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アルの土魔法

転生して田舎でスローライフをおくりたい — ncode.syosetu.com · All chapters

アルの土魔法

『Aランク冒険者のスローライフ』コミック4巻が3月29日に発売。早いところは既に並んでおり、電子版は本日から発売です。

バグダッドは短く返事をすると、ノシノシと歩いて距離をとる。

彼とは反対の方向に俺も歩いて距離をとった。

そして、適当な距離まで歩いたところで立ち止まって振り返る。

すると、二十メートルくらい先にバグダッドが立っていた。

どこの国でも魔法使いが相対する距離はこれぐらいの距離らしい。

まあ、これ以上近いと近接戦になっちゃうからね。

最近、身体能力にますます磨きがかかっているエリノラ姉さんなんかは、これぐらいの距離があっても一息で詰めてくるので恐ろしい。

遠くの安全圏ではサルバとシャナリアが俺たちを眺めている。

あそこなら被害が届くことはないし、万が一があってもシャナリアが守ってくれるだろう。

「防御魔法をどうぞー」

準備が整ったのでそう声をかける。

とりあえず、防御魔法を展開してくれないとこっちも安心して魔法を撃てない。

俺の声が聞こえたのかバグダッドはこくりと頷くと、両手を胸の前で組んだ。

すると、彼の周囲にある砂がズゾゾゾゾゾと動き出す。

安定の無詠唱での魔法発動。当然だよね。大量の砂はバグダッドの全身を覆う。

しかし、彼が見えなくなっても砂が止まることはない。より大量の砂は集めて、ドンドンと身に纏っていく。

膨大な魔力によって砂が集まり、身体へと圧縮されているのがわかった。

やがてバグダッドに集まった砂は、騎士のような姿になる。

全量は五メートル程度あり、上半身だけが異常にデカい。

「うえええ、まさか土魔法をそんな風に使うなんて……」

彼がやっているのは単純だ。ひたすらに砂をかき集め、それを魔力で圧縮して鎧にしているのだ。

そんな使い方は考えたことがなかった。さすがは砂の国だけあって発想が面白い。

膨大な魔力で何重にも圧縮された砂はとんでもない硬度を誇っているだろう。

魔力がかなり必要になるが、魔力量が多い彼なら問題ないのだろう。

あれだけの砂を圧縮して身に纏っていたらとんでもない重量だ。

恐らく身体強化を併用して動かしているのだと思うが、とんでもない身体スペックだな。

あんなものが動いて襲い掛かってくれば、どんな魔法使いや剣士でも逃げるしかない。

「いつでもいいぞ」

砂の鎧から響いてくるバグダッドの声。

一体、どこからどのように響かせているのか気になるが、今はそれを確かめている場合じゃない。

バグダッドの一族に伝わる秘伝のカレーレシピを教わるために、あれを貫かなければいけない。

一番得意な魔法の属性は無属性。だけど、あれだけ高レベルな土魔法を見たら、こっちも土魔法で対抗してみたくなる。

「よし、土魔法にしてみよう」

作り出すのは大きな岩石。

土魔法で造形するためのようなものではなく、魔力の圧縮を五回重ねて硬度を引き上げたものだ。さらにそこへ回転を加えて威力を引き上げる。

魔物にだってこんな高威力の魔法を放とうと思ったことはない。それなのに人間相手に向けるなんて怖いな。

でも、バグダッドはラズールの魔法使いの中でも一番の魔力量を持っているという。実際に目の前にある防御魔法は尋常ではない魔力が練り込まれており、生半可な魔法は通じないことはわかる。それでもやはりもしものことを考えると怖いや。

