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ウォーターショー

転生して田舎でスローライフをおくりたい — ncode.syosetu.com · All chapters

ウォーターショー

『異世界ではじめる二拠点生活』の書籍3巻が発売しました。そして、書籍とwebが完結です。

夕食を食べ終わると、俺は一足先に屋敷の庭に出ていた。

既に太陽は沈んでおり、空は闇色に包まれている。

各所に配置された魔道ランプの光が、ぼんやりと庭園を照らしていた。

……どうしよう。水と光を使って軽くウォーターショーの原型みたいなものを見せるくらいに考えていたのだが、これだけの面子が集まるとショボいものは見せられない。

水と光は俺の魔法で何とでもなるのだが、音楽ばかりは難しい。

風魔法で風を吹かせて簡単な音を鳴らしたりはできるんだけどなぁ。

「どうかしたのか?」

噴水の前で考え込んでいると、シューゲルがやってきた。

「ウォーターショーをより面白いものにするために、音楽が欲しいなと思いまして……」

「ふむ、それなら私が奏でてやろう。ヴァーシェルを持ってこい」

「え?」

なんて言ってみると、シューゲルは使用人に何かを命じた。

程なくして使用人が木製の楽器らしきものを持ってきてくれて、シューゲルは庭園にあったイスに腰かけた。

抱えるようにして持つヴァーシェルという楽器は、リュートのようだ。

しかし、肝心の弦が見えない。弦がなければ弾くことはできないじゃないだろうか。

首を傾げているとシューゲルの指先に魔力が集まった。

集まった魔力は細長くなって放出され、ヴァーシェルの弦となった。

「おお、魔力が弦に!」

「ヴァーシェルは魔法使いのみが演奏できる魔道具だ。己の魔力で弦を紡ぎ、魔力の込め具合で如何様にも音を変化させられる」

説明しながらシューゲルは魔力を変化させ、弦を五本から七本に。七本から十本。十本から三本へと変化させる。

さらに弦を弾いて様々な音を鳴らす。ピアノのような音からヴァイオリンのような音まで幅広く、魔力の込め具合で本当に音が変わっていた。

「すごいですね! そんな魔道具があったとは!」

「ヴァーシェルには音のすべてが詰め込まれている。これができれば、どの楽器でも弾くことができるだろう」

そう語るシューゲルの表情はとても誇らし気だった。

「少し弾いてみるか?」

「ありがとうございます」

「とはいっても、まずは魔力で弦を張ること自体が難しいのだが……」

ピインッ! ピインッ!

「なぬ?」

シューゲルから貸してもらったヴァーシェルに魔力で弦を通して弾いてみた。

魔力で作った弦なのに音が鳴った。すごいや、どういう仕組みなのだろう?

