LNCrawler

第170話 正式契約

転移したら山の中だった。反動で強さよりも快適さを選びました。 — kakuyomu.jp · All chapters

第170話 正式契約

妖精は人に見える精霊の一種だと言われている。人に見えるからと言って力が強いわけでもないけど、その中でも人の世界に興味津々な奴が時々いる。で、興味がありすぎて、自分の子どもを人間と入れ替える。

まず姿を奪う。これは完全に入れ替えるパターンと、混ざるパターンがあって、混ざるパターンは美しくなるか醜くなるかどっちか。

人に見られなければ入れ替わりは一晩で終わり、人間の子どもは妖精につれていかれてしまう。そのまま妖精と暮らすか、どっかにポイされるかは妖精次第。

途中で人に見られると、入れ替わりは何故かゆっくりになる。その場合、奪うものは周囲に分かりづらいものからになるらしい。そして妖精側はそれをそのままスライドさせるんじゃなくって、人間だと思わせるものにかえることが多い。

声、笑顔、涙だとかだって。同情をひきやすいものではあるけど、もう子供が二人に増えた時点で両方殺されるか、『精霊の枝』に放り込まれるかという結果だそうだ。

どっちが妖精かを言い当てれば、変化は止まる。不正解の場合はその瞬間完全に入れ替わって人の子どもは姿を消してしまう、らしい。

精霊なんで、人間側からの整合性や意味なんかを見出すのは無意味っぽいけど、金銀の話と図書館で調べた限りだいたいこんな感じ。

人と入れ替わった妖精は、成人ぐらいにだいたい飽きて戻ってしまう。だいぶ力を失って細かいのに近くなるらしいけど。そう思うと金色は珍しい存在だ。

「んー。城内に働く人の住居を収めるつもりでいたけど、さらに広場にも作って分けた方が良さそう?」

「……お願いできるかしら」

ソレイユの頭に浮かんだのは雇いたいという黒髪の女性だろう。

住人と使用人を分断するつもりはないんだが、俺もあんまり人の出入りが多くても落ち着かないし。

昔の城塞跡なので、城の本丸はそう大きくはないが、いざという時は住人共々篭れるように庭が広い。いや、本丸も個人で住む分には十分でかいんだけども。庭の大部分は石橋を挟むので、本丸は独立してる感じ。

「広場には厨房、召使の住居、兵舎、鍛冶場、厩舎、家畜小屋、納屋、倉庫が置かれていたようで、改修は可能です。――ソレイユ様が命じたのは厩舎と家畜小屋の手入れでしたか」

だってルタと家畜がですね。

それらの建物は城塞を取り囲む壁と一体になっており、崩れた場所もあるけど本丸ほど痛んでいない。本丸は木材も多く使われてたっぽくって屋根や床が落ちてた。

「必要な人材ってメイドさんと馬丁と料理人と家畜の管理する人?」

「これだけの規模ですので警備に兵も雇ってください。欲をいえば外部委託ではない騎士も一人二人欲しい」

「泥棒よけか」

「対外向けのポーズもあるだろ、いないんじゃ侮られる」

金色の言葉に納得した俺に、銀色から補足が入る。

「商家でさえ大きなところは護衛を雇っているわ。領主ともなれば騎士や兵がいるのはステータスにもなるわね」

そういえば優秀な騎士に忠誠を誓われるのがステータスなんだっけ? 特に自由騎士。

「なんで馬は欲しいのに騎士はスルーなんだ」

「馬はすでにいて、飼う場所が欲しいんだ」

ルタは俺用です。

「下働きも数人、内向きのことに侍従や侍女もいりますね」

金色が話題を変える。

侍女・侍従は元は城の大寝室で働いていたものたちのこと。今は簡単に言うと身の回りの世話などをする人で、所帯が大きくなって仕事が細分化されると衣装部屋係とかに別れる。