こんなことを考えるのは俺の経験が足りないのもあるが、性格が戦いに向いていない証拠なのだろうな。

とりあえず、本体がいそうなど真ん中はやめて、少し左側の腹部を狙おう。

そこならもしもがあっても大丈夫だ。

「まずは小手調べでいきます」

「ああ」

バグダッドから返事が聞こえた瞬間、俺は岩石を射出した。

ビュウンッと空気を切り裂くような音が鳴り、岩石が回転しながら真っすぐに飛んでいく。

それはバグダッドの纏う砂鎧の左腹部に直撃。

「ッ!?」

砂鎧と岩石がぶつかり合うが、数秒後に俺の岩石が瓦解した。

砂鎧の方が硬度は遥かに上だったようで、岩石が保たなかったらしい。

バグダッドは魔法の衝撃で少し後方へと下がっているが、左腹部は少し凹んでいる程度だった。

「やっぱり硬いや」

あれじゃ鎧を貫いたとはいえないな。

まあ、この程度の魔法では負けるとわかっていたので驚きは特にない。

「一つ、聞いてもいいか?」

「はい、なんでしょう?」

「今の魔法はどのくらい本気だったのだ?」

「うーん、あんまり威力の高い魔法は撃ったことはないのでよくわからないんですけど、今の十倍以上は威力は上がるかなーと」

込める魔力を増やし、貫くことを目的とした形状変化、魔力圧縮を行えばまだまだ威力は上がるはず。

後はそれほどの高威力なものを俺がきちんと制御して撃ち出せるかの問題だ。

「そうか。想像以上だ。こちらも本気を出そう」

バグダッドはそのように言うと、土魔法を発動した。

まるでここら一帯が蟻地獄にでもなったかのように砂が流れ、それらがドーム状に隆起した。

バグダッドを包む大きさのドームが出来上がると、また砂が隆起してそれを覆うようにドームができる。同じように三層目、四層目、五層目とドームできてそれが幾重にも重なっっていく。

「……マトリョーシカかな?」

もはや、動くことをまったく考えていない引きこもり具合。

だけど、何重にも重ねられた障壁ドームはとんでもない防御力だろう。

砂鎧だけでもすごかったというのにここまでするなんて大人気ない。

カレーのレシピを教えるのを惜しいと思ったのだろうか。なにせ一族の秘伝のレシピだ。

彼が意地になって守りたくなるのもわかる。

だけど、俺はそのレシピが欲しい。

ここまでやらせておいて、やっぱりレシピは教えませんなんて労力に見合わなさ過ぎる。

バグダッドに魔法を撃つことに対して引け越し気味だった俺だが、ここまで意地悪をされるとムカつくというものだ。

「次はもうちょっと威力を上げるからね」

ムッとしながらも再び土魔法を使用。

ただし使う魔力は先程よりも何倍も多い。

とりあえず、自分の中でコントロールできるであろう砂をかき集めて、それを魔力圧縮でドンドンと固めていく。

十メートルほどの大きさをしていた砂が圧縮によって、五メートル、三メートル、一メートルとみるみる縮む。

小さくなったらまた砂を集めて同じようにひたすら圧縮だ。

もう何度魔力圧縮を繰り返したかわからないや。それくらいの数の圧縮を重ねた。

気が付けば目の前には一メートルほどの岩石ができており、魔力の影響のせいか色が黒ずんでいた。

とりあえず、このくらいでいいだろう。まだまだ圧縮はできるけど、いきなり高威力にするのも怖いし。

圧縮を終えるとそこから形状変化だ。障壁や鎧を貫くために可能な限り尖らせる。

貫通性と安定性を向上させるために螺旋状の刻みも入れた。

そして、それを高速回転。

自分の目でも確認できないほどに回っており、キーンと甲高い音が鳴っている。

とりあえず、これくらい威力を上げれば障壁ぐらいは全部割れるんじゃないかな?

後はこれを飛ばしてから鎧を貫けるように最終調整をすればいい。

「いきますよ!」

「…………」

声をかけてみるが返事はない。

あったとしても障壁のせいで聞こえないんだろうな。

十分に時間をとったので問題ないと判断した。

瞬間的に魔力を送り込んで加速を加えて黒岩石を放つ。

射出してから数秒遅れてキュインッという甲高い音が鳴る。

放たれた黒岩石はバグダッドの展開したドームをあっさりと貫通。

障壁ドームが一気に崩れ、バグダッドが両腕を伸ばして黒岩石を受け止める。

が、黒岩石の威力が強すぎたのかバグダッドが大きく後退していく。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

咆哮を上げながら魔力をつぎ込んで黒岩石を止めようとするバグダッド。

あれ? 思ったよりも威力が強かった?

吹き飛んだその進路には観戦していたサルバやシャナリアもいるので心配だ。

止められるよね?

なんて俺の心配も虚しく、バグダッドの砂鎧が一気に弾け飛び、生身のバグダッドが露出した。

シャナリアはサルバを連れてサンドウォークで避難するが、退避が間に合わない気がする。

「やばっ!」

バグダッドだけでなく、サルバ、シャナリアの身も危ないと思ったので、俺は大慌てで黒岩石の軌道を逸らす。

すると、バグダッドの防御魔法のお陰で威力が減衰していたからか、すんなりと軌道は逸れ、黒岩石は彼方に飛んでいった。

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