魔法を埋め埋め
魔法を埋め埋め
なろうの仕様が変わりましたね。少し手間取りました。
ミスフィード家の使用人によって木っ端微塵になった魔道人形が片付けられると、ギデオンは一人での自主練習に入った。
どうやらさっき俺が詠唱破棄で発動した火球のイメージを脳裏に焼き付け、自分なりに練習してみたいらしい。
魔法技術を習得するには反復練習が大事なので、ギデオンについてはしばらく放っておくことにする。
自分でやってみてダメなら何か聞きにくるだろう。
「俺たちは何して遊ぼうか?」
「私も魔道人形を壊せるようになりたい!」
ギデオンに構う必要がなくなったのでラーちゃんに尋ねると、彼女は目を輝かせて言ってきた。
先ほどの光景はギデオンに鮮烈な記憶を植え付けただけでなく、ラーちゃんの子供心を強く刺激するものであったようだ。
これが良い結果なのはそうでないかはわからないが、自発的に何かがやりたいと言えるのはいいことだ。
「よし、なら魔道人形を壊せるように魔法の威力を上げようか!」
「うん、壊せるようになる!」
今のラーちゃんの魔力量では恐らく魔道人形を壊すのは無理なので、ひとまず威力を上げるという目標を設定しよう。
「まずはラーちゃんの得意な攻撃魔法を教えてくれるかな?」
「【風刃】と【無衝撃球】!」
うーん、風刃の方が攻撃威力としては高いが、殺傷性が高すぎるためにおっかない。
「じゃあ、【無衝撃球】を使うことにしようか」
「うん! わかった!」
無衝撃球であれば殺傷性は低いためにここで練習しても問題ないだろうし、威力の調節さえできれば暴漢に対しても使えるだろう。
公爵令嬢であるラーちゃんのためにも使えて損はない魔法だからね。
「早速、使ってみてくれる?」
「うん!」
ラーちゃんはこくりと頷くと詠唱を開始する。
手の平に無属性の球体が生成し、新しく設置された魔道人形へと飛ばす。
ラーちゃんの無衝撃球は魔道人形の胴体へと直撃し、甲高い音を立てて弾かれた。
魔道人形の装甲を見てみると、傷一つついてはいなかった。
なるほど。これくらいの威力であれば、傷がつくことはないのか。
「……どう?」
「もっと威力を上げるためには魔力を収束させた方がいいよ」
「魔力を収束?」
「外側から中心に向かって流し込むようにして球を作るんだ」
手本を見せるようにして、俺は無衝撃球を生成。
わかりやすいように球の中心へと収束させるようにして魔力を流した。
「わー、すごい! アルの作った球の方が綺麗!」
「綺麗に球になっていると魔力の無駄もないからね」
今のラーちゃんの無衝撃球は魔力が乱雑に流されているせいで魔力を無駄に消費している上に、思うような威力を発揮できないでいる。
ひとまずはそのロスを減らしつつも、威力の向上に努めるべきだろう。
「アルの言ってくれた通りにやってみる!」
俺の魔法を観察すると、ラーちゃんが再び無衝撃球を作り始める。
「【無衝撃球】ッ!」
ラーちゃんの飛ばした魔法が魔道人形に直撃した。
「さっきよりも威力が上がったね」
「うん! もっとやってみる!」
魔道人形に傷はついていないが、さっきよりも魔力の収束がされていて威力が上がっているのがわかった。ラーちゃんも自身もそんな手応えを抱いたらしい。
ラーちゃんは魔力を収束させ、無衝撃球を作り、飛ばすといった作業に没頭する。
一方、暇になってしまった俺は無衝撃球を大量に作り、地面に設置して遊んでいた。
クオリティの高い魔法を置いておけば、ラーちゃんの参考にもなるし、日課の魔力消費訓練もできるので一石二鳥だな。
などと思いながら二十個目の無衝撃球をぽとりと地面に落とす。
……なんかこれ地面に埋めたら設置型の罠になりそうだな。
中庭の地面を掘り返して埋めてみると、無衝撃球は爆散することなくそこに存在し続けた。
「おお……」
試しに石ころを投げつけてみると無衝撃球が解放され、衝撃で石ころが錐揉みして飛んでいった。
「これは使えるや」
トールとアスモをはめるための罠として使えそうだ。
地中に埋めておけば間違いなく気付かれないだろう。あいつらは魔力を感知する術を持っていないしな。
錐揉みして吹き飛ぶ姿を想像すると笑えてくる。
エリノラ姉さんは……野性的な勘で見抜いてきそうだな。
まあ、襲われた時の迎撃用の罠として使えるかもしれない。
「んんー、難しい」
俺がそんな新しい魔法の使い道を思いついている中、ラーちゃんが眉根を寄せて呟いた。
「サイキックのように魔力を浸透させ、覆うのとは違う技術だからね。少しずつできるようになればいいよ」
「……うん」
詠唱破棄するまでに至ったサイキックとは、魔力の扱い方が根本的に違うが、これも基礎的な技術なので習得すれば、火球、火槍、火矢といった他の魔法にも応用できるので学んでおいて損はないだろう。
「ところでアルは何してるの?」