試しに魔力の質量を上げて、細長くするイメージで張り直してみる。

すると、さっきよりも甲高い音が響き渡った。

逆に質量を下げて緩めてみると、低い音が鳴った。

「本当に魔力の質で音が変化するんだ」

とはいえ、この世界の楽器に俺はあまり触れたことがない。

前世で熱心に音楽に打ち込んでいれば、ちゃんと音がわかるのかもしれないが、素人の俺にはハードルが高い。

ピアノの鍵盤のようなイメージで魔力弦を張り直す。

すると、ピアノのような音が鳴って、弦の音がわかりやすくド、レ、ミと掴みやすくなった。

「猫、ふんじゃった……猫、ふんじゃった……」

「なんだその歌は?」

「猫を踏んでしまった曲です」

「私の知らない曲だ」

「今、適当に作りましたから」

などと言うと、シューゲルが息を呑み、目を見開いた。

「……アルフリート殿、君は音楽の才能があるのではないか?」

前世を隠すための咄嗟の言い訳だったけど、初めて触った楽器で自在に音を鳴らし、即興で曲を自作。エピソードだけを聞けば、まるで天才のようだ。

やめて。そんな天才を見るような目で見ないで。

「魔法学園の授業ではヴァーシェルにも力を入れている。是非、検討してみないか?」

せっかく学園の話が済んだというのに、ヴァーシェルのせいで違うところで勧誘が再燃してしまった。

「いえ、結構です。それよりもウォーターショーをやりましょう。あまり皆さんを待たせるのは申し訳がないので」

「むう、それもそうか。この話はまた後にしよう。それで弾く曲はどのようなものがいい?」

「できれば誰もが知っている曲で、メリハリのあるものがいいです」

「ならば、これでどうだ?」

「あ、最高ですね。それでいきましょう」

シューゲルが弾いてくれたのはドラゴンスレイヤーの劇で流れる序章曲だ。

それなら俺も知っているのでショーと合わせやすいし、皆も知っているのでハッピーだ。

二人の羞恥心についてはこの際、置いておくことにしよう。

シューゲルはこれから曲を演奏するためにヴァーシェルを弾いて、音の調節をしている。時折、俺の弾いてみせた音が鳴るので、前世の曲に興味があるのだろうな。

今は猫の曲よりもドラゴンの曲を弾いてください。

なにはともあれ、これで最大の難関である音はクリアだ。あとはいつも通り、自分にできる魔法を駆使してやればいい。

頭の中でどのように水を動かし、光を当てるのかなどを考えていると、玄関から続々と人の気配が出てきた。

ノルド父さんとエルナ母さんがヴァーシェルを持っているシューゲルにギョッとしていたが気にしない。

「アルー! ウォーターショー見せて!」

「いいよ。今から見せてあげるね」

ラーちゃんが待ちきれない様子なので、俺は早速ウォーターショーを始めることにする。

しっかりと上着を着ているとはいえ、外の夜はとても寒いからね。

「これから音楽と光と水のウォーターショーをはじめます。噴水の近くでは水が飛び散る恐れがありますので、ご注意ください」

はじまりの口上を述べると、俺はシューゲルへと視線を向ける。

シューゲルは頷くと、ヴァーシェルを弾き始めた。

冒険の始まりを感じさせるワクワクとした旋律。

それと合わせるように水魔法と無魔法を発動。

二十メートルほどの水柱が三十本ほど出来上がり、無属性のライトによって照らし出された。

「わーっ!」

ライトアップされて一斉に噴出した水に、ラーちゃんが歓声を上げた。

俺は水柱をすべて維持しながら無属性魔法を調整。

ライトを通常の色から赤へと一斉に変えて明滅させた。

高く噴出させた水をわざと落とすと、また水を噴出させる。

今度は初めからライトの色を変えており、青色の水が一気に噴出した。

「すごいすごい! 水がとっても綺麗!」

続けて二列目、三列目と水柱を立てていき、ライトの色を緑、黄色と変えてイルミネーションのようなものを表現した。

シューゲルの旋律に合わせるように水柱を落としては、噴出させたりを繰り返す。

旋律が激しくなれば水柱を荒々しく高く打ち立て、緩やかになれば柔らかくゆっくりと打ち立てる。

そうやって魔法を使っていると、旋律が徐々に激しくなっていくのを察した。

次は曲がもっとも盛り上がる部分となるので、一層と盛り上がるように水柱をこれまでよりも高く打ち上げた。

それでいながら中央にある円形の噴水を花にみたて、外側へと拡散していくように水を噴出させていく。勿論、それと同時に無魔法も調整して色合いを適宜変えていく。

派手な光彩と見事なスプラッシュにラーちゃんだけでなく、フローリアやエルナ母さん、使用人たちの歓声も聞こえた。

シューゲルも興奮しているのか、ヴァーシェルの音に様々な楽器の音が混ざり、アレンジも加えてきている。

魔法を使っていると俺も楽しくなってきて、シューゲルのアレンジに合わせて、水を動かしながら水龍を作りだした。

「ドラゴンだーっ!」

カグラの水龍をモチーフにしたドラゴンはラーちゃんに大うけだ。

ライトで身体を光らせたり、目を表現しているので迫力もバッチリだ。

水柱の間を縫うように水龍を動かし、宙を駆けさせていく。その様はまさに水上を支配するドラゴンそのもの。

そこに水魔法で象ったノルド父さん、エルナ母さん、バルトロなどの冒険者が集い、水龍とぶつかっては激しく水が飛び散る。

そして、最後に決まるノルド父さんの一振り。

首を落とされた水龍は崩れ落ちて水に還り、宙には剣を掲げるノルド父さんと寄り添うエルナ母さんが佇み、勝利を祝うように水柱が派手に噴出。

その動作とともにシューゲルの演奏が終わった。

途端に湧き上がる拍手の音。

お庭の水を借りて遊んだ身としては頭を下げてペコペコするしかない。

派手に水を巻き上げたせいで庭がビショビショになっているけど許してください。

「アルー! すごかったし、面白かった!」

拍手が終わるよりも前に興奮した様子のラーちゃんが駆け寄ってきた。

「喜んでもらえて良かったよ」

語彙力はないけど楽しかったのだけは伝わった。

「お姉ちゃんはどうだった?」

「…………」

「お姉ちゃん?」

「フ、フン! まあまあね!」

ぽかーんとしていたシェルカだが、ラーちゃんに袖を引っ張られると遅れて反応を示した。

まあまあなどと言っている割りには、随分と熱心に見ていた気がする。

近くに寄り過ぎたせいでちょっと制服が濡れているし。

「まさか、水魔法と無魔法を使ってこのようにショーを見せて頂けるとは。私、感動いたしました」

「うむ! 予想以上に素晴らしいショーであった!」

フローリアとシューゲルからもお褒めの言葉を頂いた。

よかった。公爵家の人たちを喜ばせることができて。

ショーを無事に終えることができて満足したので、速やかに屋敷に戻る。

シェルカをはじめとする何人かは派手に水を浴びていた。寒空の下で滞在するのは良くないしね。

テクテクと屋敷に戻ると、玄関ではとてもいい笑顔を浮かべてエルナ母さんとノルド父さんが待ち受けていた。

「アル、最後のあの演出は何かしら?」

「父さんたち、気になるなぁ」

「ショーを盛り上げるための、ちょっとした演出だよ? 別に去年ドラゴンスレイヤーの劇を見に行って、咄嗟に思いついたわけなんかじゃないからね?」

新連載を始めました。

『田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている』

https://ncode.syosetu.com/n8343hm/

異世界からやってきた女騎士との農業同居生活です。

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