物騒な魔法運用
物騒な魔法運用
7月13日に『異世界のんびり素材採取生活』の書籍2巻とコミック1巻が発売します。
コミック1巻には書き下ろし小説があり、アルフリートの前世とシュウの前世のクロスオーバー小説があります。
興味のある方は是非とも読んでみてください。
俺の周囲でいくつもの水が弾け飛ぶ。弾け飛んだ水が身体を少し濡らすが、周囲は火球のお陰で温度が上昇しているので気持ちいいくらいだった。
「さすがの呑み込みの早さね。もう十分でしょう」
「わーい」
襲いかかる全ての水を魔力活性で弾くと、エルナ母さんから合格のお達しがきた。
素直に喜んでいると不意に視界の端できらめきが見えた。
それをしっかりと把握していた俺は、左足に魔力を移動。
しかし、流れるように襲いかかる水は咄嗟に軌道を変えて、右腕に纏わりついた。
瞬時に魔力を右腕に集めて魔力活性。纏わりついた水は弾け飛んだ。
「……エルナ母さん」
「ちょっとした応用じゃない。アルなら問題なく対処すると思ったわ」
思わずじっとりとした視線を向けると、エルナ母さんは表情を一ミリも変えることなく言った。
エルナ母さんの性格上、また不意打ちを狙ってくるとは思ってたけど、無詠唱でしかも咄嗟に軌道を変えるなんて意地が悪いよ。
なんだか昔よりも魔法が上手くなっている気がするし。
とはいえ、実際にあり得そうなパターンを経験できたからよかったのか? まあ、普通にスローライフをおくるだけなのでこんな経験は欲しくないけど。
「ねえ、他にも面白い魔法の使い方とかある?」
エルナ母さんが魔法を教えてくれるのは非常に珍しい。
今のうちに聞けることは聞いておかないと。
「本当にアルは魔法が大好きね。そうねー、対人戦で役立つ魔法の使い方とかどうかしら?」
「たとえば、どんな?」
にっこりと笑いながら説明するエルナ母さんは火魔法を発動。
エルナ母さんの周りに火球が何十と浮き上がった。
「これを飛ばされたらアルはどうする?」
「火傷する」
「真面目に答えなさい」
起こり得る未来を語ると、普通に怒られた。
「魔法で全部撃墜するよ」
魔法で防ぐという選択肢もあるが、あの火球はエルナ母さんの精密な制御下にある。
シールドを正面に張ろうが回り込まれるだろう。
全方位にシールドを張って防いだとしても、亀のように耐え続けるハメになるので得策ではない。
「あら、全部撃墜する必要があるかしら? ちゃんとよく見なさい」
そう考えての対処だったが、どうやらそれは正しくないみたいだ。
この場合の見るということは視覚的なものではないだろう。
落ち着いてエルナ母さんの火球を観察してみる。
「あっ! 火球のほとんどに魔力がこもってない!」
「そう。この中でまともな攻撃力があるのは三つくらいね。それ以外はほぼ見せかけで当たっても精々熱いと感じる程度でしかないわ。でも、それを見抜けない相手はすべてが必殺の一撃だと思い込んで大袈裟な対処をする」
「うわー、性格が悪いや」
「効率的な魔力運用をしていると言いなさい」
これだけの弾幕を見せつけられれば嫌でも警戒してしまう。
現に魔力感知ができる俺でも、咄嗟に気付けずに全てを対処しようと思ってしまったほどだ。
エルナ母さんの言う通り、魔力に対する感知や警戒が不得意な人には面白いように効くだろうな。
「アルもやってみなさい」
「うん」
エルナ母さんに言われて、俺も火球を十個ほど生成。
魔力の振り分けやイメージを調節して、本命の攻撃力となるものを三つくらいにする。
他の七個は大した攻撃のない幻影のようなもの。種火にもなるかどうか怪しいレベルだ。
「できた」
「作り上げてから振り分けるのじゃバレるわ。生成時にできるようにしなさい」
習得できたかと思いきや、これではダメらしい。
確かに生成してから露骨に魔力を振り分ければ、見抜かれてしまうだろう。