「無衝撃球を地面に埋めて罠を作ってるんだ」
「面白そう! わたしも地面に埋める!」
子供の気分は常に変わりやすいもの。
他に面白そうなものがあったらすぐに飛びつくものだ。
「残念ながらこの使い方も魔力収束をマスターしないとできません」
「えー!」
「魔力の流れを一点に集中させないと、地面に触れた瞬間に破裂しちゃうからね」
収束されていない無衝撃球は指向性の定まっていないエネルギーの塊のようなものだ。
ラーちゃんの作った無衝撃球は危ないので端っこに置いておく。
「そうなんだ」
「だから俺のやつを埋めるならいいよ」
「わかった。アルのを埋める」
言う事を素直に聞いてくれたラーちゃんは、安全な俺の無衝撃球を地面に埋めた。
「……貴様らは一体何をやっているんだ?」
ラーちゃんと一緒にせっせと無衝撃球を埋めていると、ギデオンが呆れた表情を浮かべながらやってくる。
「魔法を地面に埋めています」
「……どういう思考で魔法を地面に埋めようなどと思うのか理解ができん」
「ギデオン様、こういった柔軟な発想が詠唱破棄を習得する近道になるのです」
「なるほど。そういうものか……」
それらしいことを述べてみたらギデオンが一理あるみたいな顔で頷いて埋めるのを手伝い始めた。
詠唱破棄が習得できない間は、こういった言い訳を並べ立てれば誤魔化すことができそうだな。
「すべて埋めたがどうするんだ?」
「一斉に破裂させます」
地中に埋めた無衝撃球は二十三個。
自身の魔力で形成された魔法なので俺にはどこにあるのか手に取るようにわかる。
俺はパンと手を叩くと、収束させた魔力を解放。
埋まっていた無衝撃球たちがボフッと音と立てて破裂した。
「「おおおおおおおお!」」
無衝撃球の威力は極限まで抑えたものであるが、仕掛けた罠が一斉に作動する様は爽快だった。
「何がいいのか俺にはさっぱりだが、一つだけ起動していないものがあるな」
「え? そんなはずは……」
「ほら、そこにあるだろ」
ギデオンが指を差した方を見ると、一つだけ起動せずに残っている無衝撃球があった。
「あれは俺の作った奴じゃないですね」
自分の魔力で作ったものを知覚できない魔法使いなどいない。
つまり、あれは俺の魔力で作り上げた無衝撃球ではないということだ。
「あ、そういえばさっき端っこに置いておいたラーちゃんの無衝撃球が無くなってる」
「収束の甘いものがあったから俺が修正して埋めておいた」
「あ、さすがですね」
本当に指向性のない爆弾が埋め込まれたかと思ったが、どうやらギデオンが収束して埋め直してくれたらしい。
家族の魔力とはいえ、出来上がった魔法に手を加えるなんて並の実力がないとできない。
無駄に偉そうな人だけど、魔法使いとしての実力はちゃんとあるんだな。
「ちょっと、アルフリート! なにをさせていたのかわからないけど、ラーナの服が土で汚れちゃってるじゃないの!」
などと感心していると、前方から魔法学園の制服を身に纏ったシェルカがやってきた。
どうやら学園から帰ってきたらしい。
ラーちゃんの汚れた服を見て、シェルカが走ってこちらに寄ってくる。
そのルートにはちょうどギデオンが埋め直した最後の無衝撃球があるわけだ。
「シェルカ様、ちょっと止まってくれません!?」
「言い訳は無用よ!」
なんとかしてシェルカの足を止めようとするが重度のシスコンである彼女はラーちゃんのことで思考がいっぱいだ。
「ギデオン様、先に破裂させましょう!」
既にかなり近づいてしまっているので驚かせてしまったり、土が付着する可能性はあるが、直撃するよりかはマシなはず。
そんな俺の提案に対して、ギデオンは首を横に振った。
「いや、どうせ仕掛けたんだ。人が踏んだらどのような結果になるか見てみたい」
「へ?」
「安心しろ。威力は抑えてある上に何かあれば俺がどうにかする」
実の妹が魔法地雷を踏んづけてしまうというのに、それでいいのだろうか?
ギデオンの方を見ると、彼はとても無邪気な笑みを浮かべていた。
……そういえば、この人は魔法の研究が好きだったな。
彼にとっては妹が魔法で転ぶことよりも、魔法地雷を踏んづけたらどうなるかの探求心が上回るようだ。
まあ、あの無衝撃球を埋めたのは俺じゃないし、責任はギデオンがとるからいいか。
俺がすべてを諦めて振り返ると、ちょうどシェルカは無衝撃球を綺麗に上から踏んづけていた。
「きゃっ!?」
シェルカの短い悲鳴が上がる。
魔法を踏んづけたことによって彼女の足が持ち上がり、後方へと二回ほど回転すると背中から地面に倒れ込んだ。
「あっ、ピンク」
派手にスカートが捲れ上がっているシェルカを見て、ラーちゃんがポツリとそんなコメントを漏らした。
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