サルバの王宮剣術
サルバの王宮剣術
あとがきに報告あります。
「サルバの実力もわかったし、もう街に戻らない?」
「ならん」
ロックドランを倒したことでサルバの剣術の腕は十分に理解したつもりだが、彼は模擬戦をしないことには納得してくれないようだ。
バグダッドと魔法対決をしたところまで移動すると、俺は仕方なく砂船を停止させた。
サルバとバグダッドが船を降りていく。
「どうでしたか乗り心地は?」
「……腹立たしいほどに快適だ」
一応感想を尋ねると、シャナリアは不愉快そうな表情をしながら二人を追いかけるようにして降りた。
快適だったならもっと柔らかい表情をしてくれてもいいのに。
大口を叩いた割に船の操縦が下手だとか言われるんじゃないかと思ったよ。
俺も船を降りると、サルバたちのところ寄っていく。
「よし、剣を構えろ! アル!」
「いや、剣なんて持ってないんだけど……」
「なんで剣の一つも持っていないんだ?」
剣士という奴はいつもそうだ。
いついかなる時でも他人は剣を持っていると思い込んでいる節がある。
前世よりも危険の多い異世界とはいえ、基本的に街の中なんかは平和だ。
そんな常に剣を持ち歩いているわけがないじゃないか。
「貸してやりたいところだが、これは部族の長のみが握ることのできるものだ」
「……仕方がない。小僧に貸してやるのは癪だが、私のククリ刀を貸してやる」
「いや、そんな癖の強い得物を渡されても扱えないですよ」
そんな誰もが扱えるかのようなノリで差し出してこないでほしい。
しかも、シャナリアが使っているものは本人が使いやすいようにカスタマイズされているのか異様に刀身が長い上に柄が細いカスタマイズ仕様だった。
そんなものを初心者に渡そうとしないでほしい。
「俺は自分で作るよ」
俺は土魔法を発動すると、いつも屋敷で使っている剣を土で再現した。
いつも使っている剣と使い心地はほとんど変わらないな。
いや、魔力圧縮を加えていることを考えると、いつも使っている剣よりも硬度は遥かに上だろう。
「準備はできたけど、どうしたらいい?」
「そうだな。好きに打ち込んできていいぞ。俺は――どわあっ!?」
好きに打ち込んでいいと言った瞬間に俺は身体強化を発動してサルバに斬りかかる。
まともに構えすら取っていなかったサルバだが、驚異的な反射と身のこなしでジャンビーヤナイフを身体の前に滑り込ませてきた。
「卑怯だぞ!」
「好きに打ち込んでいいって言ったじゃないか!」
こんなやり取りをシルフォード領でもやった気がする。
相手がいつでも開始していいと言っているのだから遠慮する必要なんてない。
サルバが体勢を崩している内に俺は怒涛に勢いで剣を打ち込んでいく。
しかし、サルバは素早い身のこなしで俺の剣を躱し、あっという間に体勢を整えてしまった。
「ちっ、仕留め損ねた……」
「仮にも俺は王族だというのに容赦がないな!?」
ロックドランを一撃で倒した時点で自分よりも格上の相手というのは理解していた。
だから不意をついて実力を出させる前に片付けようとしていたのだが、そうはいかなかったようだ。
「どうした? こないのか?」
サルバは半身になると、ジャンビーヤナイフを真正面に構え、左手を後ろに回していた。
彼の修めている剣術の基礎の構えなのだろう。
こんな構えをする剣士と相対するのは初めてだ。
隙があるように見えるが、どこか打ち込みがたい雰囲気がある。
しかし、こちらから動かないことにはどうにもならない。
何を仕掛けてくるかわからない相手は攻勢に回ってきたらどうにもならない。
俺は迷いを捨てて、再びサルバへと斬りかかる。
しかし、次の瞬間、俺の喉元にはジャンビーヤナイフが突きつけられていた。
「あれ?」
「ははは、これが実戦なら喉を一突きだぞ?」
いつの間に俺の懐に入り込んでいたのだろうか?
