第11話 執事とリリス
第11話 執事とリリス
歩み寄ってこっちの世界の流行っぽい服にするかと、採寸する人にお勧めを聞いたらフリル付きを挙げられたので歩み寄り終了。シャツ、ズボンと上着、寝間着をなるべくシンプルで! と念押しして二着ずつ、他に下着類と冬用のコートを注文。
高かったが金はまだある。王宮にいる女性の服の代金を考えたら男の服なんて安い物だ。今の所バカ高い武器防具を買う予定もないし、欲しいものを揃えても姉ほど金はかからない自信がある。
出来上がりは一週間後だそうだ。布やレース取り寄せたり、凝った刺繍をすると時間がかかるとのこと。人によっては染めるところから拘ると聞いてげんなりした。するわけないだろうが。
なお、鮮明な色は貴族の色だそうで、庶民は少しくすんだ色とか薄い色を着る暗黙の了解があるのだそうだ。金がかかるので鮮やかに染められないのもあるのだろう。
冒険者は名前を売ってなんぼのところがあるので、目立つ色をあえて着ることもあるそうだけど、そこは認められているそうだ。
面倒なのでシャツは白、上着とズボンは黒とチャコールグレーにした。デザインが三つ揃えの刺繍付きみたいなことになってるけど、スーツっぽいのでまあよしとする。だから膝丈ズボンとかボタン留めの靴下とか勧めてくるな!
普通は出来上がったら家に届けてツケ払いなんだが、俺の家はこの町にないし、10日後に金を持ってもう一回来ることにした。
「お嬢様!」
紅茶のおかわりを飲みながら世間話をしつつ、刺繍の見本を見せられているところに初老の男性が飛び込んできた。
「ノート」
「お嬢様、ご無事で!」
黒いスーツ、白髪、 片眼鏡 ( モノクル ) 、銀の懐中時計、執事か、執事なのか? 普段はきっちりしてそうな初老の男がレオンめがけて一直線。またツッコミどころが満載なかんじなのだが、とりあえず。
「お嬢様?」
うん?
「このノートは私の幼い頃から我が家、いやアーデルハイド家の執事を務めているのだ。しかしどうしたのだ? 何故ここに?」
律儀に俺に説明してから、執事に問うレオン。
いや、そこじゃない。一番気になるのはそこじゃない。
「申し訳ございません、私の一存で連絡させていただきました」
店主が頭を下げる。
「テイムが謝ることはないよ、適切な判断だ。――君、追っ手がかかってるよ?」
ドアからメイドの案内を受けて、涼しい顔で入ってきた赤毛の女性が爆弾発言。追ってがかかってるような人がなんで悠長に町の案内なんかしてるんだよ。
「家から放逐されたのは確かだが、お尋ね者になるような行為をした覚えはない」
「知ってるよ、君はいつでも清廉だ。だが弟君は君が生きていると不安でしょうがないらしい。あの小狡い男は不当に君を追い落としただけじゃなく、もう一つ罪をでっち上げたのさ」
お家騒動勃発中らしい。だからなんでそんな奴が井戸端に居たんだよ! あとちょっとお嬢様発言も誰か追及しろ!
「ゆっくりしてないで早く町を出ろ。手はずは整えてある」
「私に逃げる理由はない」
「お嬢様、戦略的撤退でございます」
「む……」
笑顔で告げる執事に考え始めたレオン。
コントだろうか。
「ジーン様、巻き込んで申し訳ありませんでした。服のお代は結構ですので、このことはご内密に」
「喋る相手もいない」
そっとテイムが囁いてくるのに短く答える。というか、井戸で声をかけて自分で巻き込まれたのであって、テイムのせいではない。さすがに不可抗力というかあっちが優先されることに否やはない。
「ああもう、今は急ぐんだ。おとなしく馬車に乗りたまえ!」
ゴスッとレオンの腹に一発入れる女性。
「うっ……」
体を二つに折るように自分の腹を抱き込むレオン。あれ? 強そうだったのに弱い?
「リリス様、お嬢さまはお怪我を」
「あ、わるい……」
慌てて介抱しようとするノート。
本当だ、シャツの腹のあたりに血がしみてきている。さっきの一発で傷が開いたらしい。
「って、何故ポーションを使わない!?」
女性がツッコミを入れたが、確かに。
「お嬢様が、アーデルハイド家から離れたからには家の財産は一切使えないと」
「……」
「……」
大丈夫なんですかこの人。というか、開くような怪我してるのになんで町の案内なんか買って出てるんだろう。
「……」
無言でポーションを一つ鞄から取り出して渡す俺。
「お? ありがとう。えー、君は?」
「ジーンだ」
丁寧語を使う気はもうない。
女性から受け取った執事がレオンにポーションを飲ませる。基本、ポーションは飲ませるか傷口にかけるかだ。体内の魔力と結びついた方が効率がいいため、飲ませた方が効果が高い。
「助かった。私はディーバランド家のリリス。これをやる、困ったことがあったら訪ねて来てくれ。もっともレオンと親しいのは知られている、私の近辺も 煩 ( うるさ ) くなると思うから、しばらく近づかない方がいいだろうがな」
そう言って指から抜いた指輪を渡された。家を訪ねるときに見せろってことかな?
「一応受け取っとく、でも俺は王都在住じゃないしな。今日の昼を食う場所でも紹介してくれ。あとお嬢様というのは?」
なんとなく美味い店を知ってそうな女性に聞きつつ、最大の疑問を口にする。
「昼か。酒を出す夜の店以外疎くてな」
「でしたらロマーノへ」
考え込んだ女性に代わって執事が教えてくれた。うん、で? お嬢様は?
「女だぞ。レオンの本来の名前はアーデルハイド・ル・レオラ。まあ、胸もないし強面だし、そこらの男より断然強いのとで男だと思ってるヤツらのほうが多いし、レオンと呼ばれてるな」
ニヤリと笑って説明された。
「……」
説明されても納得いかないけどね! あと「ル」がつくのは公爵家だって。「ラ」がついたら王家、「リ」は筆頭公爵家、公爵家は以前三つあったけど現在二つ。ラリルレロかよ。
隣はシーツやタオルを売ってる店だそうで、店主のテイムに紹介状を書いてもらって俺は移動。お家騒動にはかかわらないぞ。
この店は大丈夫なのかと店主に聞いたら、レオンは貴族受けはよくないし、子供は泣くけど庶民からは人気なので大丈夫とのこと。広場からここまで目撃情報はあやふやなものしか出ないだろう、と。
シーツというかファブリック屋では特に事件もなく、シーツ類を数枚、客室用のベッドカバーを購入。客室は使う予定がないのでベッドに掛けておくつもりだ。あとはタオルとバスタオルを大量に、リシュも使うしな。
宿に届けるというのを断って店を出る。こう、だいたい宅配か使用人が持って帰るらしいね。たぶん、紹介状がなかったら俺もどっかの使用人と間違えられたはず。その前に買い物できなかった気配も濃厚だけど。
【探索】で人気のない場所を選んで【収納】。さて本屋、いや飯だな。