ちなみに大寝室と呼ぶのは、王侯貴族も容赦なく一家一部屋に雑魚寝だった時代の名残のようです。

「 家宰 ( かさい ) はアウロとキールが分担なのだろうけれど、執事も兼ねるのかしら?」

家宰は領地の管理、執事の本来の仕事はワインの管理から始まって家の中の財産の管理。

執事が領地を管理して侍従が家の中の財産管理してるパターンとかもあるので、家の規模とか国によって違う感じ。たくさん兼任してるところも多いし。

「そういえば、契約は家を建てる職人の采配と商品の交渉代行だったな」

建て終わったら二人とは契約終了なのである。

「お? お菓子独り占め」

マールゥが反応する。独り占めかもしれんが、作る量少なくするから一人当たりの量は変わらないと思う。

「あら、アウロとキールは働かないの?」

ソレイユが意外そうに聞く。

「お前は働くんだな?」

「他に何もないし、条件が破格だもの」

銀色がソレイユに確認する。

「そうか。――名前を呼べ」

後半は俺に向けて。

「何をどうやったらそっちの契約の話になるのか」

いきなりすぎやしませんか?

「契約や誓文のし直しで、また彼の方に出てこられても困りますしね」

しょうがないというように肩をすくめる金色。

「給与はそれなりにもらう、それと菓子の作り手ももちろん教えてもらう」

「え?」

まだ俺が作ってるって気づいてないのか?

「なんだ文句があるのか。俺が繋がれてやるのだぞ」

じろりと俺を睨む銀色。

「見た目に反して脳筋なのです」

思わず金色を見たら目をそらされた。

脳筋、脳筋か。じゃあ、よくわからん理由で決断してもしょうがないな。半分くらいはソレイユが就職するからだろうけど。

「え? 何? もしかして精霊的な主従の契約するの? アウロとキールが?」

「うるさい。お前もさっさと仕事の契約を済ませろ」

銀色がぷりぷりしてる。

「アウロ、キール、改めてよろしく」

「はい、ソレイユ様」

「くたばるまでは付き合ってやるよ」

名前を呼んでも特に俺の方には変わったことはなく、アウロとキールの見た目が変わるわけでもなかった。

色んな精霊に名付けてるけど、違いがわかったのは馬の時くらいか。あれは抵抗して暴れられたしな。

「うわぁ、本当に縛られてる。信じらんない!」

チェンジリング的には違うらしく、マールゥがなんか引いている。

「ソレイユもこちらを」

マールゥを完全スルーして、アウロが出してきた商業ギルド制作の契約書に条件を書き込んでお互いに署名。

島には色々なものがあるので、関わる職人全員に一番お高い契約書で契約させてるそうだ。城の改修図も外に出ちゃ困るし、モルタルやガラスや……なんか途中で、アウロがいい笑顔で契約書を束で買ってきたのでいっぱいある。

「紹介と説明は後でゆっくり、足の手当てを先にしよう。あと店が閉まる前に女性にナルアディードで買い物をしてもらおう、必要なものを書き出してくれ」

キールがソレイユをエスコートして納屋を出てゆく。

「ラブなの?」

にっしっしみたいな変な笑いを浮かべて言うマールゥ。

「貴方も早くなさい」

「はい、はい」

きっちり契約内容は確認しているので、決して浮ついているだけのメイドじゃないのだと思うけれど。

「え、ちょっ! なんで!?」

あー。

「ヴァンの系譜か」

署名を終えたら今度はヴァンが出て消えた。火属性、戦闘能力も実は高いのか?

「誓文ではないのですが……」

アウロがつまみ上げた契約書は、焦げて最初についていたペナルティの内容が書き変わっている。いや、それを与える精霊がヴァンになっただけでペナルティの内容は同じか。

「ひいい! ヴァン? ヴァンなの!? 何をどうやっても逃げられる相手じゃないじゃない!」

「二人の時と同じで、契約するようオススメにきたんじゃないかな? よろしくマールゥ」

面倒そうなのでさっさと契約する。

「ええええええっ! ちょ、ちょっと! 腕輪、腕輪がああああっ!」

「腕輪?」

「見えてらっしゃらないのですか? 契約が済むとチェンジリングの手首に一回り模様が出るのです」

そう言ってアウロが袖を引っ張って左の手首を見せてくる。

あれか、精霊見えるようにしないと見えないやつか。思いついて改めて見てみれば、アウロの手首に緑の枝葉の模様が一周していた。マールゥには炎の模様。

「カダルにヴァン、貴方は何者ですか?」

「ジーンです、最近領主になりました」

アウロに聞かれて答える。

「名前が違うのですが……」

「なお、本名は覚えていません」

「……」