マイホームでカレー作り
マイホームでカレー作り
3億PV突破までもう少し。
アンケートストーリーは三本あります。お楽しみに
ラジェリカからコリアット村に帰ってきた俺は、マイホームへとやってきていた。
香りの強いカレーの調理は色々と迷惑がかかるし、素材の出どころを詮索されやすいからだ。
魔道ランプをつけると、薄暗い部屋の中が明るくなる。
それに伴い部屋の散らかり具合も露わになった。
「……相変わらず散らかっているなぁ」
マイホームの一階部分は広いリビングや台所、お風呂場なんかが広がっている。
主に利用しているのはルンバだ。台所の方はあまり使用していないせいかすごく綺麗であるが、リビングには脱ぎ散らかした衣服や、靴だけでなく冒険者道具などがとっ散らかっていた。
「おーい、ルンバ? いないの?」
階段を上がって、ルンバの部屋の扉をノックしてみる。
しかし、返事はこない。中の気配を探ってみるがそれらしい気配はしない。
どうやら留守にしているようだ。
「料理の前に掃除かな」
一階に戻ってきた俺は周囲を眺めて思わず呟く。
台所の方は綺麗とはいえ、リビングがこのように散らかっていては集中もできない。
とりあえず、空気が濁っているので換気だ。とはいえ、全部の窓を解放すると、俺が寒くて死んでしまうので一つの窓だけ解放。
風魔法を使って室内の空気を外に押し出すことで手早く換気を終わらせた。
「これが冬の換気術」
普通に換気をしようものなら十分以上は開けておかないといけないからな。
この方法なら冬に辛い換気でも一瞬で終わらすことができるのだ。
ついでに部屋にあった埃や砂も外に追い出すことができたようだ。
空気がスッキリさせると火魔法で暖炉をつけ、ついでに火球をあちこちに浮かべておく。
こうすることですぐに部屋が暖まるのだ。
次に散らかっているルンバの服をサイキックで洗濯籠に入れてしまう。
革鎧やホルスター、武器などの特別な手入れが必要そうなものは手に負えないので、見苦しくならない程度に整理して置いた。
「よし、これで料理ができる」
部屋が一通り綺麗になったところで、ようやくカレー作りだ。
カレーに必要な材料は亜空間に揃っているので、ひたすらにそれを取り出す。
前世ではルーを使用したカレーしか作ったことがなく、スパイスでのカレーは聞きかじった程度の知識しかない。
職場の同僚にスパイスから作るカレーにハマった奴がいたが、あまり興味がなくてほとんど聞き流しちゃったな。もっと真面目に聞いておけば良かった。
後悔しても仕方がない。うろ覚えの知識でも何とかするしかない。
まあ、それらしい手順を踏めばカレーらしい料理はできるだろう。失敗しても材料や香辛料はたくさんあるからチャレンジだ。
とりあえず、作ってみるのはシンプルにチキンカレー。
サラダ油をひいた、フライパンに細かく切ったニンニク、ショウガ、タマネギを入れて炒める。
ニンニクやショウガの水分が飛び、タマネギがきつね色になったらバルトロお手製のトマトソースを投入。
ヘラでペースト状にしながら炒めていく。
いい匂いがしているものの今のところただのトマトソース。
しかし、ここに香辛料を入れれば変わるはず。
同僚から聞いて作り方だとこのタイミングで香辛料を入れるはずだ。
しかし、俺はふと気付く。
「……どのくらいの割合で入れればいいんだ?」
クミン、ターメリック、コリアンダーをそれぞれどの割合で入れればいいのかわからない。
首を捻ったところで答えが出るわけでもない。
曖昧な知識を元に作ると決めていたので悩んでも仕方がないな。
「とりあえず、小さじ一杯ずつ入れよう」
他の料理のような黄金比率があるのかもしれないが、俺にはわからない。
とりあえず、三種類を少なめに均等に入れる。濃すぎるとどうしようもないが、薄ければ足していけばいいだけだ。
「おお! カレーっぽい匂いがする!」