生成時にすべてを完成させるのが望ましい。
作り上げた火球を解除し、もう一度火魔法を使う。
先ほど振り分けた魔力を最初から作り上げるようにイメージして発動。
すると、火球の生成と共に魔力の振り分けもできるようになった。
「次は本命を一つに」
先程の再現をしているとバレたのだろう。魔法は応用してこそだ。
魔法を解除して再現には頼らず、瞬時に魔力の振り分けをして火球を生成。
本命の火球一つに、攻撃力のない火球が九つ生成された。
瞬時に魔力の振り分けをすると、エルナ母さんは満足げに頷いた。
本命を動かして幻影と混ぜるように射出すると、エルナ母さんは見事に本命だけを火球で相殺した。
エルナ母さんほど魔力感知に優れていると、すぐに見抜かれるようだ。
魔力のさほどこもっていない火球は空中で自然消滅した。
「これでどう?」
「上出来ね」
どうやらエルナ母さんも満足の仕上がりだったようだ。
これは他の魔法でも応用ができるので比較的使い勝手がいいな。
まあ、俺が魔法で対人戦をやることなんて滅多にないんだけどね。
「ねえ、エルナ母さん……」
「なにかしら?」
「すごく有効的な使い方だけど、もっと穏便な使い方とかない?」
なんかエスカレーター的なすごく移動が楽になる魔法とか、楽しい魔法の使い道とか教えてほしい。
「それはいつもアルが考えているでしょ。これはあくまで自衛のための使い方なんだから」
「それもそうか」
確かにそれらはいつも俺が考えていることだ。
今日の趣旨は、色々な魔法の使い方を教わることなのでそこは受け入れるとしよう。
●
それから俺はエルナ母さんからいくつかの魔法の運用方法を学んだ。
使い道は物騒だったとはいえ、俺だったら考え付かないようなことばかりで楽しかった。
その中には剣士にも有効な技もあったので、対エリノラ姉さん対策として実に有効だろう。
そういった魔法はとてもありがたい。
「こんなものかしらね。そろそろエリノラの講義に戻るわ」
「うん、ありがとう」
礼を言うと、エルナ母さんがにっこりと笑って去って行く。
が、俺は聞きたいことがあったのを思い出した。
「あっ、エルナ母さん」
「どうしたの?」
「前から気になっていたんだけど、俺ってもしかしてかなり魔力が多い?」
ラズール王国、歴代の魔法使いの中で屈指の魔力を誇るバグダッドよりも俺は魔力が多かった。
サルバにもかなり魔力が多いって言われたけど、実際のところどうなんだろう?
「かなりじゃなくて魔法使いの中でも断トツね。魔力量だけでいえば、ミスフィリト王国に適う魔法使いはいないんじゃないかしら?」
「ええ? そんなに!?」
ラズールだけでなく、ミスフィリト王国内でも頂点レベルともなれば、俺の魔力量って世界レベルなのか?
「だから、私とノルドは宮廷魔法使いになるのはどうかって勧めているのよ。アルには魔力だけでなく途轍もない魔法の才能がある。きっと宮廷魔法使いになれば、歴史に名を残すような魔法使いに――」
「あっ、そういうのは興味ないから」
エルナ母さんの言葉が熱を帯びて、長くなりそうだったので失礼ながら断ち切る。
俺は田舎でゆっくりとスローライフをおくりたいだけだ。
エルナ母さんやノルド父さんの期待もわからなくもないけど、歴史に名を残すような魔法使いになんて興味ない。
大体、そんな職についたら絶対に忙しくなるじゃん。俺は今世こそ、のんびり楽しく生きるって決めているからね。
「まあ、今はまだ子供だしゆっくりと考えなさい」
エルナ母さんはため息を吐くと、ゆっくりと屋敷へと戻っていく。
いや、考えるまでもないよ。もうこの世界に転生して赤ん坊になった頃から、俺の人生プランは定まっているし。
エルナ母さんとノルド父さんには悪いけど、俺は宮廷魔法使いになんてなるつもりはないや。