サルバの動きを注視していたつもりだが、まったく動き始めを察知することができなかったし、動きを視認することができなかった。
「……俺の負けだから終わりでいい?」
「せっかくだし、もっと続けるぞ」
「ええー? なんで? サルバの剣術のすごさはよくわかったよ?」
「凄さはわかっても王宮剣術の恐ろしさを何もわかっていないだろう?」
まあ、確かになんで喉元にナイフを突きつけられたのか何もわかっていない。
それがわからないままに終わるのもちょっと気持ちが悪かった。
「それにアルの戸惑った顔を見るのは楽しいからな」
サルバがニヤリと笑みを浮かべながら言う。
模擬戦を続ける九割の理由はそれな気がした。
気を取り直して距離を取ると、俺は再びサルバへと斬りかかる。
今回はよりサルバの動きに注視しながら、距離を詰められないように。
間合いをしっかりと保ちながら剣を振るっていく。
サルバは柔らかい砂の上にも関わらず、軽快なステップを踏んで回避していく。
取り回しのいいナイフの特性を利用し、時に弾き、湾曲した刀身を利用することで綺麗に受け流す。
……エリノラ姉さんに比べれば動きは速くない。ルーナのように身体が柔軟で予想外な動きをするわけじゃない。ルンバのように野性的な勘で回避したり、その剛腕で叩き潰してくるわけじゃない。
サルバの剣術はどちらかと言うと俺のような一般人寄りな動きだ。
それなのに剣がまったく当たる気がしない。不可解だ。
違和感を抱きながら剣を振るっていると、僅かながらサルバの身体が急に沈んだ。
そう認識した瞬間にサルバの速度が上がり、ジャンビーヤナイフが俺の剣を潜り抜けて迫ってくる。
「うわあっ!」
俺は身体を横に投げ出すことでナイフを回避。
しかし、完全に次の動きを考えていない緊急回避だったので、あっさりとサルバに背中を踏みつけられる。
「……虐待だ」
「無様に背中を見せる奴が悪い」
まったくもってその通りなのだけど、背中を踏まれるのは屈辱的だった。
「とはいえ、よく避けたものだな?」
足を退けてもらい立ち上がって砂を払うと、サルバが感心したように言ってくる。
「異様な速さの正体は緩急かなって思ってね」
「その通りだ。ラズール王宮剣術は相手を惑わし崩し、トドメを刺すのだ」
サルバに剣を打ち込んでいた時に感じていた違和感。
それは独特な歩法によってこちらのリズムが終始崩されていたからなのだろうな。
「……それはまた性格の悪い剣術だね」
「剣術なんて基本的にそんなものだろ? 相手の嫌がることを徹底的にやればいい」
ジャンビーヤナイフを手で回しながらあっけからんとした様子で言い放つサルバ。
同感だ。すべての勝負ごとにおいて、その持論は通用すると俺も思っている。
「模擬戦をしていて思ったのだが、アルはこちらの剣術の方が性に合っているのではないか?」
「それは俺の性格が悪いって言ってる?」
この話の流れでラズール王宮剣術とやらを勧めてくる俺に喧嘩を売っているとしか思えない。
「ああ、そうだ。だからこそ、こっちの剣術が合う」
拳を握りしめそうになったがサルバの表情は至って真面目なものだった。
どうやらただ俺を煽っているだけではなく、心からそう思っているようだ。
「ふーん、そうなんだ」
「というわけで、俺がラズール王宮剣術の基礎を教えてやろう」
「えっ? 別にそういうのはいいんだけど!?」
王都にやってきて剣の稽古から解放されたのに、どうしてこんな異国の砂漠なんかで稽古をしなくちゃいけないんだ。意味がわからない。
「サルバ様が稽古をつけてくださることなんて滅多にないんだぞ!? 羨ましい! もっと喜べ小僧!」
外野で見守っていたシャナリアがこちらに近寄ってくる。
憤慨している理由については彼女の私情が多分に含まれていそうだ。
「いや、そんなこと言われても剣術に興味ないですって」
「……アルは砂漠の歩き方が拙すぎる。歩法の基礎だけでも習っておいて損はない」
指導の押し売りを断っていると、バグダッドが俺の肩に手を置きながら諭すように言う。
確かに砂漠の歩き方は未だにわからないし、それが原因で足を取られてしまうこともある。
砂船の操作性の向上や、サンドボードを極めるために、歩法くらいは習ってもいいのかもしれない。
「安心しろ。アルにはこっちの剣術が性に合っている。すぐに上達するさ」
だからそれ煽っているよね?
報告です。
「転生して田舎でスローライフをおくりたい」のスピンオフ小説が発売されます。
タイトルは「転生して田舎でもふもふとスローライフをおくりたい」になります。
9月17日より宝島社から書籍1巻が発売です。絵師様は本編と同じく阿倍野ちゃこさんとなります。
主人公はアルフリートではなく、神聖イスタニア帝国の辺境伯爵家の次男アルク=コントラクトというもふもふ大好きな少年です。詳細は活動報告にてご報告します。
本編の17巻も年内か、年明けには発売するのでご安心ください。