なんて思いながら香辛料を混ぜて炒めているとカレーの匂いがした。
それもインド料理店なんかで嗅いだことのある、スパイシーな香り。
市販のルーを使った甘みの強いカレーとは大違いだ。
わざわざスパイスでカレーを作るなんて面倒くさいだけじゃないかと思っていたが、この豊かな香りを嗅いでみると大違いだとわかる。
「本当にそれっぽくなった」
うろ覚えながら香辛料を混ぜてみたが、まさか本当にそれらしい香りになるとは。自分でもちょっと驚いている。
長年嗅いでいなかった匂いだけに、久しぶりのカレーの匂いに感動だ。
すっかりとカレーらしくなってきたところで水を入れる。
さらにぶつ切りにした鶏肉を入れて、中火でじっくりと煮込む。
焦げ付かないようにしながら煮込んでいると、先ほどよりも強い匂いが漂い出す。
台所だけでなくマイホーム全体がカレーの匂いに包まれているようだ。
「ああ、この匂い……猛烈にお腹が空いてくる」
思えばとっくに昼を過ぎている。ラジェリカでチャイを飲んだだけで昼食は何も食べていなかった。
とはいえ、ここでカレー以外のものを食べる気分にもなれない。
それはなんか負けたような気がする。室内に漂っている強烈なカレーの香りも相まって、すっかりとカレーを食べる気分だからな。
しっかりと煮込み、鶏肉にしっかりと火が通ったら火を止めて完成だ。
本来なら平行してご飯も炊くべきではあったが、目の前にあるカレーと一刻も早く食べたいために亜空間から召喚して時短だ。
カレーにぴったりな皿を見つけると、そこにご飯を盛り付けて、出来立てのカレーをかけていく。それだけではちょっと物足りないのでご飯の上に細かく刻んだパセリを振りかけた。
「よし、早速食べよう!」
お皿やスプーンを手にして、俺はすぐにテーブルに移動。
イスに座ると、スプーンを手にしてカレーとご飯を一緒にすくって口に入れた。
すると、三種類の香辛料が混ぜ合わさった豊かで香ばしいカレーの風味が広がった。
しかし、それだけだ。
「…………あれ?」
感動のあまり舌が鈍っているのだろうか?
首を傾げて今度はカレーだけをすくって味わう。
だけど、結果は先程と同じでカレーっぽい風味のするドロッとしたシチューでしかない。
そこには前世で味わった思い出の味や、それを越える美味しさなんてひと欠片もなかった。
「あれ? 美味しくない!?」
自分でもビックリで素っ頓狂な声が出た。
「なんでだろ? 香辛料の割合が間違っていた? それともなんか手順が抜けている?」
もう一度、食べてみるがわからない。
しかし、目の前にあるのは断じてカレーと呼べるものではない。
風味や食感こそ同じではあるが、これはただのスパイスの味がするシチューだ。
食べられないことはないし、カレーの風味を楽しむことはできるが美味しいとはいえない。
これなら鶏肉に香辛料をかけて食べた方が、よほど美味しいだろう。
どうしてこんな結果になってしまったのか。
「おいおい! めちゃくちゃいい匂いがするじゃねえか!」
スプーンを置いて考え込んでいると、突然マイホームの扉が開いた。
元気な声を上げて入ってきたのはマイホームに住んでいる唯一の住人であるルンバだ。
「おお! やっぱりアルか! 道理でいい匂いがすると思ったぜ!」
「お帰りルンバ、ちょっと新しい料理を試したくて台所を使ってるよ」
ルンバは身体に降り積もった雪を玄関で落とすと、ノシノシと入ってくる。
「今回のは格別だな! 胃袋にガツンとくる匂いで、すぐに腹が鳴っちまった!」
どっかりと目の前にイスに座り込むルンバ。
お腹を空かせただけなのにどうしてそんなに誇らしそうにしているのかわからない。
「で、俺にも食わせてくれるんだろう?」
当たり前のように告げてくるが、それでも不思議と憎めないのがこのおじさんだった。
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