LNCrawler

第144話 妖精

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第144話 妖精

レッツェを送り出して、俺はナルアディードへ。剣は待っているだろうからと執事が夜のうちに注意事項と共に配ったはず。

ナルアディードの市場で適当に野菜と小麦を買い、 船屋 ( ふなや ) に向かう。島の住人が懇意にしている船屋で、先代は島から婿入りしたのだそうだ。岩礁の多い面倒な海に行きたがる船頭は少なく、俺はこの引退した先代に頼んでいる。

桟橋 ( さんばし ) の近くに人が見える。俺の乗る小舟を目視して、声をかけたのか着く頃には十五人ほどいるという村人が全員いるんじゃないかという状態に。

今回は働き盛りの男たちも漁に出ずにここにいる。購入した野菜や小麦は今日の日当がわりだ。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。ソレイユと申します」

農業文化圏なら皆様の 太陽 ( ソレイユ ) となれるように〜とかうまいこと言おうかと思っていたが恥ずかしいのでやめた。漁業だし。

とりあえず俺がやろうとしていることのざっくりした説明と、手っ取り早い利益の話、俺の代わりに島に在住する二人がいることを話す。

どんどん島から人が出て行っているだけあって、島の暮らしは楽ではない。ぶっちゃけ生活どころか食うにかつかつのようだ。魚が豊富なんで嵐が続かない限り飢えるまではいかないけど、売って金になる程ではないらしい。

まあ、ここで取れる魚はナルアディードでだって取れるだろうし、小舟しか出せないんだから仕方がない。

現金収入の話に子どもたちも含めてみんな真剣。子供達は前回来た時に飴で懐柔済みだ。大人たちには持って来た食料も効いているみたい。

まず島民には井戸掘りを頼んだ。正しくは城塞にある使われず、崩れた井戸の井戸さらい。

けっこう掘らないと潮辛いらしいので、底が砂で埋れた空井戸とはいえあってよかった。最初から掘るより砂を掻き出す方が楽だし。

今使える井戸は集落に一本あるだけなので、とりあえず自由に使える水の確保。城塞の広場と建物の地下の二本だ。

日当とは別に、龍馬居眠り堤の話を参考に二日後と四日後、完成時に進みが早く出来のいい方にボーナスを出す。なお怪我は減点。

俺はその間に金銀の仮住まいの修繕。下水は作るとしても島には井戸水しかないから、ざばざば水が流れるわけじゃない。トイレは汲み取り式で古式ゆかしい肥溜めだろうなあ。

七日後、井戸が出来上がった。ついでに金銀も島に来た。

「早くないか?」

「貴方が言いますか」

「意味がわからん」

何か言いたいっぽいのだが言えないことらしく、微妙に痺れてるのか? みたいなかんじでぷるぷるしてる二人。誓文が効いている様子。

「とりあえず仮住まいを用意したけど、家ができるまで泊まるなりナルアディードから通うなり好きにして欲しい」

まだ整え切ってないけど、あとは二人に好きにリフォームしてもらおうと思いながら家に案内する。

集落のはずれ、一番城塞に近い広めの空き家を修繕した。多分昔は城塞に近いほどいい家だったのだろうけど、今は漁に出かけやすい海側に人が住んでいる。

「どういうことですか? 私たちより早いなどあり得ない」

「あからさまにおかしい」

「お前らもな!」

ずっと黙っていたのに扉を閉めた途端、早口で言ってくる二人に鎧戸を開けて光を入れながら短く返す。何をどうやって半分以下の日程で来た?

開けたそばから鎧戸を閉める金。

「妖精の道を通ってきました。私どもはチェンジリングです」

「おい、いいのか?」

金の告白に銀が少し戸惑って聞く。

周辺に人はいなかったけれど、鎧戸を閉めたのは声が外に漏れないようにか。

「誓文で縛られているのはお互い様でしょう」

言いふらす気はもとよりないが、縛られているかどうかは自信がない俺です。

お互いの秘密をばらさない的な縛りなのだが、本人が相手の目の前でバラした秘密はバラした相手と共有できる。もうバレてるから秘密じゃないしね。

「チェンジリング」

ディノッソは精霊が 肉体 ( にく ) を持った不完全な聖獣と、人間の子との取り替えだと言っていた。不完全な聖獣、特に人型は妖精と呼ばれることが多い。

不完全な聖獣は精霊と違って、聖獣のように普通の人にも見えるし触れるが、入れ物が安定しないので人の親などに育てさせて形を学習させ、固定するとかなんとか。

妖精の道は精霊界とこっちの世界が交わる境の道。あちら側に行き過ぎると帰ってこれなくなると聞く。腕のいい魔術師が金と時間をかけて準備しても利用は難しいらしい。あと、中にいると気持ち悪くなってくるそうだ。

「ええ。どちらが妖精かはご想像にお任せします」

「いや、絶対お前だろ」

「……よくお分かりで」

妖精はけっこうおしゃべりなのだ。精霊よりだと寡黙というか、声が聞こえないそうだけど。チェンジリングの話が出た時に勇者関係だったので一応調べたのだが、こんなところで役立つとは思わなかった。

「双子じゃなくて、姿を写し取ったんだな。――よく無事だったな?」

後半は銀を見ていう。

いかん、いい加減名前を思い出さないと。誓文の時にサインを見たし、聞いたはずなんだが。……俺、フルネーム書いてないや。よく通ったな、あの誓文。

「 攫 ( さら ) う前に親が気づいた。だが、どっちが自分の子かわからなかったらしい」

「我ながらうまく 擬態 ( ぎたい ) したと思いますよ?」

唇に人差し指をくっつけて、金がふふっと笑う。

変なの雇っちゃったなこれ。