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第136話 なぜか緊迫感

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第136話 なぜか緊迫感

漁師町に魚介を買いに行ったり、素材を収集したり、ローザ一派を避けまくったりして数日。

普段使わない酒場に執事といる。何を食べても不味いんだが、どうしてここを選んだ?

「交渉が決裂した場合、今後は来ない場所のほうがよろしいかと」

目で訴えたら執事から答えが返って来た。

交渉決裂した場合にそんなに気を遣うのか? 本日は執事に頼んでおいた人と顔合わせの席だ。

「本来なら別の街で設定したいところでしたが、私が長く離れられませんので」

執事は俺の心を読んでいる!

皿のものをちょっと脇によけて、そっとクッキーを取り出して混入させる俺。酒も良くないけど、薄いだけなので水代わりだと思えば……。

見ていた執事も何も言わなかったので、日本の感覚だからではなく、こっちの世界でも普通に不味い店なのだろう。

クランベリークッキーだが、生地に少しイチゴを混ぜてある。ばれなければいいという姿勢。肉とか魚とか食事系を出すのは思いとどまったのだから許してほしい。

「失礼します」

クッキーをもぐもぐしていると声がして、人が入って来た。

「ようこそ」

「こんばんは。本日はよろしくお願いします」

ハンカチで手を拭って立ち上がる俺。

執事喫茶の執事みたいなのが二人来たぞ? 無駄にイケメンで、髪が淡い金と銀で違うけど同じ顔。片や微笑み、片や無表情という名のポーカーフェイス。

執事ってみんなこんな感じなのか?

「……匂いがする」

「匂い?」

思わず自分の手をくんくん嗅ぐ。

今日の昼は魚をさばいた。特に魚臭くはないようだが、鼻がバカになっているのだろうか。

「――失礼」

そう言って銀色がクッキーを手袋をしたままの手に取る。

バレただと!? 執事、執事ってみんな鋭いのか? 隠し事ができないタイプ?

「……味がする」

一口かじって愕然としている様子。

「お前が?」

金色が驚いたらしく浮かべていた笑みを消している。二人的には何か事件が起きている様子だが、色々謎のままだ。

「用事ができた」

「失礼、今回のお話はなかったことに」

無表情に言ってドアから出てゆく銀色と、にっこり笑って会釈して出てゆく金色。

「……そんなに俺のクッキーはやばい味が?」

閉まったドアを眺める。

「いえ、ジーン様のお菓子は美味しゅうございます。申し訳ございません、このような反応は初めてでございます」

顔には出さないが執事も戸惑っている様子。

「とりあえず証拠隠滅して帰るか」

もぐもぐとクッキーを頬張る俺。

クッキーを食べ終えて、席を立ちドアを開けようとしたところで、執事に手で制される。俺の代わりにドアを開ける執事。

「うをうっ!」

笑顔の金色が立ってた、その背後に銀色。若干怖い。

「先ほどは失礼しました」

「仕事は受ける。代わりに先ほどの菓子をどこで手に入れたか教えてもらおう」

銀色は無礼っぽいけど、笑顔の金色のほうが胡散臭い。

雇い主にもうちょっと愛想が欲しい俺です。いや、愛想というより敬い? 違うな、普通でいい。

「お教えしかねますな。このお話はお互いなかったことに」

俺の微妙な逡巡を感じ取ったのか、執事が断りを入れる。

金銀と執事の間に緊張が走る。いや、あの何でこんなに殺伐とするんだ?

「ここで派手にやりあうわけにはゆきますまい。貴方と貴方の主人に危害を加えないと 誓文 ( せいもん ) を入れましょう」

「ついでにそこの男も入れてもいい」

ため息をついて提案してきた金色と、面倒そうに俺の方を顎で指す銀色。

誓文は精霊に誓って立てる約束事のようなもの。本のあの呪いと同じで破るとひどい目にあうのだが、自分で受け入れている状態なのでさらに縛りがきついらしい。

それは知っているのだが、危害ってなんだ危害って。

「店を開いている方ではございませんので。ですが、条件次第では定期的に私が頼みに参りましょう」

俺は口を開かない方がよさそうなので執事に任せて黙っている。でも疑問が多すぎてですね……。

「何でそんなに菓子にこだわるんだ?」

「……」

ふいっと視線をそらす銀色。

「これは普通の食事で味を感じることができないのですよ」

困ったように笑う金色。

「ふん。少ないが味のする物は他にもある、大きな妥協はしない」

憮然とする銀色。

味がしないのは嫌だな。

「で? 誰を殺す」

少し黙っていたら、銀色がイラついて口を開いた。

「……ノート?」

固まったまま執事を呼ぶ俺。

「誤解があるようですが、今回私が仲介したのは 用人 ( ようにん ) の仕事でございます」

用人は、主人の用向きを家中に伝達して、庶務を司る。だいたいやることは家令とか執事とかと同じだが、もっとフットワークが軽いというか雑務をこなしてくれる。あと、同じ家で長く続けず忙しい時だけ手伝うとか身軽な感じだ。

「……用人を雇うのになぜこんな警戒を?」

固まった笑顔で聞く金色。

「習い性でございます」

にっこり笑顔で浅い会釈をする執事。

色々突っ込んでいいか?