉛筆はこっちの石像をモチーフに描いた方が良さそうだな。
「満足したか?」
「うん、案内してくれてありがとう」
「これが仕事だからな」
「じゃあ、適当に辺りを散歩しようか。同僚に目撃されている方が後で言い訳もしやすいだろうし」
「お前、絶対年齢を偽っているだろう? 本当は何歳だ?」
失礼な。正真正銘の七歳児だって……見た目の上では。
ケニーを思い出せない方は、王都編、気だるげなカップルを読んでもらえると助かります。